表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/53

縄文06 火

遠くの闇から、低い唸り声が響いた。


グルルルル……。


南条アリスの背筋を、冷たいものが這い上がる。


犬とはまるで違った。

もっと低く、もっと重い。

聞いただけで、近づいてはいけないと体が勝手に理解してしまうような声だった。


土の家の空気が変わる。


さっきまで火を囲んでいた男たちが、別人みたいな顔で手に取るのは石の刃、長い槍、先端で火が燃えている木の棒。


女たちは子どもを自分の後ろへ引き寄せ、火のそばに集まっている。


小さな子が泣き出した。

その声を聞いただけで、アリスまで胸がぎゅっと苦しくなった。


入口の外では、誰かが次々と木を火へ放り込んでいる。

乾いた枝が爆ぜ、炎が高くなるたび、外の闇が少しずつ押し返されていった。


そこでようやく気づく。


火を怖がっているんだ。


外の“何か”が。


また唸り声が響く。


さっきより近い。


入口の向こうを、黒い影が横切った。


速い。


目で追えないほどだった。


アリスはとっさに口を押さえる。


男たちが叫び声を上げた。

凄まじい迫力に身体が強張る。

槍を構え、燃える木を突き出す。


グルルルッ!!


獣の声も一際大きく響き渡る。


入口近くの男が火を大きく振る。

赤い火の粉がぱっと散り、その一瞬だけ闇の奥が見えた。


目だった。


真っ黒な毛皮の中に光る金色の目。


ひとつじゃない。


ふたつ。


みっつ。


暗闇の中で、いくつもの目が低く光っていた。


アリスの指先から血の気が引く。


一匹じゃない。


何匹もいる。


群れでこの場所を襲いかかり、この家の周囲を取り囲み、私達に手を出そうとしている。


みんな、本気で怯えていた。


男達の叫び声は、必死だった。

家のに2残っている女性や子供達は、本気で怯えて震えていた。


アリスは毛皮をぎゅっと握る。


ふと、隣へ気配が落ちた。


あの女の子だった。


何も言わない。ただアリスの隣へ座り、一緒に火を見ている。


強そうに見えていた横顔は、よく見ると少しこわばっていた。


その顔を見て、アリスはようやく気づく。


この子だって怖いんだ。


火の向こうで男たちが声を張り上げる。

誰かが木を運び、誰かが炎へ投げ込む。煙が増え、目が痛い。喉まで焼けるみたいだった。


それでも、炎が強くなるほど外の気配は少しずつ遠ざかっていく。


グルル……。


唸り声が離れていく。


男たちはまだ槍を構えたままだったが、張りつめていた空気がほんの少しだけ緩んだ。子どもの泣き声も止まる。


アリスはぼんやり炎を見つめた。


もし、この火が消えたら。


あれが入ってくる。


なぜか、それだけははっきり分かった。


だからみんな必死なんだ。


昨日まで、火なんてスイッチひとつだったのに。


ブルッ。


胸の奥でスマホが震える。


ブルッ。


もう一度。


アリスは毛皮の中で、そっとスマホを握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ