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飛鳥04 埴輪エピソード

仕事が終わってアパートに帰ったのは、もう深夜に近い時間だった。


レンはネクタイを緩めながら、アパートの鍵を開ける。


疲れが溜まり、身体が重い。


ソファにドサリと腰を下ろし、買ってきたおにぎりとコーヒーをテーブルの上に置く。


今日も仕事は手につかなかった。


妹が、またどこか知らない場所へタイムスリップしたらしい。

そして、色々と気になる現象も起きている。


頭が混乱している。

スマホの充電が回復した、鬼と言われて沢山の坊主に追われた、等々、いつも通り何一つスッキリした情報がない。


それについて考えたり心配を繰り返していれば、普通に仕事など出来るはずもない。


それでも、何かしないではいられなかった。


テーブルの上に開きっぱなしのノートパソコンの電源をつける。


まずは寺だ。

坊主がたくさんいて、巨大な瓦屋根の建物。


つまり、古墳時代ではなく、仏教が広まった飛鳥時代か、それ以降のはずだ。


まだ、場所を特定できるような話は少ない。

アリスから何か写真か情報が欲しいところだが、いつもあいつは突拍子もない。

だから、少しでも学生時代に暗記だけで通り過ぎた歴史の理解を深めておきたい。


ブラウザには、閉じ忘れたタブがいくつも並んでいた。


『須恵器』


『埴輪』


『大仙陵古墳』


古墳時代を調べ続けていた名残だった。


レンは一つずつ閉じていく。

クリックして消えていくタブを見ながら、そこでマウスをクリックする指が止まった。


失敗した、タイムカプセル。


アリスが言っていた、竜のような黒い雲と雷。


「……それは、おかしいだろ」


タイムカプセルが完成して、大王へ届けられようとしたその瞬間。

まるで狙ったように雷が落ち、壺が壊れた。


――偶然では説明できない。


その後に、アリスは穴に落ちて別の場所へと移動した可能性が高いが、違和感しかない。


弥生時代でもそうだった。

アリスは、ココ村の村人を逃がそうとして、それが叶った直後に穴へ落ちた。


古墳時代でも、何かタイミングが、絶妙すぎる。


それって。


――誰かが邪魔している。


「……ちっ。誰がそんな事できるんだよ」


笑えない自分の空想に、レンはつい舌打ちした。


やはり、タイムカプセルが失敗した事が、レンにとってショックだった。


アリスの考えたタイムカプセルのアイデアは、悪くなかったし、それが現代に届いたのなら、ライメッセの向こうにいるアリスは、イタズラでも何でもなく、真実になる。


きっと、自分は――真実を知りたかった。

――アリスと同じように。


くそっ!


その時だった。


閉じようとした『埴輪』のページが目に入った。


『大仙陵古墳周辺で新たな埴輪群を確認』


……こんなページ、あっただろうか。


消す前に、何となく記事へ目をやった。


すると、丸い鳥のような埴輪の写真。


レンは、思わず―――息を止めた。


「……え?」


写真には、沢山の埴輪が写っていた。


丸い体。


小さな羽。


つぶらな目。


丸い埴輪が、並んでいる。


「……うそだろ」


記事にはこう書かれていた。


『全国でも例のない形の、鳥を思わせる埴輪が数百体確認された』


レンは画面を見つめたまま固まった。


この埴輪は。


世界に一つしかない。


アリスが、あの少年と作ったはずの埴輪だ。


『丸みを帯びた鳥形埴輪は極めて珍しく…』


――シマエナガ埴輪。


これは、どういう事だ。


一体何故?


誰が?


レンはそれを考えようとして、直ぐに答えに行き着いた。


これを作ったのは、きっと――


「……はは」


思わず笑ってしまう。


そして、笑いながら、涙がこぼれていた。


「あいつ……ほんと、すごい」


タイムカプセルは壊された。


写真も消えた。


ライメッセも消えた。


でも。


「少年」の想いだけは。


千五百年という時間を越えて、未来へ届いた。


きっとあの少年は。


アリスがいなくなった後も作り続けたのだ。


一つ。


また一つ。


忘れたくなくて。


忘れられなくて。


だから未来まで残った。


何ものにも阻止できなかったタイムカプセル。


「ん?」


テーブルの上で、スマホが震えた。


ライメッセだ。


【アリス】すごい木の札と出会ったよ!


木の札?

また、わけがわからない事を。


レンが返信しようとすると、またスマホが震える。


【アリス】それと、カマッタリが住ませてくれるみたい!


【アリス】助かったぞー!


……軽い。

だが、それはグッドニュースだ。

誰だか知らないが、いつもアリスは誰かに助けられている。


【アリス】あ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。


【レン】良かったな。なに?


【アリス】馬屋の王子って知ってる?


レンは画面を見つめたまま、何度も瞬きをした。


馬屋の王子……?


「……は?」


そして思わず立ち上がる。


「マジか!」


――厩戸王(うまやどのおう)。


つまり、――聖徳太子。


「飛鳥ど真ん中じゃねぇか!!」

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