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古墳17 ごめんなさい

ある日の夕方だった。


沈みかけた太陽が、村全体を赤く染めている。

並べられた埴輪たちの影が、地面に長く伸びていた。


「今日はけっこう上手くできたかも」


アリスは自分の作った筒形の埴輪を眺めて、満足していた。


この埴輪や土師器(はじき)は、これから乾燥され、焼き上げられることになる。

模様もきれいに入っているし、どんなふうになるのか、今から楽しみだった。


背後から小さな足音がした。


振り返ると、少年が立っていた。


なぜか、その表情が緊張していて、両手を背中に隠している。


「なに?」


このところ、ずっと仲良く一緒にいたから、その変化に少し身を構える。


少年は、アリスに何かを切り出そうとしている。


少年は少し迷うように視線を泳がせたあと、そっと両手を前へ出した。


「え?」


両手の上に乗っていたのは、小さな埴輪だった。


丸い体。


ちょこんとついた羽。


小さなくちばし。


ふくらんだ顔。


「……え、え、え?」


アリスは、目を見開いたまま言葉を失った。


シマエナガだった。


アリスが以前、作ったあの小さな鳥。


そのシマエナガが、焼き上げられて、赤い完成した埴輪になっていた。


あの時、少年に酷い事をされてから、これをどこにやってしまったか記憶にない。

それを少年が見つけて、焼き上げてくれていたのだ。


目は、少年がグリグリと大きくしてしまったままだったが、形は丁寧に柔らかな真円になっていた。

不格好だったはずの形は、コロンと丸々と修正されている。


ただ、羽の大きさは左右で違うし、体も少し傾いていて、くちばしだって、ちょっと大きすぎていて、でも、それが逆にかわいかった。


世界で一つだけの、シマエナガ埴輪。


少年は照れくさそうに笑いながら、それをアリスへ差し出した。


「……くれるの?」


アリスが自分を指差すと、少年は大きくうなずいた。


胸の奥が、ふわっと温かくなった。


「ありがとう……!」


アリスは両手でそっと受け取った。


壊さないように。


落とさないように。


大切に、大切に抱える。


アリスはシマエナガ埴輪を胸に抱き、何度も何度も頭を下げた。


少年は恥ずかしくなったのか、頭をかきながらそっぽを向く。


その耳が少し赤くなっていて、アリスは笑った。


夕暮れの埴輪村に、土を焼く匂いと、草の匂いと、遠くの煙の匂いが混ざっている。


最初は怖くて、寂しくて、意味の分からない世界だった。


けれど今は。


アリスの腕の中には、シマエナガがいる。


隣には、同じ土で汚れた笑顔の少年がいる。


「……今夜、お兄ちゃんに自慢しよっ」


ぽつりとつぶやいた。


もちろん、少年には分からない。


それでも少年は、アリスが嬉しそうにしているのを見て、また少しだけ笑った。


アリスは丸いザラザラしたシマエナガを、また、大事そうに抱きしめた。



【アリス】カワイイでしょ?


そんなメッセージと共に送られてきたのは、丸い埴輪の写真だった。


初めて見る埴輪だ。

レンとしては、先日も埴輪の事を調べ回っていたから、なかなかに興味深い。


【レン】この謎の丸い埴輪なに?


レンが、聞くと、予想以上にアリスから激しいメッセージが送られてくる。


【アリス】めっちゃカワイイでしょ!


【アリス】埴輪のシマエナガだよ!? こんなカワイイ埴輪見たことないでしょ!?


言われてみれば、確かにそうだ。

目が大きいのは、アリスが怒ったと言っていた、少年の穴開け事件の名残り。


【レン】まぁ、こんな埴輪は、確かに見たことはないわけだ。


【レン】シマエナガのいる北海道から、埴輪は出土されていないらしいぞ?


【アリス】そういう問題じゃない!


【アリス】カワイイって話! 最強ビューティーな埴輪よ!


埴輪にここまでカワイイと言えるのはアリスくらいだろと、レンは心の中で笑う。


【アリス】シマエナガと埴輪の夢のコラボだよ!


【アリス】可愛すぎる! 天使! それがわからないなんて!


アリスがぷんぷんとお怒りのようで、メッセージが次々に送られてくる。


そう言えば、埴輪の件でアリスに伝えていなかった事を思い出す。

これは、伝えておいたほうが良いだろう。


【レン】埴輪ってさ。


【レン】焼く前に空気穴を開けないと、焼く時に割れやすくなるらしいぞ。


アリスからの返信が、突然静かになった。

何の話か直ぐに察したようだ。


【アリス】……え?


あの時、あれだけ怒っていたのだ。

きっと、今でも忘れてはいないだろう。


だから、少年の為にも教えておこうと、レンは続ける。


【レン】ほら、お前、この前言ってただろ。


【レン】目をぐりぐりされて、怒ったって。


【レン】あれ、たぶん空気穴だったんじゃないか?


【アリス】……うそ。


予想以上にアリスに響いているようだった。


【レン】絶対とは言わんけど、かなりその可能性高いと思う。


【レン】焼き物は中に空気が残ると割れるからな。


レンは、アリスが送ってきた画像をもう一度見た。


少し大きな丸い目。


焼き物としては、不自然ではない穴。


「……かわいい、かもな」


レンは小さくつぶやいた。


スマホは静かなままだ。


きっと今頃……。

向こうでアリスは、大慌てしている。


ちゃんとごめんなさいできるかな、あの妹は。


レンは苦笑すると、スマホを机へ置いた。


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