古墳13 須恵器
ゴォォォォォ……
地鳴りのような低い音が、大地の底から響いていた。
熱い。
その経験したことのない熱気に、アリスは思わず恐怖を覚え、腕で顔をかばった。
「なにこれ……」
目の前には、小さな山のような土の窯が二つ並んでいた。
一つは赤く燃え盛り、窯の口から炎が唸るように噴き出している。
まだ離れているのに、頬へ吹きつける風まで熱い。
その周りでは、男達が汗だくになりながら薪を次々と放り込んでいた。
裸の上半身は炎に赤く照らされ、汗が滝のように流れている。
炎は勢いよく薪へ食らいつき、轟音を響かせ、アリスを震え上がらせた。
ゴォォォォォッ!
まるで生き物だった。
隣では、少年も黙ったまま炎を見つめている。
いつもの強気な顔はない。
熱気に押されるように、身体をすくませている。
おじいちゃんはそんな二人を見ていたが、燃え盛る窯ではなく、その隣にあるもう一つの窯へ歩いていった。
こちらの窯は静かだった。
火は見えない。
その代わり、窯の口は石と土で固く塞がれている。
職人達が集まり、おじいちゃんの合図で一人がゆっくりと頷く。
甲高い掛け声と共に、男達が一斉にハンマーを振り下ろした。
そして、小山の蓋を崩し始める。
アリスと少年は、その迫力に押されながらも、ただその様子を瞬きせずに見つめていた。
蓋は破壊され、石がどけられ、土が崩される。
やがて窯の口がゆっくりと姿を現した。
その瞬間、ぶわっっと、物凄い熱風が一気に吹き出した。
「あっつっ!!!」
一瞬でアリス達の身体が高温の風に襲われる。
アリスはたたらを踏み、少年と一緒に尻もちをついた。
おじいちゃんに背中を支えられて立ち上がり、窯を見ると、またその、熱気がアリスの顔を打つ。
まだ、穴の奥は真っ赤だった。
職人達が、また掛け声と共に、長い木の棒を穴へと差し入れる。
静まり返った空気。
誰も喋らない。
慎重に。
ゆっくりと。
やがて、一つ目の器が姿を現した。
青みがかった灰色。
須恵器だ。
さっき、見たものと同じ、美しい器だった。
職人達の表情が少しだけ緩む。
次々と穴から取り出される須恵器。
職人達は、丁寧にそれを外へと運び出していく。
どれも美しい。
やがて全ての須恵器が取り出されたと思ったところで、二人の職人がまた長い棒を穴へと差し入れた。
どうやら、まだ大物が残っているらしく、2人は必死でそれを取り出そうと掛け声を掛け合っている。
男達の汗が吹き出し、アリスも身を乗り出す。
パキッ。
「え?」
今の音、何?
隣で少年が息を呑んだのがわかった。
やがて、取り出されたのは大きな、一本の壺だった。
見事な模様だった。
上は美しい青灰色。下へ行くにつれて螺旋状の模様が複雑に描かれている。
けれど、その胴に、大きく亀裂が走っていた。
誰も声を出さない。
おじいちゃんが静かに歩み寄る。
長い棒で引き寄せられた壺へ近づき、おじいちゃんは割れた亀裂を見つめた。
そして、ゆっくりとおじいちゃんは目を閉じる。その横顔は、とても辛そうで、おじいちゃんの身体がいつもより更に小さく見えた。
その間にも、男達はさらに大きな壺を引き出していく。
けれど、男達は首を振り、肩を落としていた。
大きな須恵器ばかりだった。
おじいちゃんは割れた破片を拾い上げる。
そしてアリスを見て、歩き出した。
「……?」
もう、おじいちゃんはここには用はないらしかった。
その後について工房へ戻ると、一枚の木札を持ってきた。
筆を取り、迷いなく文字を書く。
平たい木の札の上に、墨の文字が走る。
そして、それをアリスへと見せた。
『大器 作 不可』
アリスは首を傾げてそれを読む。
「大……器……」
そこまでは分かる。
「作……」
最後は……。
「不可?」
おじいちゃんは小さな須恵器を持ち上げる。
そして、それをまた下ろし、今度は両手をいっぱいに広げた。
そして、さっきの割れた須恵器の破片を並べる。
「あっ……分かった」
アリスは口を結んで頷いた。
あそこまで見せられて、あんな悲しそうな顔をされたら、流石のアリスにも分かった。
大きい須恵器を作りたいのだ。
「でも……作れない、の?」
おじいちゃんは、アリスの声に、何度も何度も頷いた。
その目には、期待が宿っていた。
続けて、おじいちゃんは、割れた破片を握りしめて。
「ハニャ」
アリスは首を傾げる。
「ハニャさん?」
あ、ハニャさんじゃないかもしれない。
ハニャって言葉は、埴輪を意味するものだ、と思う。
そして、また筆を走らせて札をアリスに見せる。
『願』
アリスをじっと見て、おじいちゃんは頭を下げる。
「え? ええええ???」
アリスはおじいちゃんの低く下げられた頭を見て慌てる。
「あ、あたし?」
「なんで……?」
須恵器なんて、何も分からない。
そんなあたしに、なんでお願いするの?
オロオロするアリスの横では、少年もまた何も言わずに立っていた。
おじいちゃんが頭を下げる姿も。
困り果てたアリスの顔も。
その全てを、少年は黙って見つめていた。




