表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/53

古墳07 古墳

「凄い!!!」


山だった。

けれど自然の山じゃない。

誰かが造った巨大な白く輝く山があった。


目を奪われていたアリスは、慌ててその光景を写真に収めると、レンへと画像を送る。


レンも絶対にこれを見たいはずだ!

この凄いの!!!


アリスはスマホを懐へ戻し、もう一度目の前を見上げる。


不思議で巨大な人工の山だった。


首が疲れるほどの高さだ。

見上げても見上げても終わらない。

横幅も学校の校庭ぐらいじゃ収まらないほと大きい。


切り取ったような断面や斜面、そして綺麗な曲線部。

表面は不思議な石で覆い尽くされて、日の光に照らされて白く煌めいている。

よく見ると三段に積み重ねられ、その段差には、ぐるりと赤いラインが美しく走っている。


「きれー!!! 凄い、凄い、凄い!!!」


斜面では、小さな人影が忙しそうに動き回っていた。


こんなに大きいのに、まだ工事中らしく、遥か遠くまで沢山の資材や石を積んだ馬の長い列が見える。


その巨大さに感動がとまらない。


隣では白い髭のおじいちゃんが、喜ぶアリスを見て上機嫌だった。


「おじいちゃん、連れてきてくれてありがとう!」


言葉は通じないので、手を合わせて笑顔でペコっと頭を下げるアリス。


おじいちゃんは、しゃがみ込み、小枝で地面へ文字を書いた。


『大王』『墓』


アリスは大きく頷くと、おじいちゃんはニカリと笑った。


変なおじいちゃんだが、アリスをここに連れてきてくれた。


今朝、ハニャさんの家から外に出たら、何故かニコニコ立っていて驚いたけど、大感謝だ。


アリスが「王墓」と地面に書いたその意図を、しっかりと理解してくれたのだ。


長いヒゲを生やしていて、目が細くて痩せていて、中国の仙人みたいな個性的なおじいちゃん。

ハニャさんがかしこまってるから怖いのかと思いきや、とても人懐っこい。


漢字バトルして仲良くなったってことだろうか。


アリスにとっても、このおじいちゃんとの出会いは大きかった。

漢字限定でも、コミュニケーションがとれるかもしれないっていうのは、心強い。


その時、スマホが震えた。

レンがさっき送った画像を見てくれたらしい。


【レン】マジかよ!


【レン】これが、古墳か!


我慢できずに、おじいちゃんに隠れてこそっとスマホを覗いたアリスはニヤリと笑う。

あのクールなお兄ちゃんがこんなに驚くなんて、本当にすごいのだ。


素早くアリスは返事を返す。


【アリス】どう? ちゃんと見つけたよ?


【レン】すごいな、昨日の今日でよくみつけたわ。


古墳を確かめると言ったのはアリス自身だ。

その古墳を探せミッションを無事にクリアしたアリスは一人で胸を張る。


アリスも、本当にここが『過去』なのかを知りたかった。

あんなにトキが沢山いるのは、不自然。

その理由が、本当にトキ絶滅前の『過去』なのだろうか。


正直、それも信じられない。

けれど、目の前に悠然とそびえ立つこの白い山も信じられない規模と美しさだ。


古墳時代には、大王様が巨大な墓を作っていたって最初に聞いたときは、何を考えてるのかわけがわからなかったけど……。


本当に、こんなの人が作れるんだ……。


【レン】今じゃ古墳って、木とか生えてるから、変な形した山なんだよ。


【アリス】今?


【レン】過去から未来へと、古墳は残る。その過程で、だんだんと草や木が生えて古墳を覆っていくってわけ。


この白い山が、未来に残ると聞いて、アリスは不思議な思いになる。

本当に、ここは過去なの?


【レン】昔は石で綺麗に化粧されてたってのは知らなかったわ


そう言われて、またアリスは山を見上げる。

この白さは、贅沢に表面を沢山の白い石で覆っているからだ。


そういえば……。

真っ赤な顔で木ゾリを引いていた男達の姿が頭に浮かぶ。


あの沢山の白い石を運んだ木ゾリの人達。

あれって、この山の為に運んできていたんだと、ようやく合点がいく。


そう思いながら遠くを見れば、まだまだ沢山の荷物を運ぶ長い列が、山に向かって伸びていて目眩がする。


レンいわく、豪族と呼ばれる人達が、それぞれ土地を治めていて、更にその豪族達をまとめているのが大王様らしい。


その力を皆に示すため、こんな巨大な墓まで造らせたという。


最初は「お墓なんかに?」って思った。……けど、目の前の景色を見たら、何も言えなかった。


【レン】これで、ここが古墳時代だってことが確かになったな


【アリス】え、なんで?


【レン】???


【レン】古墳見つけただろ? 王様の墓だぞ


【アリス】でも、ここは単なる田舎の山かもしれないじゃん


【レン】は? なに言ってんの?


【アリス】まだ、古墳みたいのを見つけただけだよ


【レン】古墳だろ、間違いなく。


【アリス】間違いなく? なんで?


【レン】こんな大きいの、多分現代には何処にも存在してないぞ?


【アリス】でも、世界のどっかにありそうだよ?


【レン】ありえん


【アリス】あたしが古墳時代にいるってことのほうがありえんでしょ


アリスは流石にスマホを触りすぎたかと、さりげなく懐へしまっておじいちゃんを見る。


相変わらずニコニコしているおじいちゃんは、あたしが山に感動しているだけだと思っているようだった。


お兄ちゃんの言いたいことは、分かっている。

頭の良いお兄ちゃんが言うのだから、きっとその可能性は高いのかもしれない。


でも、あたしは本当に過去にいるのだろうか?

とても信じられない、悪いけど。

何かもっとはっきりした証拠はないだろうか。


その時、アリスはふと思った。

この古墳は過去から未来へと残る、そうレンが言っていた事を。


だったら、これは大きなタイムカプセルだ。


これに、もし何か残せたら。


きっと、お兄ちゃんなら見つけてくれる。


……なんてね。


アリスは苦笑いした。


そんな都合のいい話、あるわけない。


それでも、その想像だけで胸が少し温かくなった。


アリスは顔を上げる。


目の前には、相変わらず巨大な白い山。

斜面の上では豆粒みたいな人達が動き回っている。


それから古墳の斜面を登っている人達へ目を向けた。


人が小さい。本当に小さい。


「あ!!!」


アリスは振り返って、おじいちゃんを見る。


おじいちゃんが、長い髭をさする手を止めて首を傾げる。


「おじいちゃん! えーと、ハニャハニャ!!!」


多分、ハニャさんは人形をハニャハニャと呼んでいた気がするのよね。


アリスはまた古墳へと目を戻す。


とても小さいけど、斜面の上、段差となっている赤いラインに、小さな人達が何かを持って作業している。


あれは、埴輪だ。


あの赤いラインは、埴輪がぎっしりと並んだラインなのだ。


赤いラインへと流れ込む人の列は、途中で途切れることなく、ずっと先まで続いていた。


アリスは思わず、言葉を漏らす。


「うそでしょ……」


振り返る。


まだ、おじいちゃんは、細い目で首を傾げてアリスを見ている。


今日、ハニャさんはついてきてくれなかった。


朝から人形作りに精を出していた。


そりゃ、当然だ。


男達が埴輪を抱え上げ、次々と運んでいる。


終わる気配がない。


たぶん、大王様は、人形を、この古墳にぐるりと並びつくそうとしている。

三段あるから、三段共、赤いラインを埴輪で作りたいんだ、きっと。


ハニャさん達、まだまだ作らなきゃ、いけないんだ。


あの優しい笑顔の向こうには、終わりの見えない毎日があるのかもしれないと、アリスは身震いした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ