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古墳05 古墳時代?

レンはベッドの上でスマホを見つめていた。


画面には埴輪の写真が映っている。

レンはその画像を指で拡大したり戻したりを繰り返す。


暗くて分かりにくい写真だったが、何度見ても答えは変わらなかった。


人や馬などの動物の姿をした様々な土人形。

アリスが送ってきた写真には、そんな昔教科書でしか見たことのない土人形達が並んでいた。


ベッドの脇にはノートパソコンが開きっぱなしになっていて、検索画面には複数の埴輪の写真。更には、何十個もタブがズラリと並ぶ。


念のために比較したが、違うのは新しさだった。


アリスの画像に写っている埴輪は、表面は汚れも欠けもなく、ツルッとしていて、白く塗られている人形もある。


「はぁ……だからなんだっていうんだよ」


この違いは、結局、最近作られたか、ずっと過去に作られたか、それだけだ。


それはつまり……。

いや、まだ結論を出すのは早い。


アリスが何処かで埴輪を作るハンドメイドをはじめた……なんてことはないだろうが、情報が足りていない。


思わずため息を吐き出し、時計を見ると、深夜午前一時を過ぎていた。


明日も仕事だ。

分かっているが、寝られなかった。


アリスが偽物だとは、もう思っていない。

あの雑な文章も、妙な負けず嫌いも、腹が立つくらい自分勝手なところも。

どれもアリスだった。


ならば説明は一つしかない。


パラレルワールド。


けれど、繋がってしまった以上、レンにとっては妹は妹なのだ。


もし、騙されていたということなら、もうそれでいい。俺を騙せるならやってみろ。

それに、うちの変わり者の妹を演じ続けて騙り通すなんて、絶対に無理なのだし。


普通ではない十歳離れた妹を、レンは思う。


目を瞑れば、自信満々に腰へ手を当てるアリスの姿が浮かぶ。

何度怒鳴っても、次の日には同じことをやる妹だった。


その時、ようやくスマホが震えた。

ハッとして、レンは反射的にスマホを手に取る。


それは、ずっと待っていた連絡だった。


【アリス】お兄ちゃん。アリスだよ。


……良かった。


生きてると連絡があってから、どれだけ人を待たすのだ。


【アリス】生きてるから大丈夫!


さっきまで死ぬかもしれないと心配していた相手が、いつも通り過ぎる。


レンは短く息を吐き出し、スマホを強く握りしめた。


【レン】本当に大丈夫なのか?


すぐに既読がつき、スマホが震える。


【アリス】大変だったけどね、なんとか


【レン】……全部話せ


【アリス】え、無理、もういいよ


【レン】だめだ。話せ


少し間が空く。


画面の向こうで、背を丸めて難しい顔で文字を打っている姿が、何となく想像できた。


返事は中々来ない。


レンはそれを待ちながら、自分が苛立っている事に気づく。


アリスが、なぜあんな燃え盛る村に入り、まだ知り合って間もない人達を助けようとしたのか。


言いたいことが沢山あった。


既読の後、ようやく返信。


【アリス】うーんとね、羊の皮を被った狼じゃなくて巫女の真似をして、シッシッって追い払って……


【アリス】あちこち火事、火事、火事よ!?


【アリス】もう無理ってなったけど、ケンケンパしたらなんとかみんな逃げてくれて、いや、あれ、私についてきただけかも???


【アリス】みんな、ちゃんと逃げたかな? あ! お米とかどんぐりとかを持って逃げたほうが良かったかも!


レンは眉間を押さえた。


頭が痛い。

何一つ状況が分からない。


【レン】待て。まず一個ずつ話せ


【アリス】話してるよ?


【レン】は? 話せてないぞ


【アリス】なんで!?


【レン】じゃ、ケンケンパって何だ


【アリス】あたしも分からない


【レン】おい、分からないのかよ


【アリス】気付いたらみんな逃げてた


【レン】……お前もか


【アリス】うん、先頭でケンケンパしてね!


【レン】……もういいよ。怪我は?


【アリス】ない


【レン】本当に?


【アリス】ない


【レン】……なんで燃えてる村に戻った


既読が少し止まる。


【アリス】ヒイラギがいたから


レンはスマホを握り直した。


【レン】だから戻るな


【アリス】でもいたし


【レン】いたとしてもだ


【アリス】だって置いていけないじゃん?


【レン】お前な


【アリス】お兄ちゃんだって戻るでしょ?


【レン】戻らない


【アリス】嘘だ!


【レン】戻らない


【アリス】戻る!


【レン】戻らない


【アリス】戻る!戻る!戻る!


【レン】……


【レン】怪我してないならいい


なんでどんぐり持って逃げるのか、ケンケンパも意味不明だし、そうなった経緯もわけがわからない。


ただ、村から知り合いを逃げ出させる事も出来、本人も怪我はないようだ。


【レン】何やってんだよ、マジで


レンはまた熱い息を吐き出す。


話を聞いているだけで、苦しくなってくる。


けれど、アリスはそういう奴なのだ。


槍を持って村を助けようとしても、レンからすると、アリスならあり得るのが恐ろしい。


レンはメッセージを送る。


【レン】今はどうしてる?


【アリス】大丈夫だよ。もうココ村じゃないところにいる。


……やっぱりか、とレンは思う。

だから、埴輪の写真になったのだ。


……もしかすると、アリスは、奇妙な場所へ突然ワープし、そして何度かそれを繰り返しているのではないだろうか。


【レン】お前、急に別の場所にワープしたりしてない?


【アリス】え?


【レン】何か、思い当たること、教えてくれないか?


【アリス】そう! 多分そんな感じある!


【アリス】周りがぐにゃぐにゃってなって、足元に穴ができて落っこちるんだよ!


レンはスマホの文字を凝視する。


足元に穴?

何のことだ?


【レン】穴のこと、詳しく。


【アリス】あたしもよくわからないよ! 急に穴が開くんだけど、目の前がぐにゃぐにゃってなって、あ、そういえばあの時もそうなってたし、何なのあれ?


【レン】あの時?


【アリス】雷が凄くて、外を見に行ったら、急に真っ白になって、その時、森の中に落ちたの


【レン】は? 森? た、頼む、わかるように話せ


レンはアリスから辛抱強く内容を確認する。


けれど聞いても聞いても、正直、意味が分からなかった。


だが、アリスが次々に場所を変えている理由が分かった。

おかしいと思っていたのだ。


縄文時代みたいな場所にいると思ったら、弥生時代、そして今度は埴輪……。


【アリス】なんか、もうわけがわからないよ。早く助けに来て


レンは何も答えられない。


実際、どうすることもできない。


明らかに、アリスは自分とは違う手の届かない場所にいる。


縄文。

弥生。

そして、埴輪。


並べるだけで馬鹿げている。


それでも、画面の向こうのアリスは本気で助けを求めていた。


【アリス】なんか、どんどん家が遠くなっていく気がするんだけど……。


その通りだ。


並行世界というだけでなく、時代までもが変化している。


ベッドへ身体を預けながら、スマホを胸の上へ置く。


そもそも、何故自分にメッセージが届くのか。


そんな世界線も、時間すらねじれたところから、このスマホにメッセージが届くなんて。


その瞬間レンは飛び上がった。


そして、スマホへメッセージを打ち込む。


【レン】おい! 今、スマホ、電力何パーセントだ!?


そうだ。


もう、このアリスが父のスマホを使い始めて、何日も経過している。


とっくに電源がなくなってもおかしくないではないか。


自分のスマホを持ったことがないアリスには気が付きにくい盲点。


もしかすると、あと数分で……。


【アリス】え、あと、95%だよ


メッセージをみて、レンは固まった。


画面を見直す。


95???


見間違いじゃない。


レンはベッドから起き上がった。


父のスマホは、もう何日も使われているはずだった。


馬鹿な。そんな事あるわけない。

普通、スマホなんて数日で電源なくなるはずだ。


【アリス】もう眠くなった


【アリス】あ、今日卵食べた。


【レン】卵?


急に話が変わって、レンは戸惑う。


【アリス】いつもご飯ばっかりだったけど、今日、ハニャさんがくれたご飯に卵と鳥肉入ってて、めっちゃウマウマだったんよ!


【アリス】あと、お箸あった!


【レン】箸?


【アリス】そう! 普通にお箸!


アリスが、酷い食生活を送っている事は想像できたが、卵で喜んでいるのに少し戸惑う。

箸もない食生活だったのかと思うと、レンは少しだけ目頭が熱くなった。

嫌いなものは全く食べないやつだったのに、よくここまでやっている。


【アリス】あと、トキ見た!


【レン】トキ?


【アリス】トキ、絶滅した鳥。知ってる?


【レン】あのトキ?


【アリス】他にある? おかしいよね?


トキは数年前に絶滅し、今は中国のトキを繁殖させようとしているはずだ。


【アリス】ここ、もしかして、昔の日本かも


レンは、自分の目を疑った。


アリスが突然言い出した事が驚きだった。


もうアリスはずっと気づかないかもしれないと思っていたのに。

まさか鳥でそれに気づくか?


【アリス】前に弥生時代とか、言ってたよね?


【アリス】じゃあ


【アリス】ここ何時代?


レンは躊躇う。


知っていたほうがいいけれど、それがアリスにどんなショックを与えるのか、まだそこまでは考えていなかった。


早く家に帰りたいと、ママに会いたいと言っていたのに。

けれど、アリスは知っておいたほうがいい。

そこは、安全な場所ではないのだと。


【レン】断言はできない


【レン】もし、埴輪が本物なら


【レン】そこは古墳時代だ


既読。


それきり返事は止まる。

しばらく返事を待っていたレンは、スマホを置く。


部屋は静かだった。

窓の外を走る車の音だけが聞こえる。


ノートパソコンの画面には、相変わらず埴輪と古墳の写真が並んでいた。


ようやくスマホが震える。


レンは大きく息を吸ってスマホを覗く。


【アリス】古墳時代?


【アリス】じゃあ


【アリス】古墳ってあるの?


レンは瞬きして、首をかしげる。


ショックを受けてない?


【アリス】正直信じられないんだけど、とりあえず、確かめてみる


【アリス】お兄ちゃん、古墳時代の事を教えてくれる?

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