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古墳04 土の村

【レン】生きてるか?


レンからのライメッセ。


アリスは、慌てて戸口前の二人から見えないように背を向けてメッセージを送る。


【アリス】生きてる


【アリス】またあとで


それだけを送って、父のスマホを懐へと戻す。


無意識に、あまりスマホを見られたくないという思いがあった。

万が一にも奪われるわけにはいかない。


けれど、僅かなレンとのライメッセだったが、その繋がりがアリスをほっとさせた。

また一人になったら、レンには色々と大変だった事を聞いてもらおう。


ふうと一息ついて、また大男と少年と向き合いながら、ふと考えた。


そうだ。

とっても大変だったのだ。


……あたし、生きてる。


……もうちょっとで、死にそうだったけど。


そう思った途端に、またアリスの目から涙がこぼれた。


土の人形に囲まれながら、アリスは自分の身に何が起こったのか、徐々に思い出す。


気づけば身体が震えて、両手で自分を抱きしめるようにうずくまっていた。


あの真っ赤な炎も、兵士達も、とにかく怖かった。

ヒイラギやおばあちゃん達を村から逃がしたくて、とにかく助けたくて、必死だった。


そうだ。


そこで、またアリスは不思議な現象に襲われた。

突然、世界が歪んで、足元が割れて落ちていく恐怖。

落ちた先はまた変な場所だった。


間違いなく、ここはアリスの家の近所でも、普通の場所でもない。


もうきっとココ村の皆には会えない。

何故だか、それだけは分かってしまった。


「……もう、いやだ」


喉から嗚咽が漏れる。


家に帰りたい。

ママに会いたい。

レンに会いたい。


レンにはまだ話したい事が沢山あった。


怖かった事も。

ヒイラギの事も。

おばあちゃんの事も。

あの燃える村の事も。


考えれば考えるほど、涙が止まらない。


その間、目の前の大きな男は必死で何かを話していた。


日本語に近い響きだった。

男の声は低く、誰かの声に似ていた。


その横では、少年がずっとアリスを見ていた。

目が合うと慌てたように視線を逸らす。

けれど少しすると、また心配そうにこちらを見ていた。


どれだけ泣いていただろう。


なんとか気持ちを落ち着けて顔を上げると、困ったように眉を寄せている大男の顔があった。


年齢が分からないくらいに日に焼けた肌に太い眉。がっしりしたアゴは、今はオロオロと斜めに傾げて揺れている。


何を言っているのかは分からないが、何となく伝わってくる。

大丈夫か、とか、泣かないで、という私を慰める優しい言葉をかけてくれているのだろう。


気の強そうな顔なのに、眉を下げて、アリスを気遣おうとしてくれている。


まだ何か言おうとしている男に、両手を上げてそれを制止した。


「も、もういいよ、ごめんなさい、泣いちゃって」


意味は伝わらないだろう。


アリスが指で輪を作り、OKサインを作ると、まだ頭をかいて首を傾げている。

無理やり笑みを浮かべて、ニコニコしてみせると、男はようやくホッとした顔を浮かべた。


横にいた少年に目をやると、じっと見つめていたらしい真剣な瞳があった。

咄嗟に恥ずかしくて目を背ける。

泣いている姿をジロジロ見られたくなくて、アリスはまた目をこすった。


アリスを思いやる温かい声が、また響く。


かなり長い時間泣き続けていたはずなのに、ずっとこの人達、アタシを見守ってくれてたのかと、更にアリスは気恥ずかしくなった。


「……………キテ…」


「え?」


大男は、アリスの着物の袖をぐいっと引っ張り、戸口を指差した。

喋る言葉の中に、『来て』という単語が聞き取れた気がした。


アリスは少し迷った。


何処かへ連れていきたいようだが、知らない場所だし、知らない人だ。

気を緩めると涙は勝手に溢れ出しそうだし。


不安げに見上げると、大男の目が優しく細まる。


やはりどこかで見たことのある目。


多分、あいつだ。

父の伊太郎。

あいつはいつも、私が怒ったり我儘を言うと、こんな目をする。

ついイラっとしたアリスは、仕方がないので立ち上がった。


ここにいても仕方がないのは確かだ。

だったら、……まぁ行くしかないでしょ。


ふんすと気合を入れて頷くと、大男は安心したように頷いて返す。

その脇で少年が続けて頷いてみせるので、その並んだ二人の顔に思わず笑ってしまう。

この二人は、きっと親子なのだろう。


大男は着物を優しく引っ張ってくれて、そして少年はアリスの後ろに回り、アリスはなんだか介護されるようにゆっくりと戸口へ向かった。


外へ出た瞬間、昼の光がアリスの泣き腫らした目に飛び込んでくる。

人形だらけの薄暗い部屋にいたせいで、思わず目を細めた。


気持ちのよい風が吹いた。

焼けた土の匂いをさっきより強く感じる。


髪を抑えながら周囲を見ると、ココ村に似た風景が目の前にあった。


やはり、電信柱も車も街灯もない、文明の力に一切頼らない田舎村。

家の作りも似ていて、床は低く周囲は木と土で覆われていて質素だった。


違うのは、人形だった。

外にも沢山の人形が並んでいるのだ。


人形、人形、人形。


大きいのや小さいのも色々ある。

黒っぽいのや赤茶色のも様々だ。


「また、人形ばっかりなんだけど? なんで?」


奇妙な光景だ。

家の周囲にあちこち棚が作られ、無数の土人形が並べられている。

たぶんみんな土を焼いた土器と同じ感じの素材の人形達。


振り向いて出てきたばかりの部屋の出口を見れば、やはりここにも棚があって人形ばかりが並んでいる。


「ん?」


よく見ると、人形には種類がいくつもあった。


人の形のものも多いが、動物の人形もある。

人は兵士タイプが多いが、変なポーズの弱そうなのや、女の人っぽいものや、顔も形も大きさも色々だ。

動物は馬が多かったが、他のよくわからない獣もあった。


「これ、鳥、だよね?」


アリスはつい顔を近づけて、それを見る。


アリスは鳥が大好きだ。


小さい頃、鳥博士と呼ばれた事もあったし、何冊も、大人顔負けの鳥の図鑑や本をよく読んだ。


だから、何の鳥の人形なのかと気になったが、抽象的過ぎて分からない。

棚の隅には、白とも桃色ともつかない羽が一本だけ挟まっていた。

鳥の飾りだろうか。

うーん、この羽根は……見覚えあるようなないような。


「……キテ」


「あ、ごめん」


男はキョロキョロしているアリスを待ってくれていた。

アリスは慌てて後を追う。


土の道を進み、村の奥へと進むにつれ、人の姿が増えていく。


皆忙しそうだ。

人形を、木のソリに沢山積み込んでいる人もいれば、家の中に何かを運ぶ人、山肌に口を開けた穴へ人形を運び込んでいる人もいる。


よく見れば殆どの人が、人形に関わる作業をしているみたいだった。


山の穴は、家の代わりの洞窟だろうか。

火を使っているのか、山側のあちらこちらで煙が立ち上っている。


皆、忙しそうだ。

時々、怒鳴ったり笑ったりする声も聞こえるが、真剣な空気に満ちていた。


アリスは首をひねりながら、腕を組む。


なんなの?

この村?


土と地味な家しかない村にしか見えないけれど、さっきの人形といい、まるでココ村とは違う。

そして、活気がある。


大男が、そんなアリスを見て、嬉しそうに言う。


「ハニャハニャ」


「え?」


また何か言っている。

意味は分からない。

けれど発音だけは妙に耳に残った。


ハニャハニャ。


変な響き。

ついぷっと吹き出しながら、アリスは心の中で大男のあだ名を、ハニャさんにすることを勝手に決めた。


ハニャさんは、人形を眺めて歩くアリスの速度を確認しながら、ゆっくりと歩いてくれている。

それに気づいたアリスは、少しだけ足の速度を速める。


それにしても。


大柄なハニャさんの背中を見つめながら、アリスは不思議に思った。


少しだけ安心している自分がいるのだ。


ハニャさんの背中を見ていると、何か懐かしい気持ちが胸に湧いている。

何故だろう?

本当に不思議だ。


やがてハニャさんは一軒の家の前で立ち止まった。


入口は他の家と同じく低く、身を屈めなければ入れそうにない。

少年が、何か言いながら中に入っていく。

ハニャさん達の家っぽいなあと、アリスが続いて中へ入ろうとした時の事だった。


バサバサッ


村の外から、大きな羽音が聞こえて、アリスは振り返った。

続いて鳴き声が聞こえる。


見れば、鳥の群れが、丁度空へ羽ばたいていくところだった。


「……え?」


何十匹もの桃色の翼を持つ鳥たちだった。


湾曲した細長いくちばし。

そして、特徴的な、朱色の目元。


どこからどう見ても……。


「トキの、群れ??? う、嘘でしょ???」


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