表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
34/54

古墳03 不思議の国のアリス

会社を出ると、夜風は生ぬるかった。


渋谷の夜は今日も明るい。


巨大なモニターが広告を流し続け、終電が近い時間になっても人の流れは途切れない。


疲れた身体を引きずるように、レンは渋谷駅へと向かう。手には、帰宅途中で飲もうと買った眠気覚ましの缶コーヒー。


「はぁ……」


今日も全く仕事が手につかず、帰宅が遅くなってしまった。

ただでさえ仕事が溜まって仕方のない状態なのに、何もかも上手くいかない。

いつもならサクッと終わる仕事も上手く処理できない。


原因は、アリスだ。

いや、アリスと言っても、ライメッセのアリスだ。


昨日からずっと、そのアリスのことで頭が一杯なのだ。


何故、紛失された父のスマホから、削除されたはずのライメッセアカウントから、こんなにもメッセージが届くのか。


そして、何故、そのメッセージの相手は、弥生時代らしい場所にいるのか。


そして、何故、アリス……を名乗るのか。


アリスが実家で普通に暮らしているのは、何度も自分の目でも確認している。

けれど、レンにはもう、このライメッセの相手が、アリスを名乗る偽物、あるいはAIとも思えなくなっている。


それに。

いや、それよりも。


そのアリスが、昨夜、燃える村に飛びこんだきり、連絡が途絶えている事が問題だった。


渋谷駅の改札をくぐり、いつものプラットホームでレンは足を止め、スマホを取り出す。


何度見ても、やはり通知はない。

すぐにポケットにしまうが、気づけば数分後にはまた手に出して眺めている。


自分でも呆れるほど、気になって気になって仕方がなかった。


当然だ。

普通、そんな危険なところに飛び込んでいくバカはいない。

けれど、アリスは自分のせいだと言って、その村へと向かった。


何度も、何度も、止めたのに、ダメだった。


最後のやり取りを見返しながら、レンは気づけば歯を噛み締めていた。


意味不明な写真。

意味不明な報告。

意味不明な時代。


夢だったと言われた方がまだ納得できる。


けれど、家族しか知らない話を知っている。

アリスしか覚えていないような事を覚えている。


あの雑な文章も。

妙な負けず嫌いも。


全部アリスだった。


だったらスマホの向こうにいるアリスは誰なんだ。

その妹かもしれないアリスが、今も危険な場所にいて、もしかしたら、もう……。


レンは大きく息を吐き出して、缶コーヒーを口へと運ぶ。


パラレルワールド。


頭に浮かんだ瞬間、自分で馬鹿だと思った。


そんなものがあるわけがない。


だが、そう考えれば説明がつく事だけは確かだった。


父のスマホがどこか別の世界へ繋がった。

その向こう側にいるアリスが助けを求めている。


馬鹿げている。


馬鹿げているはずなのに、今のレンにはそれ以外の答えが思いつかなかった。


最後に送られてきた画像も、レンには衝撃だった。

昨夜から、何度も何度も見返した。


その写真は、アリス得意の自撮り写真。

背景の満天の星空の下には、闇に沈んだ街が広がってた。

その前で引きつる笑顔を浮かべるアリス。


無数の篝火が、あちこちに浮かぶように広がっていて、僅かだが街の様子がうかがえた。

電気のない、大昔の街と言われれば、そうなのかもしれない。

そして、本当にここは邪馬台国なのかと、あちこちズームしていたら、アリスの手にしている杖が槍だと気づいた時のショック。


さらにその青い刃先は、弥生時代の象徴ともいえる「青銅器」ではないか。


アリスは、本当に過去の時代で、戦争に巻き込まれて……。

って……なんで、槍持って無理な笑顔で写真撮ってんだよ。


その時だった。

スマホが震えた。


レンは反射的にスマホを見る。


【アリス】生きてる


到着して滑り込んできた電車が、レンの前髪を揺らす。

流れ込む人の波が、動かないレンを避けて動き出す。


「……良かった」


思っていた以上に、自分は追い詰められていたらしい。

しばらく画面を見つめたまま動けなかった。


また通知が届く。


【アリス】またあとで


「お、おい……」


それだけだった。

聞きたい事は山ほどあるというのに、ずっと待っていたというのに。


何があった。

怪我はしていないのか。

本当にアリスなのか。


レンがメッセージを返そうとすると、再び通知が表示される。


【アリス】画像


「ん?」


レンは画像を開いた。


暗い写真だった。

おまけに少しぶれている。


顔を近づけても、よくわからずに画面を拡大する。


「……は?」


赤茶色の土、丸い穴、歪な口。


「お、おい」


飲みかけのコーヒーが手から落下して、プラットホームに盛大に飛び散る。


「これ、埴輪か???」


やっぱり埴輪だ。

どこからどう見ても、あの埴輪だった。


「いやいやいやいや……」


混乱する頭が、ただ、この写真の意味を理解しようと必死で回転する。

やがて、頭の中で勝手に答えが組み上がっていく。


そしてレンは、プラットホームで一人で頭を抱える。


「今度は……古墳時代なのか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ