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弥生14 ココ

猫目の男や女性達が部屋からいなくなった後も、アリスはしばらく動けなかった。


「ココ」


「ブッサ」


頭の中で、その二つの言葉だけがぐるぐる回る。


意味は分からない。けれど、あの場の空気だけは忘れられなかった。


骨が割れた時のざわめき。

猫目の男の顔。

女性達の表情。


何か良くないものを見た時みたいな空気だった。

嫌な汗が背中を流れる。


アリスは慌ててスマホを取り出した。


【アリス】お兄ちゃん!!!


【アリス】聞いて!!!


【アリス】なんかやばいかもしれない!!!


既読はすぐについた。


【レン】どうした


【アリス】今ね!!!変なことさせられた!!!


【アリス】地図みたいなの出てきて!!!


【アリス】骨並べて火で炙って!!!


【アリス】最後にココブッサって!!!


【レン】意味わからん。落ち着け


【レン】順番に話せ


落ち着けと言われても無理だった。


アリスは勢いのまま、さっき起きた出来事を打ち込んでいく。


大きな布を広げたら、地図みたいな模様があった。

石。骨。火。割れた骨。


そして。


【アリス】最後にね


【アリス】ココ


【アリス】って言ったの


【アリス】そのあとブッサって


数秒の間。

自分でも意味がわからないメッセージ。

でも、お兄ちゃんなら……。


レンから返信が来る。


【レン】……骨?


【レン】骨を焼いたのか?


【アリス】そう!!!


【アリス】バーベキューみたいに!!!


【レン】もしかして


【レン】占いさせられてないか?


アリスは固まった。


占い?


【アリス】なにそれ?


【レン】俺も詳しくはない


【レン】昔、中国とかで骨を焼いて割れ方を見る占いがあったはずだ


【レン】歴史の本で見たことがある


【アリス】え


【アリス】じゃぁ私、占いしたの?


【レン】たぶんな


そういえば、あの男、骨のひび割れ具合を見ていた気がする。

そうか、占いか。


アリスは、ホッとしてスマホを持つ手を緩める。


【アリス】なんだ!


【アリス】良かった〜


【アリス】なんであの人たち、占い程度で真剣さすごかったけどね〜


本当に良かった。

なにか、すごいことをさせられていた感がすごかったから……。


ココ、ブッサ。

でも、結構、なんだったのか。


いや、言葉が通じないから無理か。


【レン】それとお前の話


【レン】前に送ってきた写真と合わせると


【レン】かなり気になる


【アリス】なにが?


少し間が空く。

レンも考えながら打っているらしかった。


【レン】白い服の女性達


【レン】儀式


【レン】占い


【レン】鬼道


【レン】親魏倭王


アリスはスマホを見つめる。

何か不穏な気配がメッセージから漂っている。


【レン】もし俺の考えてる通りなら


【レン】お前


【レン】巫女みたいな扱いされてる可能性がある


【アリス】は???


思わず声が出た。


巫女? 私が?


【レン】俺も確信はない


【レン】だが、お前の着ている服も巫女衣装にも見える


言われてアリスは自分の着させられた服を見る。

確かにあの女性達と同じというより、あの壇上にいたママ激似の人が着ていた物に近い。

あの人はもっと豪華だったけど…。


【レン】弥生時代は


【レン】小さな村や国が沢山あった


【アリス】???


突然、歴史の先生みたいなレンのライメッセに、アリスは首を傾げる。


【アリス】どうしたの? お兄ちゃん?


【レン】村同士で、戦ったり従えたりしながら大きくなって国になっていく、そういう時代だ


【レン】そして占いは結構重要だったと言われている


【アリス】おーい、聞いてないこと送ってくんな〜


【レン】聞け


アリスは唇を噛む。

何か嫌なことを送ろうとしてきているのは分かった。

何を言いたいのかさっぱりだけど、ただアリスの中の嫌な予感が膨らんでいく。


【レン】お前は、巫女で


【レン】そんな国で占いをさせられたのかもしれない


レンが言っている意味が、さっぱりわからない。


ただ、ここがアリスの知っている世界とは違うのは事実だった。


それは、毛皮を着たどんぐり達のいた集落でも、泥だらけでお米を育てていたおばあちゃん達の村でも、嫌になるくらいに感じていた。

アリスの常識が通じないし、奇妙な風習で生活してるし、どう考えてもおかしい。


レンのいう、弥生時代、がヒントなのかもしれない。


ここの村や謎の儀式をしている人達は、弥生時代を模して暮らしている宗教団体なのだろうか?


【アリス】私が巫女で


【アリス】さっきの占いをしたとして


【アリス】ココって何?


【レン】知らん


【レン】でも地名かもしれない


地名。


その言葉を見た瞬間だった。


アリスの脳裏に、また子供達の声が浮かぶ。


子供達の笑い声。

走り回る足音。

土の匂い。


そして。


ココ!

ココ!

ココ!


あの子達も、地面や建物を叩いて、何度も言っていたけど……。


「あ……」


思わず声が漏れた。


そうだ。

なんで、気づかなかったのだ。


【アリス】お兄ちゃん


【アリス】分かった!


【アリス】ココって、あの村だ!!!


既読。


すぐに返信が返ってくる。


【レン】可能性はある


【アリス】だよね


指先が少し震えた。


じゃあ。

ブッサって何だろう。


あの時の空気。

猫目の男の顔。

女性達の反応。


良い意味には見えなかった。


【アリス】お兄ちゃん


【アリス】ブッサって


【アリス】悪い意味だと思う?


既読が止まる。


レンも考えているらしい。


やがて返信が来た。


【レン】分からん


【レン】でも


【レン】良い占いの結果には思えないな


その一文を見るまでもなかった。


アリスは、ブッサという言葉も、何度も耳にしていた。


胸の奥が重くなった。


槍を持った男達が、焼けた村で嬉しそうに笑って叫んでいた言葉だ。

何度も、槍を地面に叩いて。


焼けた村の匂い、暴力的な男達の下品な笑い。


嫌だ。


ふいに、浮かんだのは、おばあちゃんと、ヒイラギの顔だった。


それに村の子供達。


おコメをほぐしながら笑っていた女性達。


みんな真っ黒で、元気だった。


【アリス】お兄ちゃん


【レン】何か思いつく事あるか?


何だろう。

説明できない。


【アリス】あたしが、占いしたって、本当?


【レン】多分な


【アリス】あたしの占いで、ココ、ブッサ、って


【レン】どうした?


【レン】まだ何も分かってない


その通りだった。


何も分かっていない。


ココも。ブッサも。占いの意味も。



【アリス】お兄ちゃん


少しだけ迷ってから、アリスは打ち込んだ。


【アリス】私


【アリス】ココに戻りたい


送信したあと、アリスはスマホを胸に抱えた。

どうしようもないほど、不安だった。


しばらくして、スマホが震える。


【レン】おい


【レン】やめておいたほうがいい


【レン】危ないことはするな


レンもその村に戻ることに、嫌な予感を覚えているようだった。


けれど、その言葉で、アリスは思いは、確信に変わる。


何か、あの村に、良くないことが何かが起きるのだと。


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