縄文02 投げ出された先
気づくと、土の匂いがした。
湿った草の感触が制服越しに伝わってくる。冷たい夜風が頬を撫で、どこかで虫が鳴いていた。
アリスはうつ伏せのまま、荒く息をした。
頭がぐらぐらする。
何が起きたのか分からない。
ただ、全身が嫌な汗でじっとりしていて、怖くてすぐには顔を上げられなかった。
ようやく顔を上げて、息を呑む。
空があった。
しかも、ありえないほどの星だった。
「……え……」
思わず声が漏れる。
呼吸を忘れるほどの星空だった。
やっぱりおかしい。こんな、空全部に光があるような星空、近所で見たことがない。
生まれて初めて見る、怖いくらい広い夜空だった。
視線を落とす。
暗い木々に囲まれた森の中だ。
星明かりのおかげで、足元くらいはなんとか見えた。
アリスは立ち上がって、ぐらつく足に力を入れる。
大きく息を吐き出して、周囲をゆっくり見渡した。
……どこにも、家がない。
道路もない。電柱もない。車の音もしない。
静かすぎた。
「……なにここ……」
涙がにじむ。
その時、ポケットの中で突然光が点いた。
「ひゃっ!?」
父のスマホだった。
震えている。
画面にはライメッセ通知。
【レン】 アリス、何かあったのか?
「お兄ちゃん……!」
南条アリスの手が震えた。
六月のはずなのに、夜風が制服のままの身体に刺さる。
知らない場所の冷たさに、思わず肩を抱いた。
【アリス】 わかんない
すぐ既読。
【レン】 は?
【アリス】 なんか変なとこにいる
【レン】 は? 家じゃないのか?
アリスは周囲を見回した。
家も、道路も、電柱も、自販機もない。
ここ、本当にどこなの?
怖くて、また涙がにじむ。
【アリス】 ない
【レン】 は?
【アリス】 ほんとになんもない
既読が止まる。
風が草を揺らし、虫の声が耳に刺さった。
怖い。
スマホがまた震えた。
【レン】 電話したけど、繋がらない
【レン】 お前、どこにいるんだ?
慌てて父のスマホを見る。
圏外。
「……え?」
電話、できない。
助けてって、言えない。
その事実が、急にたまらなく怖くなった。
【レン】 よくわかんないけど、とりあえず周り撮って送れ
その一文に、少しだけ息ができた。
いつものお兄ちゃんだ。
アリスはスマホを握り直した。
真っ暗でうまく映るか分からなかったけれど、とりあえず森へ向ける。空へ向ける。
パシャ。
送信。
……送れない。
送信エラー。
「うそ……」
もう一度。
パシャ。
送信。
……またダメ。
「なんで……!」
もう一度。
数秒後。
【レン】 星やば
なんとか何枚か届いたらしかった。
アリスはもう一度、空を見上げた。
さっきと同じ星空なのに、今は違って見えた。
自分だけ取り残されたみたいだった。
その瞬間、急に寒さが身体の奥まで入り込んできた。
まるで、季節が冬に戻ってしまったみたいだった。
【アリス】 ねえ
【レン】 ん?
少し迷ってから、震える指で打つ。
【アリス】 帰りたい




