弥生04 違和感
レンは、何度目か分からないライメッセの画面を見つめていた。
『助けて』
意味が分からない。
アリスは家にいる。すぐ隣の部屋にいて、さっき会った時も、何も変わらない様子で普通に日常を過ごしていた。
なのに、父のスマホから届くライメッセの相手は、自分をアリスだと名乗り、どこか知らない場所へ閉じ込められているみたいなことを送ってくる。
父のスマホは失くなっていた。
家に忘れたはずなのに見つからず、最後に触ったというアリスも知らないと言う。結局、昨日、父は新しいスマホを買い、ライメッセも新しいアカウントに切り替えた。
つまり、このメッセージを送ってきているのは、父のスマホを持っている誰かということになる。
そこまでは、はっきりしていた。
もう既読はつけていない。通知だけ確認している。
それでも相手は、寂しい、助けて、と繰り返してくる。
警察に言うべきだし、親にも話すべきだ。そんなことはレンだって分かっている。
なのに、動けなかった。
そんなこと、あるわけがない。
……だったら、なんでこんなに気持ち悪いんだ。
胸の奥ではずっと警鐘みたいなものが鳴り続けていた。
レンは過去のやり取りを遡った。
送られてきた写真は何枚かある。
木。
知らない景色。
黒い土の器。
何度も見たはずの写真をぼんやり眺めていて、ふと思いついた。
だったら、本人に聞いてしまえばいい。
アリスなら、何か分かるかもしれない。誰かにイタズラされるような心当たりがあるとか、何か気づくことがあるかもしれない。
レンは立ち上がり、そのままアリスの部屋へ向かった。
ノックもそこそこにドアを開ける。
「おい」
ベッドでだらけていたアリスが、面倒くさそうに顔を上げた。
「なに?」
レンはスマホを差し出す。
「これ、なんだと思う?」
送られてきた画像の一枚を見せる。
アリスは画面を覗き込み、ほんの一瞬だけ動きを止めた気がした。けれど次の瞬間には、いつもの調子で笑う。
「え? 縄文土器に決まってるじゃん」
その答えに、一瞬だけレンの肩から力が抜けかけた。
やっぱり、ただのイタズラか。
そう思って、この妙なライメッセのことを説明しようとしたのに、なぜか言葉が出てこなかった。
「なに? 社会のテスト?」
その時、レンのスマホが小さく震えた。
ライメッセだ。
アリスが不思議そうに画面を見ようと身を乗り出す。
レンは反射的にスマホを引っ込めた。
「……邪魔したな」
「変なお兄ちゃん」
背中にその声を聞きながら、レンはドアを閉めた。
静かな廊下に立ち尽くし、手の中のスマホを見る。
黒く、少しいびつな形。表面には縄を押しつけたような模様。
どう見ても縄文土器だ。
さっきアリスは、それを当たり前みたいに答えた。
でも、ライメッセの相手は違った。
『黒い器……』
そう送ってきていた。
まるで、それが何なのか分かっていないみたいに。
レンはスマホを握る手に力を込める。
……いや、待て。
むしろ、なんでアリスは即答できた?
胸の奥がざわついた。
説明できない。でも、何かがおかしい。
……この違和感は、なんだ。




