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縄文10 食事

夜が深くなるにつれて、火のまわりへ人が集まってきた。


南条アリスは毛皮を抱えながら、ぼんやり周囲を見ていた。


丸い土の家は七つくらい。集落の中央にはいくつもの火が焚かれ、そのまわりに三十人ほどの人が集まっている。


走り回る子どもの数がやけに多い。歯の少ない年寄りらしい人たちは火のそばに座り込み、女たちは大きな土の器を動かしながら、木の棒で中をかき混ぜていた。


男たちは今日の獲物をみんなで分けている。


黒光りする石で、笑いながら皮をはぎ、肉を切り分けている。


ちょっと引く。


でも、今日ちゃんと獲れたんだっていう嬉しさは、アリスにも少し分かった。


やがて、肉の焼ける匂いが漂いはじめた。


歓声が上がる。


女たちは作業の手を止め、子どもたちはさらに元気に走り回った。


昼に助けた若い男も、その中にいた。


火に照らされた横顔が見える。


ぼさぼさの長い髪。日に焼けた肌。腕には細かな傷がいくつもある。


いかにも“野生”って感じなのに、笑うとちょっとだけ空気が柔らかくなる。


変な人。


……いや、そういうんじゃないけど。


そこまで考えて、アリスはぶんぶん首を振った。


なに考えてんのアタシ!?


近くで、子どもたちがきゃっと笑った。


どうやら食べ物をもらったらしい。


昨日から助けてくれている女の子も、その隣で笑っている。


みんな、今日ちゃんと食べられることに安心しているんだ。


アリスは火を見つめた。


煙は目にしみるし、服は獣くさいし、不便だらけだ。


なのに、焼ける匂いだけは容赦なくお腹を刺激してくる。


ぐぅ……。


「っ……」


思いきりお腹が鳴った。


恥ずかしくて、毛皮をぎゅっと握る。


その時だった。


若い男が、こっちを見た。


そして、火で焼いた小さな肉を持って立ち上がる。


え。


もしかして、私?


若い男は、アリスの前まで来ると、それをすっと無言で差し出した。


「……え?」


アリスは目を瞬かせた。


ど、どうしよう。


男は、早く取れと言いたげに少し手を動かした。


アリスは恐る恐る受け取る。


指先が熱かった。


でも、もう我慢できない。


かじる。


「……っ」


硬い。


ちょっとクセのある匂いがする。


味付けなんて何もない。


なのに。


めちゃくちゃ美味しかった。


涙が出そうになる。


夢中で食べる。


小さくて、あっという間になくなった。


全然足りない。


「え、もうないの……?」


もっと食べたい。


自分でもちょっと引くくらい、そう思った。


若い男はそんなアリスを見て、くすっと笑うと、また火の方へ戻っていった。


アリスはため息をついて、集落を眺める。


どう見ても文明レベルゼロっぽいのに、ちゃんと晩ごはんしてる。


ここにいる人たちは、毎日こうして食べ物を取っている。


学校もない。


コンビニもない。


ゲームもない。


でも、誰もぼーっとしていない。


火を守る人がいて、食べ物を分ける人がいて、子どもを見ている人がいて、毛皮を縫っている人がいる。


みんな、今日をちゃんと生きていた。


その時、胸の奥でスマホが冷たく触れた。


アリスはハッとして毛皮の内側を見る。


通知の点滅。


あ……。


慌てて画面を開く。


レンからのライメッセだった。


【レン】 今から実家行く


アリスの目が大きくなる。


お兄ちゃん。


お兄ちゃんが、ちゃんと私を助けようと動いてくれていた。


みんな、今頃きっと私を心配している。


父さんも、ママも。


絶対に探してくれてる。


帰れるかもしれない。


ううん。


絶対に帰れる。


アリスは急いで文字を打つ。


【アリス】 早くたすけて

【アリス】 まだずっとへんなところいる

【アリス】 森の中だよ!

【アリス】 家帰りたい!!!


送信。


既読はつかない。


アリスはスマホを握ったまま待った。


返事は来ない。


……今、きっとみんなで私を探してくれてる。


そう信じるように、アリスは借りた父のスマホを胸へ押しつけた。


火が揺れる。


煙が夜空へ流れていく。


若い男が火へ木をくべた。


赤い火の粉が、ふわっと夜へ舞い上がる。


男たちは笑いながら肉を回し、女たちは土器の中身をよそい、子どもたちは火のまわりを走り回っていた。


それを見ながら、アリスはふと思った。


ここ、変な場所じゃない。


ちゃんと、人が生きてる場所なんだ。

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