ようこ、困る
イークラトの道具店に向かう途中、おばあさんは一軒の家に大行列ができているのを見つけた。
「猫ちゃん、すごい行列ね」
「はい、洋子殿。実はあの家の中に封印されたドラゴンの魔法使いがいるのです」
「あら、そうなのね」
「おそらく、プレイヤーたちは眷属にしようと並んで待っているのでしょう」
「だって、強いんですものね」
「そうですね。いつか洋子殿には会っていただきたいのです」
それを聞いたおばあさんは、ふと家の中を見てみると、格好をつけながら足を組む細身のイケメンが居た。
おばあさんは目を細めてイケメンを見ると黒猫に尋ねた。
「あの細身の人がドラゴンの魔法使いなのかしら」
「はい、その通りです」
「あら、なんだかわからないけど、あまり好きな感じの人じゃないわ」
「それは聞き捨てなりませんなっ!」
「ええ!?」
なんとイケメンはおばあさんたちの前に突然転移してきた。
「私はドラゴンの封印された魔法使い。あなたが好きか嫌いかではなく、好かれているのです!!」
おばあさんは言っている意味がわからず、首を傾げて黒猫に言った。
「猫ちゃん、いきましょうか」
「はい、洋子殿」
おばあさんは黒猫と一緒に歩き出した。
「ご婦人! 恥ずかしがらずにお待ちを!」
すると、ドラゴンの魔法使いは再びおばあさんたちの前に現れた。
「ご婦人、私のこの美貌に……」
「ごめんなさいね。わたしたち道具屋に行くんです。ちょっと道を開けてくださいね」
おばあさんたちはまた、ドラゴンの魔法使いの横を通って道具屋へ向かった。
すると、ドラゴンの魔法使いは道の真ん中でポーズを決めながら立ち止まった。
おばあさんたちはそのまま近くの道具屋に入ると、ロビが微妙な表情をしながらおばあさんに言った。
「洋子さん。あのポーズ決めている人、店の外から見てますけど……」
「ええ!?」
おばあさんが店から外を見てみると、無駄に格好をつけたポーズで立っている魔法使いがいた。
「ほんとうに変わり者なのねぇ」
おばあさんはそう呟きながら解毒草と耐麻痺草を手に取ると、嬉しそうに幾つか購入してアイテム欄に仕舞った。
ロビはどちらも100個ずつ購入しておばあさんに言った。
「もしピンデチに居るときに必要だったら言ってくださいね。お分けしますので」
「まぁ! ありがとうございます。とても心強いわ」
「いえいえ、お任せください。では、そろそろ帰りましょうか。でも、あのポーズを決めている人はどうしましょうか……」
「そうねぇ。でも、外に出ないと帰れませんものね」
おばあさんはそう言って店から外を見ると、ドラゴンの魔法使いは大勢の眷属にしたいプレイヤーたちに囲まれていた。
それを見たおばあさんが小声で言った。
「今がチャンスよ、行きましょう」
おばあさんの合図に、みんなは小走りで店から離れると、町の入口へ向かって早足で歩いていった。
そして、もうすぐで入口というところで、おばあさんは急に思い出してロビたちに言った。
「あ、そうだわ! ドラゴン大福を買わなくちゃ。すみません、ちょっとだけ待っててください!」
おばあさんは慌てて走り出すと入口近くの土産物店に入った。
そして嬉しそうにドラゴン大福を抱えると、レジで精算して購入した。
「思い出して良かったわ。なかなかイークラトなんて来れないものね」
おばあさんはそう言いながら店の外に出ようとすると、突然ドラゴンの魔法使いが現れた。
「ご婦人、イークラトにはなかなか来れないのですか?」
「あらあらあら!!」
おばあさんが驚くとドラゴンの魔法使いはドラゴン大福を指差しがら言った。
「ご婦人、それはまさしくドラゴン大福! やはりドラゴンの私が好きなのですね」
「うっふっふっふ! もう、そこまで言われると、なんだか可笑しく聞こえてくるわね」
「私の言葉が可笑しく聞こえるとは、ご婦人の耳は確かですか!?」
「もう、本当に面白いわね。ところであなた封印されているんじゃなかったの?」
「私は封印されているのでは無く、封印させてやっているのです!」
「あら、どっちも同じじゃない。まぁいいわ。わたしはもう帰りますからね」
「なんとご婦人、帰るのですか」
「そりゃそうよ」
「では私も」
『サイドクエスト、ドラゴンの魔法使いをクリアしました』
「え?」
そこへ黒猫がやってきておばあさんに言った。
「洋子殿。そのドラゴンの魔法使いは、すでに洋子殿を主人としています」
「ええ!?」
ドラゴンの魔法使いはポーズを決めながら言った。
「わが主よ! この気高き私を眷属としたことを誇りに思って良いのですよ!」
するとおばあさんはしゃがんで黒猫に尋ねた。
「ねぇ、猫ちゃん。この人どうやって眷属を解除するのかしら」
それを聞いたドラゴンの魔法使いは突然両膝をついておばあさんにすがりつきなが言った。
「わが主よ! おまちください! きっとお役に立ちますので! やっと封印が解かれたのです! 連れてって!!」
「あら……。なんだか少し可愛そうね。とりあえずピンデチに帰ってから考えましょうか……」
「はい!!」
おばあさんは店の外に出てみんなと合流し、事情を話してピンデチへ戻ることにした。
◆
おばあさんたちは町の外に出てロビがモービルを出現させようとすると、突然ドラゴンの魔法使いが大声で言った。
「みなさん、ピンデチへ帰るのですよね! ならば私がみなさんをお連れしましょう!」
ボワン!!
ドラゴンの魔法使いはそう言うと、大きな黒いドラゴンに姿を変えた。
「「おおーー!」」
みんなが驚くと、ドラゴンはドヤ顔をしながらみんなに言った。
「さぁ、背中に乗ってください! ピンデチまでひとっ飛びですよ!」
するとおばあさんが冷静に答えた。
「ドラゴンさん、背中が高すぎて乗れないわ」
ウンウン。
みんなも大きく頷いた。
「え、あ、ちょっ」
ドラゴンは慌てながら地面にベッタリと伏せてみた。
「こ、これで、いかがでしょうか」
それでもおばあさんの身長よりも高かった。
「ドラゴンさん、ちょっと無理ね」
「あっ! じゃあ羽から登ってください!」
ドラゴンは羽を地面に降ろしたが、かなり急勾配だった。
「ドラゴンさん、気持ちだけは頂いておくわ」
ヒュゥゥゥウ……
ドラゴンは人間の姿に戻った。
それを見たロビは笑顔でモービルを出現させ、結局全員モービルに乗って港まで向かった。
ドラゴンはモービルの後部座席の端でしょぼくれながら言った。
「洋子様、面目ございません」
「ドラゴンさん、役に立とうとしてくれたのよね。その気持だけで嬉しいわ」
「なんと洋子様! 嬉しいと! なんたるお言葉!」
ドラゴンは急に元気になるとポーズを決めた。
「ねぇドラゴンさん、猫ちゃんみたいに小さくはなれないのかしら」
「洋子様、この姿がお気に召しませんか?」
「ええと、ミツさんが狭くなっちゃって」
ロビのモービルは4人乗りだったので、後部座席が3人でギュウギュウだった。
「こ、これは失礼いたしました!」
ボワン
するとドラゴンは手のひらに乗りそうなサイズの小さいドラゴンになった。
「あら、この姿いいじゃない。小さくて可愛いわ。ドラゴンちゃんって感じね」
「なんと喜んでいただけるのですか! ではずっとこの姿でおりますので!」
ドラゴンは嬉しそうにすると、黒猫と一緒におばあさんの膝の上に座った。




