アカネ、名探偵
おばあさんたちは店の中で集まると、マユがみんなの前に出て今日の割り当てを発表した。
「哲夫さんと和代さんは、ピンデチのお店をお願いします」
「「はい」」
「美咲ちゃんは時間がある時に砂漠キノコをお願いできる?」
「うん、もちろん」
「あ、洋子ちゃん、猫ちゃんに乗ってシャームに行けるんだよね!」
「ええ」
「じゃあ、先に行って2号店の店番お願いしていいかなぁ」
「わかったわ」
「わたしはコーシャタで買い物してくるから、メイとナミは溶岩に行ってからシャームで合流ね」
「おっけー 」
「ぅん」
「では、今日も一日がんまりましょう!」
「「おーー!」」
その時、おばあさんはふと思い出して言った。
「あ! そうそう忘れてたわ」
おばあさんは魔キノコと魔法陣せんべいをお店のカウンターに出現させた。
「「おおーーー!」」
「魔キノコとお土産の魔法陣せんべいよ」
するとマユが嬉しそうに言った。
「やった、これで魔法回復薬ができるね!」
「ええ! それにその魔法陣せんべい、とっても美味しいのよ。10枚ずつどうぞ」
「「ありがとう!」」
みんなは笑顔で10枚ずつもらった。
◆
おばあさんはシャームへ行くために店を出ると、黒猫に乗って村の外へ向かったが、最近人口が増えてきたピンデチでは目立ってしまった。
「あ、かわいい!」
「猫いいなぁ。ライトモービル?」
「どこで売ってるんだろ」
「あれ、ライトモービルだよね」
「え、やっぱガチャ?」
おばあさんは周りを見て黒猫に言った。
「猫ちゃん、村の外までは歩いていきましょうか」
「わかりました」
黒猫は小さくなった。
「あ、小さくなった」
「猫かわいい~」
すると女の子のグループがおばあさんのところへやってきた。
「すみません、突然ごめんなさい。この猫はどこで手に入れたんですか?」
「え? ええと、マガイルーっていう所の丘の上よ」
「マガ……、ど、どこだろう?」
それを聞いた黒猫が説明した。
「ピンデチから海を渡って、洞窟を抜けた先にあります」
「わっ! しゃべった!」
女の子たちは一斉に黒猫に驚くと、黒猫は女の子たちに眷属の説明を始めた。
「皆さん、この世界には鳥や犬、ヤギや羊、天使や悪魔など、様々な『封印された魔法使い』が、眷属になるために皆さんを待っています」
「ええ、犬いい!」
「羊も良くない?」
「ピンデチにも居るのかなぁ」
「はい。ピンデチにはウサギの魔法使いが森の中にいるはずです」
「うさぎ!」
「うさぎ、かわいいね」
「森に行こうよ!」
「「うん」」
「ただし、会話次第では攻撃してきますので気をつけてくださいね」
「え……」
「うそ、ちょっと怖いね」
「どうしよう」
「ですが、ご安心ください。ピンデチのうさぎは睡眠の魔法使いですので、しばらく寝てしまうだけです」
「え、なら良くない?」
「うん」
「やっぱり森に行こうよ!」
「猫さん、ありがとう!」
女の子たちは黒猫にお礼を言うと森のほうへ走っていった。
おばあさんは村の外へ向かいながら黒猫に尋ねた。
「あら、世界中に猫ちゃんみたいな動物がいるのね」
「はい。あの前から歩いてくるエルフの肩にはカラスが乗っていますが、あれはバリードレのカラスの魔法使いです」
「あら、一緒に飛べたりするのかしら」
「はい。ただし短い距離で低空ですので範囲は限られます」
「そうなのね」
「ちなみにイークラトという所にはドラゴンになる魔法使いがいますが、まだ誰も封印を解いた者は居ません」
「あら、気難しい魔法使いなのかしら」
「ええ、かなり」
「でもいつか会ってみたいわね」
「我々は、プレイヤーの行動履歴や言動で主人を決めますので、ぜひ洋子殿には会って頂きたいです」
「うふふ、そうね。この世界の人たちとは、たくさん仲良くなりたいわ」
それを聞いた黒猫は少し嬉しそうにした。
おばあさんたちは暫く歩いて村の外へ出ると、黒猫の背中に乗ってシャームへ向かった。
その頃G区画の家では、おじいさんとイリューシュが、めぐと一緒に歌詞を書いたメモを探していた。
めぐは昨日ログアウトする前、テーブルの上に歌詞を書いたメモを置いておいたが、今日来てみたら無くなっていたのだった。
「ううん……、やっぱり無いなぁ。せっかく歌詞書いたのに……」
それを聞いたイリューシュは、不思議そうな表情でテーブルの上のピピちゃんを撫でながら考え込んだ。
「おかしいですね……。この家は私が権限を付与させて頂いた人しか入れませんし……」
バタン!
「ちーっす!」
そこへアカネが玄関を開けて現れた。
めぐは驚いてアカネに尋ねた。
「あれ? 二階で練習してたのかと思った。今日は朝から練習してなかったの?」
「今日はケガを見てもらってる病院に行ってたんだ。やっとリハビリ開始の許可が出ましたっ!」
「「おおー!!」」
パチパチパチパチ!
「っても、まだ軽い筋トレくらいなんだけどね。それより、みんな何してるの? しゃがんでたけど」
それを聞いて、めぐが答えた。
「昨日、歌詞を書いたメモをテーブルの上に置いておいたんだけど、朝来たら無かったの」
「ええ? じゃあ、夜のうちに消えたってこと?」
「うーん。そうなのかなぁ」
するとアカネは腕を組んで静かな口調でみんなに言った。
「ふっふっふ。ここは名探偵アカネの出番のようですねぇ……」
アカネは腕を組みながら左右にウロウロすると、イリューシュに尋ねた。
「イリューシュさん、この家に入れる人は……?」
「この家には、ひろしさん、アカネさん、めぐさん、黒ちゃんさん、大熊笹さんが入れます」
「ふむふむ、なるほど……。ひとつ言えることは……、犯人はその中にいる! 真実はひとつ!」
するとめぐが突っ込んだ。
「そりゃそうでしょアカネ! 他に入れないんだから!」
「へへへ、ちょっと言ってみたかったんだよ決め台詞。でもさぁ、このメンバーでめぐの歌詞を隠して得する人いないよね」
「うん。だから、どこかに落ちてるんじゃないかって」
「だよな……」
その時、2階から大熊笹と黒ちゃんが降りてきた。
「「おはようございます!」」
「おはようございます」
「熊じぃ、黒ちゃん、おはよっす」
「おはようございます!」
「おはようございます、おつかれさまです」
するとアカネが急に腕を組んで大熊笹と黒ちゃんに言った。
「実は事件が起きまして……。めぐが書いた歌詞が無くなったのです。この名探偵アカネに質問させてください」
「はい」
「お、おう」
「まずは熊じぃ。熊じぃは何時頃にこの家に……?」
「わたしは朝9時頃に来ましたよ」
「なるほど……。では黒ちゃん、黒ちゃんは何時頃にこの家に……?」
「実はわたしは昨日ログアウトしてから、すぐにこの家に戻ってきたのだ」
「な、なんですと!」
アカネが驚くと、そこに居たみんなは劇画タッチのように息を呑んだ。
するとアカネが腕を組みながら黒ちゃんに近づいて尋ねた。
「黒ちゃん、あなたはなぜ、家に戻ったのですか?」
「うむ。ホワイトドラゴンと上手く戦えなかったので、家に戻って道場で剣の振りを確認し、イークラトへ行ったのだ」
「ほうほう、では家には居なかったのですね」
「うむ。イークラトでホワイトドラゴンと戦っていた。証拠に、このお土産げを」
黒ちゃんはテーブルの上にイークラト名物の「ドラゴン大福」を3箱出現させた。
それを見たイリューシュは笑顔になって喜んだ。
「まぁ、ドラゴン大福ですね! これ美味しいんですよね」
すると、それを聞いためぐも笑顔になった。
「え、そうなんですか? 食べたい!」
その時、テーブルの上にいたピピちゃんも釣られてドラゴン大福の箱の近くに寄ってきた。
その瞬間、めぐが大きな声をあげた。
「あ、あった!」
なんと、歌詞を書いたメモはピピちゃんの下にあり、メモの端にはピピちゃんが噛んで遊んだ跡があった。
するとアカネは黒ちゃんと大熊笹に謝った。
「熊じぃ、黒ちゃん、疑ってごめんね!」
「「はははははは」」
みんなが笑うと大熊笹が笑顔で言った。
「アカネさんは事件を解決しようとしたんですから良いんですよ」
黒ちゃんもアカネに言った。
「わたしも、怪しい行動をしたことには違いないからな。ははは」
名探偵アカネは本日をもって廃業した。




