ようこ、大福を討伐する
おばあさんたちは賞賛してくれた人たちにお礼を言って別れると、みんなでピンデチのお店へ向かった。
するとその途中、時計台の方から美咲が肩を落としながら歩いてくるのが見えた。
「美咲ちゃん!」
マユが走っていくと、美咲は少し悲しそうに声を漏らした。
「ホワイトドラゴンに負けちゃった。役に立てなかった。悔しい」
「そんな事無いよ! あたしたちなんて弱くて参加すら出来なかったんだもん。美咲ちゃんはすごいよ!」
メイとナミも走ってきて何も言わずに美咲の手を握った。
マユもその上から手を握ると、美咲は涙を流して言った。
「ありがとう。でも、くやしい」
おばあさんも上から手を握って言った。
「美咲さん、結果なんてどうでもいいの。負けるかもしれない強い敵に立ち向かって行ったあなたは凄いわ」
「でも」
「強い人が偉いなら、わたしたちなんて、どうなっちゃうの?」
「そうだよ、存在価値なくなっちゃう」
「やば、ウチら存在価値ゼロじゃん」
「ぅん」
「「ははははは」」
それを聞いた美咲が大きな声で言った。
「そんな事ない! みんな大切な人たちだから!」
それを聞いたおばあさんは笑顔で答えた。
「美咲さんも、わたしたちの大切な友達なのよ、だから勝っても負けても大切なの」
「………うん。あ、あり……」
美咲は声に詰まって涙を流した。
するとマユが大きい声で言った。
「よし! ホワイトドラゴンを倒しに行こう!」
「「ええ!?」」
「お店に帰って、もう一箱あるドラゴン大福を食べ尽くそうよ!」
「いいねー!」
「ぅん」
「そうね!」
「うん」
そう言ってピンデチのお店に向かおうとした時、ピンデチのお店のほうから和代が走ってきた。
「美咲ちゃん! みなさん!」
「あ、和代さん!」
みんなが手を振ると和代は笑顔でやってきて、真っ先に美咲に言った。
「美咲ちゃん、さっきは格好良かったわ。バイクであんな大きなドラゴンに向かっていく姿は勇ましくて涙出ちゃったもの!」
「うん。でも負けちゃったんだ、わたし……」
「勝ち負けなんて、どうでもいいの。わたしは勇ましい美咲ちゃんのおばあちゃんなんですもの。とっても誇らしいわ! 格好良かったわよ!」
和代は美咲を抱きしめた。
「美咲ちゃん、あなたは最高だわ」
「おばあちゃん……」
「美咲ちゃん!」
そこへなんと、店番をしていたはずの哲夫が走ってやってきた。
「あら、哲夫さん! 美咲ちゃんを探してくるから店番お願いって言いましたよね!」
「あ、いや、わたしも美咲ちゃんが気になってしまって……」
すると和代は急に姿勢を正すと、大きな声で哲夫に言った。
「哲夫さん、それでも商売人ですか! お客様第一って言っていたあなたがお店を空けるなんて!!」
「あ、あああ、すまない和代、すぐ戻るよ。……。ははは、和代にはかなわないなぁ」
哲夫はバツが悪そうにお店へ走っていった。
みんなはそれを見て少し笑うとマユがまた大きな声で言った。
「よし! ホワイトドラゴンを討伐しに行こう!」
「「おー!」」
みんなはピンデチのお店へ戻っていた。
◆
みんなはお店に戻ると哲夫に店番を任せて二階へ上がった。
そして、ドラゴン大福を開封すると、美咲が真っ先に手に取った。
「もう!」
バン!
美咲はドラゴン大福をテーブルに投げつけると、拾い上げて両手で大福を伸ばした。
「今度は負けないからっ! はむっ!」
美咲は大福に食らいつくとフンフンした。
するとナミがアルマジロを頭の上からテーブルの上に下ろした。
そして、アルマジロにドラゴン大福をあげると、アルマジロは嬉しそうに食べ始めた。
「ホワイトドラゴン、アルマジロに食べられる」
ナミが静かに言うとみんなは笑った。
「「あはははは」」
「じゃあ、あたしは一口で。はあむっ!」
「あらじゃあ、わたしは小刻みに」
「中だけ食べちゃう!」
「あら、わたしは潰してしまおうかしら」
「「あははははは」」
すると、ナミが思い出したようにみんなに言った。
「あ、忘れてた。毒虫と痺れ虫」
ナミは突然テーブルの端にうごめく虫たちを出現させた。
「「うわぁあぁ!」」
「ちょっ、ナミ! ドラゴンより怖いよ!」
「「あははははは」」
ナミは虫をつまみ上げて言った。
「この子たちは毒も痺れもなぃけど、砂漠の砂の上で飼ってると、砂が毒の粉と痺れ粉になる」
「「ええ!?」」
するとおばあさんが不思議そうな顔でナミに尋ねた。
「この虫たちは何を食べるのかしら」
「砂を食べるの」
ナミは砂漠の砂を少量テーブルに出現させると虫たちが砂を食べ始めた。そして虫がすぐにフンをしたのを見てナミが言った。
「これが毒の粉」
「「ええ!?」」
「ネットで調べた。これだけ虫いれば、たくさん毒の粉と痺れ粉ができる」
するとメイはナミに親指を立てて言った。
「すごいじゃん、新商品だよ! ナミ、砂まだある?」
「ぅん。たくさんあるょ」
みんなはお菓子の空き箱や使っていない箱を集めて虫を分けて入れると、ナミが砂漠の砂を入れた。
「虫さん、がんばって」
しばらくみんなで虫を観察していると、どんどん砂が毒の粉と痺れ粉になっていった。
ナミは紙で毒の粉をすくうと、きれいに折り畳んでみんなに言った。
「毒の粉できた」
「「おおーーー!」」
洋子たちはみんなで紙で粉をすくい、お喋りしながらどんどん毒の粉と痺れ粉を作っていった。
そして大量に毒の粉と痺れ粉を作り終えるとサンプルとしてみんなで分けて、ログアウトしていった。
ー 株式会社イグラア 社内 ー
その頃、専務の大谷は、なぜホワイトドラゴンがピンデチに現れたのかと原因を探っていた。
「うぅむ、ホワイトドラゴンが岩山を越えられる要素は無さそうなのだが………」
エンジニアチームとも協力して、大谷もホワイトドラゴンをシミュレートしながらバグを探したが見つからなかった。
「やっぱり、どうやっても岩山を越えられないな」
大谷は悩みながらもプログラムを修正し、岩山の高さを10m高くして専務権限でロックした。
「とりあえず、この高さで様子を見るか……」
こうして、ピンデチのドラゴン騒動は一件落着したのであった。
ー その頃、ピンデチふれあい苑 ー
1階の食堂では、元自衛官の3人が神妙な面持ちで山口を中心に話し合いをしていた。
「お二人とも。本日の案件は、助けてくださった強いプレイヤー様たちが居なければ到底対処することが出来なかった」
「はい。我らの無力を知りました」
「その通り。そこでだ、我々は責任ある運転手として、自分たちの戦闘力を強化する必要があると思うのだ」
「「はい!」」
「今から森林地帯へ行って弓のスキルを磨きたいと思う。そして、めいんくえすと、と言うものも進めたい」
「「はい!」」
「我々は、バスを信頼してくださっているお客様の笑顔を守らなくてはならない!」
「「はい!」」
「行くぞ!」
「「はい!」」
こうして、元自衛官の3人は徒歩で森林地帯へと向かっていった。




