ひろし、決意する
ー 現実世界、おじいさんとおばあさんの家 ー
おじいさんがVRグラスを外すと、おばあさんが夕飯を用意しているのが見えた。
「あぁ、すまんすまん。今日も遅くなってしまった」
「あら、構いませんよ。ドラゴン大変でしたね」
「ええ? ドラゴンと戦っていたのを見ていたのかい?」
「ええ、遠くからですけど。うふふ」
「いやぁ、あのドラゴンは怖かったなぁ。強い人たちが次々と倒されてしまって……」
おじいさんとおばあさんは夕飯を一緒に用意しながら楽しくおしゃべりをした。
そして、今日も夜遅くまでゲームの話をしたのだった。
ー 翌日 ー
今日は朝から大雨が降っていて、あまりやることが無かったので、おじいさんとおばあさんは早めに食事をとった。
おじいさんは食事をしながら、ふとスマホを見ると留守電を知らせる通知が点滅していることに気づいた。
「留守番電話が……」
おじいさんは留守電を再生した。
『もしもし、山田です。明日の少年野球ですが、大雨でグランドがぬかるむと思いますので中止でお願いします。では、はい。またお願いします。失礼します』
「そうか。この雨では仕方がないなぁ」
「あら、どうしたんですか?」
「明日の野球ボランティアが中止になってしまったんだ」
「まあ、そうですか。でも、この雨では仕方ないですね。ゲームでもやりましょうよ」
「そうだな。ははは」
2人はそんな事を話しながら食事を終えると、今日は早めにゲームの世界へ入った。
おじいさんはG区画の家に行って中へ入ったが、2階から柔道の練習をする音が聞こえてくるだけだった。
おじいさんは和室に入ってゆっくりとお茶を飲んでいると、ふと道で出会った哲夫のことを思い出した。
「そういえば、あの方いらっしゃるかな」
おじいさんは、家を出ると三輪自転車でH区画へ向かった。
◆
「たしか、ここらへんだったような……」
すると、おじいさんは家の前で体操をしている哲夫を見つけた。
「あ、おはようございます!」
おじいさんが声をかけると、それに気づいた哲夫は嬉しそうに返事をしてくれた。
「ああ、おはようございます! ようこそ、おいでくださいました!」
おじいさんは家の前で三輪自転車から降りると、頭を下げて言った。
「いやぁ、お伺いさせていただきました。ひろしと申します。」
「あ、哲夫と申します。ひろしさん、よろしくお願いします」
二人はお互いに深々と頭を下げると、哲夫がおじいさんを案内した。
「よかったら中へどうですか?」
「よろしいですか?」
「ええ、ぜひあがってください。孫の美咲が買ってくれた家なんです」
「ああ、それは素晴らしいですね。ではお邪魔させていただきます」
おじいさんは哲夫と一緒に家の中へ入った。
哲夫はおじいさんを居間へ案内すると、戸棚から「ドラゴン大福」と「溶岩ようかん」を持ってきた。
「ひろしさん、よかったらどうぞ」
「おお、これは美味しそうですね」
「美咲ちゃんがいつも持ってきてくれるんですよ」
「哲夫さんは、お孫さんに慕われていますね」
「いやいや、ははは。美咲ちゃんは最高の孫なんです」
哲夫はとても嬉しそうに答えると、おじいさんにドラゴン大福を勧めた。
「ささ、ひろしさん、どうぞ食べてください」
「あぁ、ありがとうございます」
おじいさんは勧められたドラゴン大福を一口食べてみた。
「お、おお! これは美味しいですね」
「そうなんですよ! 遠い町で美咲ちゃんが買ってきてくれるんです」
「ああ、そういえばお孫さん、今度の大会の予選で最速でしたね。予選会でお見かけいたしまして」
「え、ええ? そうなんですか?」
「はい、ええと、ちょっと待ってくださいね」
おじいさんは視界にあるインフォメーションのところを探して記事を確認した。
「ああ、これですね」
おじいさんは「ザ・フラウ頂上決戦、予選速報(個人)」という記事を見てみた。
ーーーーーーーーーーー
ザ・フラウ頂上決戦、予選速報(個人)
タイムの更新により入れ替わります。
ピンデチ:NAOTO
シャーム:タマシリ
レググリ:美咲
マガイルー:イズナ
バリードレ:翠
レスカカル:Sean
ベイリゲン:スネーク
エストンレルト:Jamoi
ベンチレスリ:PG
イークラト:カイ
ーーーーーーーーーーー
記事には予選トップの名前とクリアしたときのプレイヤーの画像が掲載されていた。
「ええと、お孫さんのお名前は『 美しく咲く』で美咲さんでしょうか」
「ええ、そうです 」
「やはりレググリという所の代表のようですね。お写真も凛々しいです」
「本当ですか、美咲ちゃんが代表に!? それは私でも見られますか?」
「はい、右下のインフォメーションという所を押してみてください」
「ええと……、これかな。はい、押しました」
「その中にある『ザ・フラウ頂上決戦、予選速報(個人)』が、その記事です」
「あ、ああ、これですね」
哲夫は記事を開いてみた。
「ええと……、あ、美咲ちゃん!」
哲夫は美咲が凛々しく剣を突き出す画像を見つけた。
すると、哲夫は一際大きい声を漏らした。
「翠ちゃん!? 翠ちゃんも?」
「哲夫さん、他にお知り合いが?」
「え、ええ。もうひとりの孫も代表みたいで。珍しい漢字なので間違いないかと……」
「いやぁ、それは凄いですなぁ!」
「美咲と翠は姉妹なんです。ですが翠はアーチェリーの日本代表選手で忙しいみたいで、ずっと会えなくて……」
「そうなんですね。それにしてもお孫さんたちは素晴らしい才能をお持ちで」
「あ、いや、ははは。私に似ないで良かったです」
「いやいやそんな、ご謙遜を」
「「はははは」」
おじいさんたちは、しばらく楽しくおしゃべりをすると、哲夫は思いついたようにおじいさんに尋ねた。
「ひろしさん、翠ちゃんが代表のバリードレというところへは、どうやって行くかご存知ですか?」
「いやぁ、すみません。わたしもあまり詳しくなくて……」
「もし翠ちゃんが、この世界にいるなら会いたいんです。私、現実世界では寝たきりなので」
「ええ!? そうなんですか!」
「はい。もう、あとどれくらい生きられるのやら。ははは」
それを聞いたおじいさんは急に立ち上がると哲夫の手を握って言った。
「哲夫さん、バリードレへ行きましょう! わたしが一緒に行きますから!」
哲夫もおじいさんの言葉に立ち上がると、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。お気持ちだけでも嬉しいです」
「いえ、わたしが行き方を調べますので。必ず哲夫さんをバリードレへお連れしますから。少しだけ時間をください」
「ほんとうですか……。ありがとうございます!」
「お時間はいつ頃がご都合よろしいですか?」
「あ、はい。私は昼から夕方まで店番がありますので、それ以外でしたら」
「わかりました、では調べておきますので」
その時、哲夫の妻の和代が急に現れた。
「翠ちゃんに会えるの!?」
おじいさんが少し驚くと、哲夫が和代を紹介した。
「あ、突然すみません。妻の和代です」
「突然失礼しました。妻の和代です」
「お邪魔しております。ひろしです」
3人は深々とお辞儀をすると、おじいさんが和代に話した。
「お孫さんのいるバリードレへ行く方法を調べておきますので、お待ちいただいても宜しいでしょうか?」
「本当ですか!? もう翠ちゃんに会いたくて会いたくて……。美咲ちゃんにお願いしたら行けると思うのですが……」
「あぁ、ご姉妹の」
「ええ。ですが、翠ちゃんが美咲ちゃんに顔を見せるなって……、美咲ちゃんも翠ちゃんと距離を取っていて……」
「そうですか……、お気持ちお察しいたします」
こうして、おじいさんはバリードレへの行き方を調べることにした。




