ようこ、助っ人を得る
美咲は時計台の前に現れると、ベンチに座って待っていた哲夫のところへ行って横に座った。
「おじいちゃん、おばあちゃんが来るよ」
「本当かい? 和代には毎日世話になってるからな。でもお礼も言えないから辛くて」
「おじいちゃん、おばあちゃん大好きだもんね」
「ははは。まぁな」
哲夫はソワソワしながら待っていると、時計台の前に和代が現れた。
「和代!!!」
それを見た哲夫はフラフラと歩きだして、和代の前で膝をついた。
そして土下座をすると、和代に言った。
「ほんとうに、毎日毎日ありがとう。お前が……、お前が妻で良かった」
それを聞いた和代は少し驚きながら目に涙を浮かべると、静かに涙を流しながら言った。
「わたしだって、哲夫さんが夫でよかったわ」
二人は抱き合って涙を流した。
美咲は少し離れて見守りながら、もらい泣きをした。
しばらくして哲夫と和代が少しずつ笑顔になると、美咲は和代に話しかけた。
「おばあちゃん歩ける?」
「え? ええと……」
「頭の中で歩くイメージしてみて」
和代はしばらく動かなくなったが、ゆっくりと歩き出した。
「あら、歩けるわ!」
和代は近くをテクテクと歩き回ると驚いた表情で笑った。
その様子を見ていた美咲は笑顔で二人に言った。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ちょっとそのベンチで待ってて。話したいことも沢山あるでしょ」
「ええ」
「そうだね」
「わたし、ちょっと行ってくる」
そう言うと美咲は村のデータセンターへ走っていった。
◆
美咲は村のデータセンターにやってくると、設置された端末でピンデチの新らしい区画の土地を検索した。
「H区画の山側なら、わたしでも家買えそう」
美咲はそう言うと、650万プクナの土地を購入した。
「よし」
美咲は笑顔でデータセンターを出ると、急いで時計台のベンチへ戻った。
ベンチには楽しそうにお喋りをしている哲夫と和代がいた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、おまたせ! 一緒に来てくれない?」
「どうしたんだい?」
「あら、どこかへ行くの?」
「いいから! ついてきて!」
哲夫と和代は立ちあがると、ゆっくりと美咲の後に付いていった。
3人は時計台から少し下り、G区画の上を通り抜けると、山側の開けた土地に出た。
そこは何軒か家が建っているH区画の分譲地だった。
そして、美咲はその一区画に来ると、端に浮いている画面を操作し始めた。
不思議そうに美咲を見つめる哲夫と和代に美咲が言った。
「これくらいの家しか買えないけど、プレゼント!」
ボン!
なんと哲夫と和代の目の前に一軒の家が現れた。
「おお」「あらら」
おどろく哲夫と和代に美咲が言った。
「おじいちゃん、おばあちゃん。小さいけど、この世界の二人の家だから」
「ええ!」「あらまぁ」
美咲は二人の手を取って一緒に家に入ると、家の中を見て回った。
1階には居間とダイニング、そして二階には寝室と広いベランダがあり、哲夫と和代はとても嬉しそうにした。
すると哲夫が美咲に申し訳なさそうに言った。
「美咲ちゃん、いいのかい、こんな立派な家」
「もちろんだよ。好きに使ってね」
「あぁ。美咲ちゃんありがとう」
哲夫と和代は美咲の手を握ってお礼を言うと、美咲は笑顔で二人に言った。
「わたし課題があるから、今日は帰るね。おじいちゃんとおばあちゃんは話したい事がたくさんあるでしょ」
二人は笑顔で頷いた。
「ああ」
「ええ」
「おばあちゃん、帰るときはVRグラス外してね」
「分かったわ」
「じゃあ、先に帰るね」
美咲は笑顔で手を振るとログアウトしていった。
美咲が現実世界に戻ると、ベッドで笑顔になっている哲夫と、笑いながらVRグラスをかけている和代がいた。
「よかった」
美咲は小さく呟くと、テーブルの引き出しから哲夫のマイナンバーカードを取り出した。
そして哲夫のVR-GigBoxの液晶画面を操作して自分のVR-GigBoxと通信状態にすると、哲夫のマイナンバーカードを認証させた。
ポーン♪
認証が終わると美咲は液晶画面でサポート・モードを選択し、哲夫のザ・フラウの設定や決定を美咲でも操作できるようにした。
「これでよし」
美咲はそう言うとノートパソコンを開いて学校の課題をはじめた。
◆
その頃、おばあさんは森でキノコを集めながら、店番をしているメイとナミ、そしてコーシャタにいるマユとチャットで話していた。
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メイ:品切れした!
マユ:え、やばい!
メイ:今日は閉店するね
マユ:しょうがないね
メイ:めっちゃ薬草が足りないかも。あれ全部の調合に使うから
マユ:商品が売れてきたのは嬉しいけど、こんな問題があるなんて
洋子:経営ってむずかしいわね。人手がほしいわね。
メイ:カワセミさん手伝ってくれないかな
洋子:それはいい考えね。聞いてみましょう。
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おばあさんはカワセミにメッセージを出そうとしたが、フレンド一覧に無いことに気づいた。
しかし、美咲というプレイヤーが最新のフレンドになっているのを見て呟いた。
「きっとこの人がカワセミさんね、名前変えたんだわ。ええと……、カワセミさんですか。今お店の人手が足りなくて……」
おばあさんはメッセージを打ち込んで美咲に送信すると、しばらくして美咲がグループチャットに参加した。
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美咲:カワセミです。名前変えました。連絡遅れました。
メイ:ぜんぜん大丈夫だよ<笑顔>
マユ:おっけー<キラキラ>
ナミ:気にしないで<敬礼>
美咲:お店の話、聞きました。手伝います。
メイ:ありがとう!
マユ:やった
ナミ:ありがとう
洋子:嬉しいわ美咲さん。お店の経営が大変で。
美咲:もしかしたら、祖父なら経営のアイディアくれるかも。
洋子:あら、そうなの?
美咲:スーパー・ヨクヨの創始者なんです。
洋子:全国チェーンの!いつもお世話になってるわ。
メイ:まじか
マユ:うそ
ナミ:すご
美咲:明日お昼に祖父と行きます。
メイ:ありがとう!
マユ:やった助っ人だ
ナミ:ありがとう
洋子:助かるわ!
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こうして、お店に強力な助っ人が参加したのだった。
ー 再び現実世界 横浜の介護付きマンション ー
美咲はVR世界から戻ってきた祖母の和代と一緒に夕飯のカレーを食べていた。
「おばあちゃん、おじいちゃんと沢山話した?」
「ええ、もう話しきれないくらいよ。哲夫さん眠くなったって。ふふふ」
「それなら良かった。……あ、おじいちゃんのVRグラス外さないと」
「いいのよ美咲ちゃん。哲夫さん、美咲ちゃんが買ってくれた家で寝たいんだって」
「ははは、そうなんだ。なんか嬉しいな」
美咲は嬉しそうにベッドで寝ている哲夫を見ると、ふと思いついて和代に尋ねた。
「ねぇ、おばあちゃん。このマンションって介護マンションだから自由に動けない人が多いよね」
「そうね。お隣さんの旦那様もベッドから起き上がれないわ」
「なら、みんなにこのゲームお勧めしてみたらどうかな。みんなゲームの世界で楽しく過ごせるかも」
「あら、確かにそうね。ちょっと管理の方に電話してみようかしら」
「うん。わたしもゲームの会社に協力してもらえないか連絡してみる」
美咲は笑顔になるとカレーを一口頬張った。




