ひろし、奇跡の一枚
おじいさんたちは船でeバラキに着くと、軽トラでツクシ・サーキットへと向かった。
アカネは荷台で楽しそうにしながら、めぐに話した。
「はやくモトラジェット乗りたいな~。明日のレース、1位は10万プクナだって」
「たしかに10万プクナはすごいよね。でもきっと、わたし無理だよなぁ」
「いいじゃん、楽しければそれでオッケーじゃん」
「そうだよね。あ、後でモトラジェットと一緒に写真撮ってアップしよ」
「それいいね。あたしが撮ってあげるよ!」
アカネとめぐがそんな事を話していると、軽トラはツクシ・サーキットに到着した。
イリューシュは管理事務所へ行くと、緑色のベストのような物を持ってきて説明した。
「みなさん、モトラジェットに慣れていない方は、これを着てくださいね。初心者用のベストです」
すると、おじいさんとめぐは緑のベストを受け取った。
そしておじいさんたちはコース脇のピットスペースへ移動すると、イリューシュが説明を始めた。
「このサーキット内では転倒してもHPは減りませんし、どんな服装でも大丈夫ですから気軽に楽しんでくださいね」
そして、モトラジェットを出現させて言った。
「では、早速練習しましょう。どなたが最初に行きますか?」
「はーい、はーい!」
アカネが嬉しそうに手を挙げた。
「ふふふ。ではアカネさん、いってらっしゃい!」
「押忍! ありがとうございます!」
アカネはモトラジェットに飛び乗ると、一気に加速してサーキット・コースに走り出た。
フワァァアアアアア!
そして、感覚を試すように一周すると、最終コーナー手前から加速し始めてタイムアタックを始めた。
「いくぞーー!」
アカネは全速力でスタートラインを通過するとタイム計測が始まった。
最初の右コーナーを終えてS字、左ヘアピン、右コーナーをやり過ごして、サーキット名物のアーチを抜けた。
それを見ていためぐは目を丸くして驚いた。
「うわぁ、アカネ速いなぁ」
そして最終コーナーを抜けて加速するとタイム計測ラインを通過した。
ファァァアアァン……
アカネはもう一周流してピットに帰ってくると笑顔で戻ってきた。
「どうだった?」
すると、めぐが嬉しそうに答えた。
「アカネ、かっこ良かったよ! すごい!」
イリューシュは手元のタブレット端末でタイムを確認するとアカネに見せながら言った。
「タイムは1分10秒フラットです。アカネさんイイですね!」
「え、まじで!? やったー!」
すると、アカネは黒ちゃんに言った。
「黒ちゃん、勝負だぜ! 黒ちゃんも走ってよ」
しかし黒ちゃんは少し戸惑って答えた。
「あ、いや、私は……」
「なんだよ、あたしと勝負したくないの?」
「いや、なんというか、私の専門分野というか……」
「えぇ~、勝負を嫌がる黒ちゃんって……、なんか、嫌いだな……」
アカネは口を尖らせながら黒ちゃんから顔をそむけた。
「ああっ! すみませんでした! 全力で行かせて頂きます! とぅっ!」
黒ちゃんはモトラジェットに飛び乗ると、
「後方よし! 行きます!」
素早く確認をして物凄い勢いでコースへと入っていった。
そして、第一コーナーを信じられないスピードで駆け抜けると、そのまま更に加速していった。
それを見たアカネはテンションを上げながら跳びはねた。
「おぉぉー、黒ちゃん! カッコイイじゃんか!」
おじいさんとめぐとイリューシュも驚いて黒ちゃんを見守った。
黒ちゃんは最終コーナーを抜けると、一気に加速してタイム計測に入った。
ファァァアアアン!
駆け抜ける黒ちゃんを見たアカネはモトラジェットの音を聞いて驚いた。
「黒ちゃん、ぜんぜん音が違うよ! 速い!」
それを聞いたイリューシュも驚いて言った。
「ピット出発から計測して、57秒台です。もしかしたら新記録がでるかもしれません」
黒ちゃんは無駄な動きは一切せず、モトラジェットの行きたいように制御すると、一瞬、悟りの境地へと達した。
「ふ……、ふふ……、ふははは!」
黒ちゃんは思わず笑い声をあげると、全てのコーナーを美しいラインで駆け抜けていった。
そして、そのまま最終コーナーにギリギリのブレーキングで突っ込むと全開で加速していった。
「ふはははは!」
ファァァアアアアン!
黒ちゃんは、どんどん加速しながらゴールラインを通過すると、なんとタイムは54秒113の最速タイムだった。
イリューシュがタブレットを見ると驚いてみんなに見せた。
そこには「ワールド・レコード」文字があり、それを見たアカネが驚いて声をあげた。
「黒ちゃん、やば! この世界で最速じゃん!」
それを聞いたイリューシュも驚いた。
「このタイムは凄いですね。わたしでは全くかないません」
黒ちゃんがピットへ帰って来ると、アカネは黒ちゃんのところへ駆け寄った。
「黒ちゃん、スゲーじゃん! カッコよかったよ!」
「そ、そうか?」
「だって、この世界最速だってよ」
「あぁ、そうか。それはよかった」
「黒ちゃんに注文したら、すげー早く食べ物届くな!」
「え? あ、あぁ、そうだな」
……え、さすがに黒ちゃん配達員じゃないよね?
まだ何かの配達員だと思っているアカネに、全員が心の中で突っ込んだ。
黒ちゃんがモトラジェットを降りると、今度はイリューシュがタイムアタックに出発した。
イリューシュは全速力でゴールラインを駆け抜けると、59秒312でゴールした。
その後、おじいさんとめぐがタイムアタックをしたが、2人とも2分台だった。
最後に走っためぐは、ゆっくりとピットに帰ってきてアカネに言った。
「やっぱりアカネは速いよ、すごいね」
それを聞いたアカネは満面の笑みで答えた。
「あたし、自転車でも坂道下るの好きなんだ。スピードっていいよな」
黒ちゃんは大きく頷いたものの、他のみんなは微妙な表情になった。
すると、アカネは嬉しそうに手で何かを操作して全員に画像を送った。
「みんなが走ってるとこ、写真撮っておいたよ!」
めぐは送られた画像を見てみると、颯爽とサーキットを走るカッコイイめぐの画像だった。
「アカネ、この画像いい! ナイス、カメラマン!」
めぐは早速ツイッタグラムに投稿した。
イリューシュもカッコ良く撮れていて、アカネにお礼をした。
しかし黒ちゃんの画像は最終コーナーを怪しい笑い顔のまま全開で立ち上がってくる画像だった。
「わたし、こんな顔で走っていたとは……」
そして、おじいさんの画像は太陽の光で絶妙に陰影がつき、ハリウッド映画の1シーンのような奇跡の一枚だった。
「おぉぉ、これがわたしですか……?」
「そうだよ、じいちゃん! カッコ良く撮れたでしょ」
「あぁ、わたしにはもったいない写真です。床の間に飾ります」
「まじで? ありがとう! ははは」
こうして、おじいさんたちはサーキット走行を楽しみ、G区画の家へ戻ったのだった。




