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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
2.交流と第一回イベント
104/106

終点

 

 【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)

 【イベント1日目】

  side:ブラン



 イベントボス " 次元の竜 " は名前の通り、大きな西洋の竜だった。

 黒色の鱗に赤い目を宿し、広範囲に火を吹く竜らしい攻撃をしてきた。


 低レベルプレイヤーはその火だけでHPを全損しリスポーンしていたが、高レベルプレイヤーも瀕死に陥りどうにか回復をすることで前線を繋いでいた。


 竜は斬撃や魔法の耐性を持っているみたいで中々ダメージを与えられなかった。HP量も凄まじく、最初はドットすら減っているか怪しかった。


 しかし、徐々にイベントボスに参戦してくるプレイヤーが増えてきて物量によるゴリ押しが出来そうになってきた。現場はかなり混沌としていたが、一撃与えてリスポーンする……いわゆるゾンビ戦法によって確実にダメージを与えていったのだ。


 そうして時間を掛けてHPを削っていった。


 パターン化してきた攻防の末、遂にHPを半分削り切ったとき " 次元の竜 " に変化が起きた。

 今まで一体だけだったボスの周りに新たなモンスターが現れたのだ。



 「これが第二形態? ってやつですかね」



 とルイズが呟いた通りだ。

 イベントボスの周りに現れたのはリザードマン。


 それも屈強な肉体に質の良さそうな鎧と武器を装備したリザードマンだ。言うならリザードマンソルジャーだろうか。

 見るからに強敵だった。


 リザードマンは見かけだけではなく混乱しているプレイヤーを次々に切り伏せていった。

 犠牲になったのは十何人のプレイヤーだ。


 その間に落ち着きを取り戻した前衛プレイヤーがリザードマンの相手をし、後衛の魔法使いとタイミングを合わせることで処理を始める。


 しかし、その混乱に乗じてイベントボスも暴れ出した。

 第二形態はリザードマンのスポーンだけではなかったのだ。

 

 

 「おい! イベントボスが消えたぞ!」



 イベントボスの相手をしていたプレイヤーの数人がそう叫んだ。

 そちらの方を見ると、確かにイベントボスの姿がない。


 あれだけ大きい竜を見逃すはずはないので、叫んだプレイヤーがいうように本当に消えたのだろう。

 ブランは冷静に考えた。


 普通に考えるならこれはイベントボスの第二形態の能力。

 そして、今までブランは不思議に思っていたことがあった。


 イベントボスは竜だ。

 竜は翼を持ち、飛行能力を有する代表的なモンスターだ。


 なのに、このイベントボスは最初から一度も飛ぶことはなかった。


 果たしてそんなことが有るだろうか?

 ……いや、ない。


 そんな確信めいた考えと共に、ブランは上を見上げる。



 「上だッッ!!」



 反射的にそう叫んだ。

 が、遅かった。



 竜の咆哮が響きわたる。



 プレイヤーの頭上へ炎が降りかかった。

 同時に竜が空から地面に勢いよく落下する。


 ブランを衝撃が襲った。

 吹き飛ばされHPが減る。


 他のプレイヤーも殆どが吹き飛ばされており、戦線は完全に崩壊してしまった。

 中には炎と一緒にダメージを喰らったプレイヤーもいるようで、そのプレイヤーたちは身体をポリゴンに変えてしまった。


 

 「エリアリジェネレーション! エリアハイヒール!」



 メルの声が響いた。

 たちまちブランたちのHPが回復していく。


 さすが《聖魔法》の第一人者。

 

 一部では聖女などと呼ばれており、回復に関しては彼女の右に出るものはいないとさえ言われている。

 ブランは何か特別な称号などを彼女は持っているのではないか、と睨んでいるが真偽は分かっていない。


 しかし、今はこれほど暖かい回復はない。

 

 地面に着地したイベントボスの動向を見ていると、横に誰かが来た。

 剣を2本持っている男のプレイヤー。



 「ブランさん、どうします? これ」



 ロイだ。

 見れば、後ろに彼のパーティメンバーも居る。


 

 「お前の武技スキルで戦った感触はどうだった?」


 

 「正直、大分キツかったです。範囲攻撃の炎に引っかかっちゃって」



 ブランはロイの武技スキルについてある程度詳細を知っている。

 ロイ自体が有名なプレイヤーだし、彼自身が自分のスキルを知られることを気にしていないからだ。


 そんなロイがキツイと答えるなら、イベントボスと近接で戦うことは厳しいのだろう、とブランは考える。

 


 「とりあえず取り巻きの処理だ。お前たちは続けてイベントボスの相手をしろ。配置は俺が指示しておく」


 

 「了解」



 ロイは短く返事をすると、仲間たちとイベントボスの方に向かっていく。

 指示を聞いてくれて助かる、とブランは嬉しく思う。


 上位プレイヤーの中で最も聞き分けがいいプレイヤーの一人だ。

 メルとリリの二人も比較的大人しいタイプだが、最近リリの方には反抗心を少し感じている。


 他のプレイヤーの多くはブランに対してかなり懐疑的だ。

 エリカは言うことを聞かないし、ノウズに関しては信用が出来ない。


 それもこれも全て森での一件が原因だった。

 だからこそ、このイベントで信用を取り戻す。


 ブランは確固たる意志のもと《念話》を発動させる。



 『ルイズ、うちの団員を使ってリザードマンの処理をサポートしろ。リリもそちらにつかせる』



 『エリカ、ロイがイベントボスのヘイトを引いている。タイミングを合わせて攻撃してくれ』



 『メル、ロイたちに回復を集中してくれ。リザードマンの方はうちでサポートする』



 『リリ、ルイズと協力してリザードマンを処理してくれ』



 『ノウズ、好きにやっていいが邪魔はするな』



 次々にプレイヤーたちに指示を出していく。

 一部のプレイヤーには個人的に《念話》をし、他のプレイヤーには大まかな指示をする。


 エリカや他の上位プレイヤーは良い気持ちはしなかっただろうが、今は素直に指示に従ってくれるようだ。

 

 混乱した戦地が少しずつ安定していく。

 初めて《念話》を聞いたのであろう上位以外のプレイヤーは、最初は困惑していたが意味を理解すると動き出した。


 

 『ルイズ。俺はイベントボスに集中する、リザードマン処理の指揮はお前に任せる』



 配置が落ち着いたので、リザードマンの指揮をルイズに任せた。

 ブランはイベントボスに魔法を撃ちながら細かい指揮を取っていく。


 様子を見ていると、どうやらロイたちのパーティの負担が大きいようだ。

 主にロイとミノがイベントボスの攻撃を捌いているため仕方ないが、万が一あの二人が倒されればかわりに誰かが相手をしなければいけない。


 イベントボスの炎は魔法使いによる防御に頼り、爪による攻撃や突進は前兆を見て回避。

 厄介な飛行攻撃は魔法や弓などの遠距離攻撃で凌いだ。


 定期的にリザードマンがスポーンしてきたので、その度にルイズたちがリザードマンの処理をしていく。

 とてつもない数のプレイヤーがそれぞれ連携を取っていた。


 

 「もう少しで4分の1だぞ!!」



 双剣を振りながらロイがそう叫んだ。

 気づけば、イベントボスのHPは残り25%に差し掛かろうとしている。



 『またパターンが変わるかもしれない。気をつけろ』



 ブランはすかさず《念話》にて警告を発する。

 HP50%で取り巻きと飛行が加わったのだ。ここからさらに強くなる可能性は十分に考えられる。


 

 『ロイ、何か異変があればすぐに離れろ』



 イベントボスに一番近いロイにそう指示する。 

 ロイが一瞬こちらを向き、目があった。指示は伝わったみたいだ。


 すると、今まで通常攻撃しかしていなかったエリカの弓が光る。

 彼女の武技スキルは名称しか分かっていない。


 このゲームにおいては珍しいソロプレイヤーで、おまけに滅多に人に会わない。噂では隠密系のスキルを上げており、PKになったとも言われている。


 その噂の真偽はノウズですら知らず、今だに謎多きプレイヤーだ。

 しかし実力は本物で、弓使いとして初期からずっと最前線に居る。


 エリカの弓が赤く光り、真っ赤な矢が出現した。

 初めて見る。森で見たのは緑だっただろうか。


 矢が射出された。

 イベントボスに見事命中、激しいエフェクト……爆発が起きた。


 イベントボスのHPが減った。

 残り25%になる。


 ブランたちはイベントボスの様子を伺った。

 が、特に目立った変化はない。


 

 『魔法が来るよ。早く警戒するよう言いなね。1貸しよ?』

 


 すると急に誰かから《念話》が来た。 

 声と話し方から、それがすぐにノウズからのものだと分かる。


 咄嗟にノウズの方を見ると、目が合う。

 彼女は俺の方を見ながらニヤニヤとした顔で笑っていた。


 あの女、いつまのに《念話》を取っていたんだ。


 そう一瞬思ったが、それはいま考えることではないと思い直し、すぐにブランも《念話》にて指示を出した。



 『皆んな魔法攻撃が来る! 防御できるやつの側に寄れ!』



 その場にいる全プレイヤーに警告した。

 俺が指示すると同時に全員が動く。


 それぞれが魔法使いの側に移動し、警戒している。


 すると、メルなどの《聖魔法》を使えるプレイヤーがエリアリジェネレーションを掛けてくれた。

 ……それと、ほぼ同時だった。


 竜が吠え、翼の周りにいくつかの小さな穴が空いた。

 その穴から岩石が出てくる。


 岩石はプレイヤーに向かって飛んできた。

 炎に飛行、次は魔法攻撃か。


 ノウズのおかげで警戒できていたので、魔法使いのプレイヤーたちが物理防御系の魔法を使う。

 それによって飛来してきた岩石を無事に防御することができる。


 危なかった。

 もし急にこんな攻撃をされていたら、少なくない被害が必ず出ていただろう。


 ノウズの言った通り、これは貸しを作ってしまったな。

 ブランはそう思ったが、今はノウズに感謝しておいた。


 

 『残りを確実に削り切るぞ!』



 ブランは再び《念話》を使って檄を飛ばした。

 残りHPは25%。


 油断せずに対処すればそう時間は掛からないはず。

 

 ブランの《念話》を口火に、ロイたち前衛がイベントボスに向かっていく。

 ブランも効果は薄いが《闇魔法》でダメージを与えていった。


 リザードマンの処理も問題ない。

 むしろ余裕ができたようで、リリがイベントボスの方に来ていた。


 心強い。

 リリもメルと同じで他のプレイヤーには無い強みがある。


 彼女の武技スキルは暗殺にとても向いている。

 もしPKになれば、その名を上げるに違いないだろう。


 イベントボスのヘイトを気にせずにダメージを与えられる彼女の存在は、アタッカーとしてこの上なく優秀だ。

 ボスのHPをより早く削ることができる。


 そんなブランの予想通り、イベントボスのHPは削れていく。

 新たなパターンである魔法攻撃は岩石、炎、闇の3パターンがあり、どれも魔法による防御ができた。


 イベントボスの予兆をしっかり見ていれば、飛行も炎も魔法攻撃も予想できる。

 そして、その役目はブランが担った。


 イベントボスの一挙一動を見逃さず《念話》で指示を出していき、安全に正確に引くタイミングと押すタイミングを見極める。


 ブランは集中してイベントボスを観察し、その瞬間を一度たりとも見逃さなかった。


 そして、時間が経った。


 体感だと数分の時間だった。


 最もイベントボスの近くにいたロイが声を上げる。



 「これで終わりだッ!!」



 気がつけばボスのHPはドットだった。

 

 全プレイヤーがイベントボスの方を見る。


 ロイが剣を振り下ろした。


 


 竜の咆哮が響き渡る。



 

 それは悲痛な叫びのようだった。


 叫び終わった竜が翼を広げ、動きを止める。


 竜は眩い光と共にポリゴンと化した。

 

 同時にリザードマンも全てポリゴンと化し、消える。

 戦場が静まり返った。


 プレイヤーたちは今だに立ち尽くし動かない。

 そして数秒後、目の前にウィンドウが表示された。

 


========================================


 【世界通知(ワールドアナウンス)

 

 イベントボス " 次元の竜 " が討伐されました。

 只今をもって、第一回イベント " 世界の進出(ワールドウォーカー) " を終了します。

 結果の集計、新要素の調整を行うため、5分後に緊急メンテナンスを開始します。メンテナンス終了時刻は公式より後日通達します。


 本イベントをお楽しみいただきありがとうございます。


========================================


 

 その文字を全て読むことなく、ブランたちプレイヤーは光に包まれていった。

 

 次にブランが目を開けた場所は始まりの街、蒼影の麒麟本部の建物だった。

 見知った場所に落ち着きを取り戻し、周りをみれば、ルイズたちクランメンバーに一部の上位プレイヤーがそこに居た。


 そこでブランは改めてアナウンスを読む。


 そして自分たちが確かにイベントボスを討伐したことを確認した。

 4日想定のところを約10時間で倒したのだ。


 ブランは、意外と呆気なかったな、と心の中で強がる。

 

 

 「やりましたね! リーダー!」



 するとルイズが笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

 

 「よくやった」



 ブランは短くそう返事をした。

 ルイズの指揮なくしてリザードマンの処理はできなかったし、それがあったからこそブランがイベントボスに集中できた。


 ルイズの評価は十分活躍したと言っていいものだ。


 彼らはお互いを労う。


 驚くほど短い時間のあと、彼らはゲームを後にした。

 


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