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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
2.交流と第一回イベント
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苦悩


 【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)

 【イベント1日目】

 side:とある苦労人



 明るい部屋の中でキーボードを叩く音が聞こえていた。

 机にはエナジードリンクの空き缶が数本置いてあり、足元のゴミ箱にはコンビニの軽食の包装が捨ててある。


 側から見ればとんだブラック企業だが、数時間前はそんな影もないほど部下たちと談笑していたのだ。



 「ああっもう! 何でこんなるのよッ!」



 口からそんな文句を垂れ流しながら、彼女は問題を一つ一つ確認していた。

 彼女はいまEOFのイベントに追われている。


 なぜなろ、予め用意していたイベントボスである " 次元の竜 " に不具合が発生していたのだ。

 本来ならスポーンするはずの取り巻きがスポーンしなかったのだ。


 何が原因でこんなことになったのかは分からないが、プレイヤーが集まってくる前に何とかしなければいけない。

 そのため、運営である彼女らはPCとにらめっこしている。


 それもこれも元を辿れば彼女の自業自得だった。


 ルカのスキルによって山村、湿林、墓地のエリアボスが想定より遥かに早く倒された。

 結果として、その影響でイベントボスの不具合の調整が間に合わなかったのだ。


 当然、責任の一端は彼女まで飛んできた。

 このゲーム初のイベントだ。バグで成功できなかった、では済まされない。


 

 「す、すいません!」



 「なに!?」


 

 PCへと向けられていた彼女の意識を引き戻したのは部下の報告だった。

 

 こんな状況でわざわざ自分に報告しに来るとは。

 余程の朗報か悲報ね。


 と、彼女は思った。

 しかし同時に少し悪い予感もしていた。



 「は、始まりの街の転移門が開放されました!!」



 「は?」



 始まりの街。それはゲーム開始時のチュートリアル地点としてプレイヤーのために作られた街だ。戦闘や生産、採取や言語などを学ぶことができる。


 そして、その始まりの街の中心に存在する大きな門。

 それが転移門と呼ばれるものだ。EOFの本番であるフィールドと始まりの街を繋ぐ役割を持つ。


 本来なら草原のエリアボスを討伐した時点で開放されているはずのコンテンツだが、鍵の所有者であるサクヤが門を開放していないため、その門は施錠されたままであった。



 「サクヤがようやく鍵を使用したんです!」


 

 門を全く開放する気がなかったサクヤをどうしようかと悩んでいた運営にとって、その報告は通常なら嬉しいものだった。


 だが、今はタイミングが悪すぎた。

 本来のフィールドである " エデン " の調整はとっくに終わっているため、その部分で問題は無い。


 しかし、今はイベント中だ。

 通常であればイベント以上に盛り上がるコンテンツではあるが、イベントに集中しているプレイヤーのためにも被せる訳にもいかない。


 

 「全体アナウンスした方がいい……のかしらね……?」



 「自分ではどうにも……」



 判断は全て彼女に任せるようだ。

 部下としては正しいのかもしれないが意見が欲しい、と彼女は思う。



 「こんなクソ忙しい時にっ……!」



 厄介な案件を起こしたサクヤに恨み言を吐く。

 彼がゲームを始めてから何度もこのような苦悩が続いていた。


 彼女はそれを思い出すと少し冷静になれた。

 今に始まったことじゃない、何とかするだけよ。と、そう思った。

 


 「とりあえず今はイベントよ。イベントボスの修正はあと少しだから、あなた達はそっちに集中して。転移門は権限で一時的に閉じておくわ」



 開いてしまった門を再び閉じる行為は本来なら規則違反だ。

 しかし、今は状況が状況だ。


 彼女はこれが最もスムーズだと考えた。

 その後の上司からの叱責など後回し。考えるのをやめた。


 

 「わ、分かりました。ですが、サクヤはもう既にどこかに転移しています。場所は分からないんですが大丈夫なんですか?」



 「……んッ」



 頭痛がした、ような気がした。

 

 サクヤが " エデン " に居る状態で転移門を閉じれば、サクヤは始まりの街に戻れなくなってしまう。

 勿論、イベントが終わった後にまた開放すれば戻れるようになるが、イベントが終わるまでまだ時間は掛かる。


 その間、サクヤには運営側の都合で " エデン " に留まってもらうことになり、その分の謝礼や補填が発生してしまうのだ。


 それを考えるだけで頭に幻痛が響く。

 しかし、彼女は吹っ切れた。



 「もういいわ! 門は一回閉じる。後のことは後に任せるわ!」


 

 「わ、分かりました!」



 後に思えば、この時の彼女は冷静ではなかったのだろうと気付くが、もう遅い。

 

 部下は勢いよく返事をして帰っていった。

 今ごろはイベントボスの最終修正をしていると思われる。


 

 「さてと、私は問題児の処理をしなきゃね。……ふぅ」



 机の上に置いてあるエナジードリンクを一飲みしながら、彼女はPC画面に意識を集中した。

 まずはサクヤの場所を突き止めなければならない。


 通常、転移門で最初に移動できる場所はプレイヤーの種族で決まっている。

 第一の基準は人か魔物か。


 人であれば、人族の活動領域である南の大陸の国々に転移できる。

 そして、魔物は人型かそれ以外かで分かれている。


 人型の魔物。亜人と分類される種族であれば人の領域にも転移できるが、そうでない種族は全て北の大陸に転移することになっている。


 北の大陸は魔物の活動領域だ。

 漏れなく人類の天敵と認識されている。


 そんな転移場所の中から、彼女はサクヤの種族をもとに特定していった。

 ウルフ、人狼。


 分類されるのは亜人。転移したのは恐らく、南の大陸の亜人が暮らす国か、北の大陸のどちらかになる。

 彼女はサクヤの姿を探した。



 「どこ行ったのよ……」



 しかし、全く見つからない。

 転移門から人が出てくれば現地人のNPCは必ず騒ぎになるはず。そう考えたが、国の中にある転移門周辺はどこも変化はない。


 おかしいわね、と彼女は思った。

 最初に転移できる場所は限られている。


 その全てが主要な国の中にあり、それぞれの国の門番のような役割のNPCによって見張られている。

 

 最初に転移してきたサクヤのことを見逃すはずがない。

 まずは騒ぎになって王のもとに連れて来られると彼女は予想していた。

 

 なら、一体どこに転移したというのか。

 

 またも嫌な予感がする。あの問題児のことだ。また自分も予想できないことをしたのかも。

 と、彼女は思った。


 

 「……こうなったらもうやってやるわよ」

 


 彼女は覚悟を決めた。

 サクヤのイレギュラー的行動を察知しなければイベントに支障が出る。


 本来なら禁止されている " エデン " への干渉を始めた。

 

 GMとしての権限を使ってプレイヤーを検察する。

 サクヤが今どこにいて何をしようとしているのか。


 

 「居たわね! ッて……え!?」



 彼女はサクヤを発見した。

 サクヤがいた場所は彼女が想像も出来ないような場所だった。


 

 「どこなのよここ」



 神殿? 礼拝? 

 例える建物が浮かばないが、彼女はその場所を知らなかった。



 「こんなところ……私作った覚えないわよ?」



 " エデン " を作成するに当たって彼女が担当していないものも確かにある。

 しかし、ここまで豪華な内装なら携わっているはずだと思った。


 

 「それにこの魔物は何?」


 

 豪華な場所ばかりに気を取られていたが、サクヤの隣にいる狼のような大きな魔物にも疑問を覚えた。

 一体何者なのか。


 見たことがあるような無いような、そんなもどかしい感覚。

 記憶に片隅にあるものをどうにか思い出そうとした。



 「……あっ! エリアボス!?」



 数秒間の思考の末、彼女は思い出した。

 あの魔物は森エリアのエリアボス。


 彼女の記憶している姿とは少し違うが、間違いないと思った。

 しかし、問題なのはエリアボスがどうしてここにいるのかだ。



 「このAIどうしちゃったのよ!?」



 普通なら有り得ない。

 エリアボスが自分のエリアを飛び出して、全く関係ない場所にいるという事態はゲームとしておかしかった。


 

 「一体何をするつもりなの……?」



 サクヤは豪華な建物の中心に進んで行った。

 そこには禍々しい見た目をした水晶のようなものが飾ってある。


 見るからに重要そうなアイテムだということが分かった。

 そして彼女は考える。


 イレギュラーなサクヤがイレギュラーなエリアボスと、自分ですら知らない場所にある禍々しいアイテムに触れようとしている。

 おかしい。何かがおかしい。


 

 「ここで止めなきゃッ……!」



 無意識にユニットを召喚した。

 座標は禍々しいアイテムの周り。攻撃目標はサクヤだ。


 召喚されたのは天使だった。

 彼女が作成した中で最も強力なユニットを使ったのだ。


 確実に止めるために、もう一体召喚する。


 その時だった。



 「あっ…………」



 GMの権限が停止した。

 PCの画面はサクヤを映す場所から、始まりの街に戻されている。


 もはや干渉することは出来ない。

 恐らく、別のGMが停止させたのだろう。


 彼女の行為はやり過ぎていた。

 彼女自身も、自分の行動の重大さは分かっていた。


 しかし、それでもやったのだ。

 


 「はあ……」

 

 

 彼女はこれからの自分の未来を思い、溜息を吐いた。


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