魔女フィトニの遊戯
「うふふふふふ」
フィトニが右手を上に向けて左からなめらかに横に動かすと、部屋がとんでもない広さになり、さらにカラスたちがけたたましく鳴きながら襲ってきた。
一羽だけ止まり木にとまっている、大きな風切り羽根が根元から折れかけている上に翼の折れたカラスがいる。あれはきっとスペルビアだ。
こんなところで銃の力を解放するのは跳弾が怖いのでやめた。
カラスの羽根が舞う。フィトニが机を飛び越えて、床に降り立った。そしてカラスの猛攻を避ける僕と手を繋いで踊り始めたその瞬間、カラスたちが人間の姿になった。
魔女に手を掴まれると勝手に体が踊りだし、銃が手から離れてしまった。
しかも体を優雅に動かさないと重りでも付けられたかのような感覚がして、カラスだった人間たちの剣やナイフや鉄扇を持って舞う攻撃を避けるのが大変になった。
「あら、私に手を繋がれてうろたえず、しかも無傷でいられた人なんて何百年ぶりかしら……♪」
狂っている。本当に、心から喜んでいるようだ。
「実は私はこの城に封印されているの。最初はお城の探検も料理にも満足していたんだけどね……」
腕を引き寄せられて、フィトニの頭が僕の頭の右横にきた。
「飽きちゃったの。」
フィトニに手を離されても強制的に踊らされ続けた。彼女はインセニレとも手を繋いだ。
「最近やっと結界を弱めることに成功して、迷いこんだカラスを使い魔にして……人間を招待して遊び相手になってもらっていたの。」
荷物を持ったままこれだけ激しく、しかもカラスだった人間たちの攻撃を避けながら踊っていたので疲れてきた。
「そういえばあなたがたの荷物のなかに、かなり面白そうなものが沢山あったのだけれども、詳しく教えてくださらない?」
フィトニが腕を上げて下ろすと、舞っていた人間はカラスに戻り、住みかに戻ってこちらをじっと見はじめた。
「ハッ、ハッ」
息が切れてしまって頭がうまく働かない。インセニレは特に疲れている様子はなく、彼はこちらを少し見てからゆっくりフィトニの質問に答えだした。
「面白そうなものとは、例えばどんなものでして?」
いつもの少し乱暴な口調に、皮肉屋のような言い方が混じっている。
「まずはそうですね、あの……お二人の荷物の中にひとつずつあった、小さな本に一番興味がありますの。青い光の粒でいろいろな生き物が描かれていたものです。強い力が秘めてあるようだったので、恥ずかしながらその力を取ろうとしちゃいました♪ でも無理だったの♪」
フィトニは途中から顔を赤らめて、はにかんだ。
小さい本……インセニレも魂の救済者だったのか!
「あれは……魂謄本と言いましてね」
「インセニレ!」
魂の救済者であることを、魂の救済者以外に知られたなら知った者を49日以内にこの世から消さなくてはならないというのに……! 無責任なことを!
「魂謄本!」
フィトニはとても驚いた表情をして、インセニレに飛びかかった。
「魂と契約できる本だと聞いたことがありますわ!使い方を教えて! 教えなさい!」
フィトニの髪が突然伸びだした。
「ハハハ……じゃあ教えますがね、あれは魂の救済に使うものでして、契約名と呼ばれるものでまあ……それを使って魂と契約するんですよ!」
インセニレは半分やけくそになって答えた。フィトニの髪がさらに伸び、部屋全体を覆って僕らの体に絡み付き、身動きがとれなくなった。
「よこせ……! 魂を捕らえる……契約名……欲しい、欲しい、ホシイ!」
魂を……捕らえるだって……!?
アリベラーレの中に、激しい怒りの感情が渦巻いた。自分がやっていることはそんな低俗なことではないと。たとえ命は不平等でも魂は平等であり、捕らえるなどということは許されない、と。
アリベラーレの銃がガタガタと音をたてて揺れ始めた。
邪悪な魔女の髪の中で必死にもがいた。




