トランクルーム
「落とされるとかないよね……」
「それはない。あんな罠を掻い潜った俺たちはとんでもなく質のいい人間だからな。」
かごの加速が止まる。どのくらい昇ったのだろうか。地上に出ただろうか。もうあの光の階段があったり、床が降りる塔より上にきたかもしれない。
このかご……昇降機と呼ぼうか。落ち着いてみるとこの中を観察するのは楽しいことだった。
出入口と反対の壁の下の方に、パネルがあるのを見つけた。
"トランクルーム"
「トランクルーム?」
しゃがんでパネルの周りを見る。おしゃれな取っ手があった。
「急に座ってどうしたよ」
「トランクルームって書いてあるパネルがあるんだ。そしてここに取っ手があるんだ。」
それらを順番に指差しながら言った。
「トランクルームって言うからには荷物を置く場所なんだろうな。これだけ装飾された場所だ。少し見るくらいいいんじゃないか?」
「そうだね。じゃ、開けるよ。」
取っ手を持って引いた。そこにはなんと僕らの荷物が置いてあったのだ!
「あ! 僕の背嚢! よかったぁ」
あまりの嬉しさに背嚢を引き寄せて抱きつこうと、手を伸ばした。が、インセニレに手を掴まれて止められた。
「? ああそうか。油断したらだめだね。」
「いや、ここに罠はないと思うが、気分を高揚させたまま魔女に会うのはやめたほうがいいとも思う。」
「うん。」
銃剣と銃もそのまま置かれており、装弾子はそれなりの紐でまとめられていた。背嚢の中身も変化はなかった。
銃剣を剣止めに固定し、紐をほどいて装弾子を弾薬盒に入れていると、荷物を持ち終わったインセニレに肩を叩かれた。
「見てみろよ……」
立ち上がってインセニレの指差すほうを見た。いつの間にかトランクルームの上の壁は透明になっている部分があったのだ。昇降機内の装飾が額になって、そこにある森の景色が一枚の絵画のように見える。
「もうここまで昇ったんだね。急ごうかな……」
昇降機が減速を始めた。
装弾子を急いで仕舞って銃に装弾する。ブラータは5発全部使ったようだ。
昇降機が止まった。小さなベルの音がチリンチリンと外で鳴り、扉が開いた。
カウンターのような机、左右にある棚、天井のシャンデリア。すべてが昇降機の中、いやそれ以上の美しさだった。
魔女であろう人がこちらに背を向けて机の向こうで座っていた。いよいよ人間を遊び道具にするような者と対面するのだ。とても緊張してきた。
「ようこそ。私の城へ。」
子供の声で彼女はそう言った後にこちらを向いた。一見すると少女のようで、とても整った顔立ちをしている。
「偉大なる魔女フィトニ様。お会いできて光栄です。」
インセニレはお辞儀をして丁寧に挨拶した。
敵意を向けられるまではできるだけ穏便にしていたいので真似てお辞儀をした。
「名前を伺ってもよろしくて?」
「お……私はインセニレと申します。」
「僕はアリベラーレといいます。」
「会いにきてくださって、嬉しく思います。」
フィトニは笑顔になった。
「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます。」
「私は招待状にお礼をすると書きました。宝石を受け取ってください。人間なら誰でもお好きなものでしょう?」
フィトニが指を動かすと、こちらから見て左側の棚の引き出しの一つが開き、中から金や銀で作られていて宝石の散りばめられた箱が僕らの前に飛んできた。浮いたまま静止している。
「そちらの宝石箱のなかからひとり一つ、お好きなものをどうぞお取りください。宝石には種類によって違う良き魔法がかかっていますから、触って効果を確かめてじっくり選んでください。」
迷わずルビーをとった。触れたときに効果が頭に流れこんできた。
力と情熱、行動力を高め、危険を知らせてくれる……そんな感じだ。
インセニレは箱の中身を見ずに手を箱の奥に突っ込み、ひとつつまんでポケットに入れていた。
宝石箱が元の場所に戻った。
「私は長い間ひとりでした。私の遊戯に付き合ってくださる人間はこの百年間おりませんでしたの。でも今日は目の前にいます♪」
付き合える人間の間違いだろう。
「さあ、一緒に遊びましょう♪」
後ろでカーテンが開く音がした。昇降機の横のカーテンの向こう側は七羽のカラスたちの住みかだったのだ。




