第2話
読んで頂きありがとうございます。
前回投稿から1カ月以上が過ぎてしまい大変申し訳ないです。
皆さまをお待たせしないように頑張りたいと思います。
「んーっ、美味しい! いいよね! 必要だよね! B級グルメ! お屋敷のご飯は好きだけど、やっぱり屋台の味も捨てられないなぁ」
セインさんから外出許可が出たので、メイとツイルさんの目を盗んで街にやってきた。
早速屋台で串焼きとクレープみたいなお菓子を買って王都広場のベンチに腰を下ろす。
街に来たのは気晴らしってのもあるけど、本当はここに私ができるような仕事があるか、一人で住めるようなところがあるか探しにきたんだよね。
ナナとの入れ替わりが不可能になった以上、ラインシート家にお世話になるわけにはいかない。
私に還る場所がなくなっても、サイアスさんはきっと保護し続けてくれると思う。でも、それに甘えるわけにはいかないよね。
それに、サイアスさんを好きな気持ちを持ったままお屋敷にいるのは辛い。彼もいつかは結婚しなくちゃならないものね。好きな人が誰かと結婚するなんて・・・・考えたくもない。
侍女の仕事も続けるとなると、サイアスさんと顔を合わせることになるから、思い切ってそれも辞めようと思っている。
「んーっ、この食堂はどうかな? 住み込みもできるのかな? 行ってみようかな」
広場の掲示板から取ってきた小さなメモを見る。
王都広場の掲示板には、小さなメモがたくさん張り付けてあって自由に取っていいようになっている。メモの内容は求人だったり、人探しだったり、お店の新規案内だったりと様々だ。
私が気になったのは『若草亭』という食堂の新規開店案内と求人のメモだった。街の中央からは少し外れるけど治安はまずまず良い所だし、お給料も悪くはない。
「よしっ! 行こう」
私はメモをポケットに入れ立ち上がった。
「よう、じぃさんよ。悪いことは言わねぇ、有り金全部出しな」
歩き始めて暫くすると人通りの少ない路地裏に差し掛かり、不穏な言葉と雰囲気に足を止めた。
声の聞こえた方に眼を向けると、身なりのいいお爺さんが3人のならず者に囲まれている。お爺さんは背筋を伸ばしたまま怯えることもなく毅然と奴らを見据えている。
「貴様たちのような者が闊歩しているとは王都も落ちたものだな」
お爺さんはため息をついて一言吐いた。
「んだとぉ!」
ならず者の1人がお爺さんの胸倉をつかんだ。
やばい! お爺さん! こいつらを挑発してどうするの。
「年寄り相手にやめなよ!」
私はならず者とお爺さんの間に割り込み、お爺さんの胸倉を掴んでいる奴の手を払った。
「邪魔すんじゃねぇ!」
男は私の頬めがけて拳を繰り出してくる。まったく、か弱い女子になんて乱暴なんだ。
男の拳を左前腕で受け止め、右拳を鳩尾に打ち込む。
「ぐっ」
男は呻いて後ずさって尻餅をついた。
「大丈夫か、おい」
仲間が男の身体を支えて、私に憤怒の表情を向ける。
「やるなら相手するけど」
防御の構えをとり、男たちに対峙すると、奴らは2人して襲い掛かってきた。
始めに飛びかかってきた男に掌底をくらわして、喉元を掴み捻って地面に叩きつける。2人目には足払いをかけ地面に倒すと、その腹部に拳を叩き込んだ。
男たちが暫く立ち上がれないでいるのを横目に、お爺さんの手をとって走り出す。
「路地から出ますよ」
「うむ」
お爺さんは若干息を切らしながらも私の手を離すことなくついて来る。お歳の割には鍛えているのかな?
路地を抜け、先ほどの王都広場まで戻ると足を止め、その手を離した。
「大丈夫ですか」
「まぁ、少し疲れたが問題ない。お嬢さんは強いな。警邏隊にでも属しているのかな」
お爺さんは息と服の襟元を整えながら聞いて来る。
「えぇ、まぁそんなところです」
本当のことをいう訳にはいかないから誤魔化しておく。
「名前は?」
「クサノ・ハナと言います」
「ハナ?」
お爺さんは私の名前を聞くと一瞬驚いたような表情を浮かべた。そんなに驚くような名前でもないと思うけど、確かにこの世界じゃ珍しいかもね。
「お爺さんは? どうして一人で街中にいるんですか」
身なりのいい老人だから貴族か大きな商家の人だと思うんだよね。そんな人がお供の一人も付けないで街を歩くなんて考えられない。
「わしはクイーブ。今は息子に代を譲って田舎に引っ込んでいるが、王都に籍を置く貴族だよ。今回王都に出てきたのは・・・・孫が心配だったからなんだ」
クイーブさんは、私を近くのベンチに誘導して座わり話し始めた。
「お孫さん?」
孫が心配って・・・クイーブさんの孫だった結構大きいよね。何が心配なんだろう。
「いい歳をして結婚しないのだよ。しかも、女に騙されているようなんだ」
「えっ、それは心配ですね」
クイーブさんは眉間に皺を寄せて前方を見つめている。
女に騙されている孫ねぇ。クイーブさんは厳格そうだから、居ても立っても居られなくて地方から王都まで出てきちゃったのかな。
「女は孫を騙して屋敷に入り込み、好き放題しているらしい」
「好き放題・・・・」
それは大変だ。女の色仕掛けに孫が引っ掛かっちゃたのかな。財産を取られなきゃいいけど。
「なんでも、好きな部屋を貰って贅沢放題。息子夫婦にも取り入って我が儘放題らしい。同じ屋敷に住んでいる孫娘が教えてくれてな。心配で王都に戻ってきたんだ」
「大変ですね。でも、一人で街を歩くのはお勧めできません。王都のお屋敷までお送りしますよ」
私は立ち上がって、クイーブさんにも立つよう促した。
「これは・・・・」
クイーブさんが、足元に落ちているメモに気付いて拾った。
「あっ、ごめんなさい。それ、私のです」
立ち上がった拍子に、これから行こうと思っていた『若草亭』のメモが落ちてしまったようだ。
「ハナさんは求職中か」
クイーブさんは私にメモを戻しながら聞いてきた。
「はい。今は事情があってある方のところでお世話になっているんですけど、そろそろ出て行かなくちゃならないので」
私はメモをポケットに戻しながら答える。
「出ていく?」
クイーブさんは不思議そうな顔をしている。
「はい。今まではその方の厚意でお家に置いてもらっていたんですけれど、事情が許さなくなったので出て行かざるを得ないんです。とってもいい方なので、このままだと甘えてばかりになってしまうから申し訳なくて・・・・」
本当にこのままだといけない。早くナナの状況を説明してお屋敷を出る手はずを整えなきゃ。
「さぁ、クイーブさん。お屋敷はどちらですか?」
「屋敷?」
「王都でのお屋敷ですよ。また、あんな輩に絡まれたら大変です」
「あー、屋敷なぁ」
クイーブさんの歯切れが悪い。お屋敷に行きたくないのかな。悪い女を一喝するんじゃなかったのかな。
「お屋敷に行って、お孫さんを助けなくちゃならないんでしょう」
「あぁ、まぁ。その・・・事情があって今帰る訳にはいかないんだよ」
クイーブさんの目は左右に泳いでいる。言いたくないことがあるんだな。
はっ、意外に高位の貴族だったりして。どうしよう、そんな人を広場に置き去りにできないよ。
そうだ、サイアスさんに助けを求めたらどうだろう。クイーブさんのお孫さんのことも知っているかもしれないし、きっと協力してくれるよね。
「クイーブさん、ラインシート家に行きましょう」
「はっ? ラ、ラインシート!」
クイーブさんは驚愕の表情を浮かべている。そうだろう、そうだろう。王都の大貴族だものね。
「大丈夫です。とても信頼できる人が相談に乗ってくれると思います」
「しかし・・・・」
「さぁ、行きましょう」
私はゴニョニョと独り言を呟いている彼の手をとり、お屋敷に向けて歩き出した。
お屋敷のエントランスの前に立つと、何やら中が騒がしくて「ハナが」とか「探しましたが」とか聞こえて来る。
やばっ、サイアスさんの声が聞こえる。サイアスさんがお屋敷に帰る前に戻ろうと思っていたけど、クイーブさんの件で時間がかかってしまった。
また心配かけちゃったよ。怒られるかな。
「ハナさん、行かないのかな」
私の足が止まってしまったのを見て、クイーブさんが聞いて来る。
「いや、あの、その・・・・。私が信頼している人はとても優しくていい人なんですが、その怒ると怖いというか」
私が、クイーブさんにしどろもどろに説明しているとエントランスの扉が勢いよく開いた。
「ハナ!」
サイアスさんが私を見て驚いたように声を挙げる。
「ごめんなさい! 心配かけました」
私は慌てて頭を下げて、ギュッと眼を閉じたまま謝罪の言葉を口にした。
「良かった。心配した・・・・」
サイアスさんの両手が私を抱きしめようとした時、その動きが止まった。
「お爺・・・・」
「大旦那さ・・・・」
サイアスさんとツイルさんが何か言いかけたところで、
「ハーックシュ! どうも風邪をひいたようだ」
クイーブさんはくしゃみをした。
「大丈夫ですか」
「うむ、春とはいえ冷えるな」
「サイアスさん、この方はクイーブさんといいます。名前は明かせないけど貴族だそうです。今回は、孫が心配で王都に来たそうです。その孫っていうのが、いつまでも結婚しなくて、おまけに女に騙されているようなんです。女はお屋敷に入り込んで好き放題しているんですって。きっと、その孫に財産をごっそり貢がせるつもりじゃないんでしょうか。一体どこの貴族なんでしょうね。クイーブさんの力になってくれませんか」
「ハナ・・・・」
サイアスさんは眉間に皺を寄せている。ツイルさんやメイ、マリーネさん、他の使用人も呆れた表情を浮かべている。
きっと、ひどい話なんだ。クイーブさんの力にならなくちゃ。




