第3話
お久し振りです。
読んで頂きありがとうございます。なかなかPCに向かうことができず「5カ月以上」の表記がされてしまいました。申し訳けありません。
物語は終盤です。小話も含めGW中にはすべて投稿できる準備ができました。お付き合いいただければ幸いです。
「あーはっはっ」
エントランスにクイーブさんの笑い声が響く。
えっ、何がおかしいの? それよりラインシート家で大笑いって失礼にあたらないの? クイーブさんの家格は伯爵家より上なの? 様々な考えが私の頭の中を駆け巡る。
「ミリィ、嘘はいかんな。嘘は」
クイーブさんは、笑顔を消し若干怒りを含んだ表情で、ミリィ様に声をかけた。
へっ、知り合い?
「・・だって、おじい様。わたくし、お兄様には相応しい方をと思ったんですもの」
ミリィ様は口を尖らしてクイーブさんに答える。
「十分、相応しいと思うがな。なによりサイアスが選んだのだろう。ミリィは兄が信じられんのか」
「そういうわけじゃ・・・・」
「では、もう嘘をつくことはせんな?」
「はい・・・・」
ミリィ様は不承不承という感じで頷いた。
んっ? おじい様? ひょっとしてクイーブさんって、ラインシート家の先々代当主? ってことは騙されている孫ってサイアスさん!? お屋敷に入り込んで孫を騙している女って私のこと!?
なんで! なんで、そんなことになってんの? サイアスさんを騙すつもりなんて全然ないのに!
「サイアスさん・・・クイーブさんは・・・・」
私は隣に立つサイアスさんを見上げる。
「あぁ、私の祖父だ。ハナが寝込んでいる時に王都に着いたんだ」
サイアスさんはため息をつきながら教えてくれた。
「あの・・・私、サイアスさんを騙すつもりなんてないですよ」
「分かっている。ミリィが、なにか誤解するような事を祖父に話したんだろう」
私とサイアスさんが話していると、クイーブさんが近寄ってきた。
「ハナさん、黙っていて悪かったね」
クイーブさんは苦笑いしている。まったく・・・笑い事ではありませんよ。
「いえっ、でも私はラインシート家の財産なんて狙ってませんからね」
クイーブさんに少し恨みがましい視線を向けて答える。
「わかっとるよ、ハナさんはそんな人じゃない。孫娘の誤解だったようだ。許してやってほしい」
クイーブさんがミリィ様を見ると、彼女は小さな声で「ごめんなさい」と私に向けて謝った。顔は横に向けていたけど。
まぁ、仕方ないよね。自慢の兄が私みたいな異世界人を保護しているなんて面白くないもの。
「サイアス。この娘は離してはいかんな」
クイーブさんは、サイアスさんに向き合った。
この娘って私のこと? 離してはだめって?
「おじい様に言われるまでもありません」
サイアスさんは憮然と返している。
「そうかな。脇が甘いぞ」
クイーブさんはそう言うと、サイアスさんの目の前に『若草亭』のメモを掲げた。
あれっ? 私はメモを入れていたポケットの中を探った。メモはいつの間にか消えていた。クイーブさんが取ったの? いつの間に!
メモを突き付けられたサイアスさんの目は真ん丸になり、その後周囲にひんやりとした空気を漂わせ始めた。
「ハナ、これはどういうことかな」
彼は、私にメモを指して真顔で問いかけてくる。
やばっ、これはかなり怒ってるよ。でも、なんで?
「あー、その・・・・そろそろ自立しないといけないなと思いまして・・・・あっ」
言葉の途中で、サイアスさんは私を抱き上げると、2階へと続く階段を上り始めた。
「どっ、どうしたんですか?! 降ろして下さい!」
手足をばたつかせて抵抗してみるけど、サイアスさんの腕はがっしりと私を抱えていて隙がない。
私の慌てる様子をよそにサイアスさんはどんどん進んでいく。
階段下からは「しっかり説明するんだな」とか「ハナ、サイアス様の言うことは本当だからね」「やっとここまで来ましたか」なんて声が聞こえる。
何のことーっ、わからないよ!
「さて、聞かせてもらおうか」
サイアスさんは執務室のソファに私を座らせると、自分も目の前の椅子に腰かけた。
聞かせるって? 自立する理由でいいのかな。ナナのことは王都に戻ってから話すって言ってあったし、レオンの事件が片付いて平和になった今言うべきだよね。
私は目の前のサイアスさんの目を見つめ返した。
「サイアスさん、私は日本に帰ることが出来なくなりました」
以前は考えることも怖くて仕方なかった言葉を発する。若干語尾が震えたけど、心は穏やかだ。この国で生きていくしかないことを受け入れたからかな。
そう、この国で生きていくしかない。悲しいけど、どうあがいても日本には戻れない。
鼻の奥がツンとして、眼が熱くなるけど話そう。今の気持ち、これからの私の身の振り方で考えていることを。サイアスさんなら分かってくれる。
「ナナに何かあったのか」
サイアスさんは驚いたようだけど、静かに問いかけてきた。
「はい、彼女は私の隣の家に住んでいる男性と日本から他の国に移って暮らし始めました。身分証明ができない彼女には不可能なことなのに、男性は彼女のために不正に身分証明にあたるものを手に入れました。ナナと男性は結婚する気でいます。ナナがこの世界に戻りたいって思うことはもう無いと思います」
「それは・・・・」
「はい。私が日本に戻れる可能性が全く無くなったということになると思います」
「ハナ・・・・」
サイアスさんの手が私の頬に触れ、優しく目元の涙を拭ってくれた。それで自分が涙を流していたことを知った。覚悟はしていたけど現実を言葉にするとつらい。
「サイアスさん・・・。今までありがとうございました。色々と還る方法を探してくれていたんでしょうけど、もう・・もう・・・」
ダメだ。やっぱりつらい。家族に、友達にもう会えないなんてつらすぎる。ずっとずっと還れるって思って過ごしてきたのに・・・。頭の中に両親や美野里、友人たちの顔が浮かんでくる。
「ハナ、我慢しなくていい」
サイアスさんはそっと私の頭を自分の胸元に抱き寄せた。
ありがとうサイアスさん、いつもいつも気遣ってくれて。彼の腕の中は本当に安心できて、私を甘えさせてくれる。でも、きっとこれが最後だ。
私の涙は更に大粒になり、嗚咽を伴って流れ出てきた。サイアスさんは黙って私の頭を撫でてくれている。
良かった。保護してくれたのがサイアスさんで本当に良かった。ありがとう、ありがとうサイアスさん。
家族のように過ごすことができたお屋敷の皆ともお別れかと思うと、涙はいつ止まるとも知れず流れ出てくる。
ひとしきり泣いてしまうと、段々と心が落ち着いて来るのがわかった。
そうだ、まだ言わなくちゃならないことがある。
「サイアスさん、私、お屋敷を出ようと思います」
思い切って言うと、サイアスさんの肩がピクッと震えた。
「どうして?」
サイアスさんの声が震えているように聞こえる。
「いつまでもお世話になるわけにはいきません。もう、イーリアス語の読み書きもできるし、生活習慣についても理解したし・・・・侍女も辞めて、街で働きながら暮らそうと・・・・」
「ハナ!」
サイアスさんが、私の声を遮った。彼は私の肩に両手を置いて、私の瞳をしっかりと見つめてきた。
「ハナ、ここにいてほしい」
「いつまでもお世話になるわけには・・・・」
「世話などではない!」
サイアスさんは、また私の言葉を遮った。
いやいや迷惑だよね。前にも思ったけど、私がいたら結婚相手が見つからないよ。
「そう言ってくれるのは嬉しいんですけど・・・・私がいたら、結婚出来ないんじゃ・・・」
「ハナ!」
うわっ、また遮られた。
「結婚するなら、君とだ!」
はっ? ケッコンスルナラキミトダ・・・?
君? 誰? 私は周囲を見回した。
私の動作を見てサイアスさんはため息をついた。
「ハナが好きなんだ。愛している」
ハナガスキナンダ、ハナが好きなんだ、アイシテイル・・・・?。
えーっ!? サイアスさんが私のこと、好き!?




