第1話
読んで頂きありがとうございます。
台風19号に被災された方々にお見舞い申し上げます。1日も早い復旧を願っております。
レオンの襲撃から1週間
イーリアス王国には日常が戻っていた。
あんなことがあったけど、新年祭と王妃就任式は予定通り行われたらしい。
国賓を招いていた晩餐会も通常通りに行われたってサイアスさんが言っていた。
私はベットの中に居なくちゃならなかったから護衛には就けなかったけど、レイラさんは肋骨2本も折ったのに、胸部を布で強く巻いてアリシア皇女の警護に当たったって聞いた。すごいよ・・・・。
イーリアス国民や他国からの賓客は、皇族の方々が何事もなかったようにふるまったことで、その裏で何が起きていたかなんて全く知らなかったようだ。さすが皇族の方々、あんな襲撃にあって惨劇を見たのに・・・国民に対する責務なんだろうな。メンタルの強さは半端ないね。
フロンシーヌ様はふんわりとした雰囲気を纏っているから、王妃として大丈夫なんだろうかと心配したこともあったけれど、国王をしっかりと支えて行けそうで良かった。
襲撃の後、レオンは斬首されて罪人の墓地に埋葬されたらしい。今回の襲撃についてライデント国王に文書を送り責任を問い質したけれど、国王はレオンの存在を否定した返書を送ってきたのみだったとのこと。
レオンは存在しない皇子として処理されてしまった・・・・。
イーガル皇子はレオンに協力した罪を問われ、東の国境近くの離宮に生涯幽閉となった。国王から幽閉となることを聞かされると薄っすらと笑みを浮かべて、ウィル皇子に「良かったな」って言ったってサイアスさんから聞いた。身体が丈夫だったら、彼が皇太子のはずだったのに・・・。ウィル皇子も辛いだろうな。
レオンと麻薬取引をしていた貴族は近衛と軍部に一掃された。結構な数の貴族が捕縛され、爵位を剥奪されたみたい。薬、ダメ、絶対。
私の傷はだいぶ良くなって、今日はセインさんが抜糸に来てくれる予定。
そう、私の身体はもう日常生活を送るのになんの支障もない状態になっているのに、サイアスさんのお許しが出ずに、私はお屋敷に籠りきりになっている。
大体、3日前までは食事も「口を開けて」って言われて口元に運ばれていたんだよ。フォークくらい自分で持てるって。どこまで過保護なんだろう。
食事はこの部屋まで運んでもらっていたけど、時々、サイアスさんと一緒にミリィ様もやってきて、看護されている私をなんだか念の籠った眼でじっと見つめていた。怖い、怖い。
「ハナ、セイン先生よ」
メイとツイルさんがノックと共にセインさんを案内してきてくれた。
「嬢ちゃん、元気かの? ほれっ、入れ」
セインさんの後に続いて現れたのは剣聖ダニエルだった。ダニエルは襲撃後も王都にとどまっている。久しぶりの王都だし、新年で友人たちが領地から戻っているから会うつもりらしく暫く逗留するらしい。
そのダニエルに促されて渋々登場したのは団長だった。
「よう、ハナ。元気か」
団長は片手を挙げて苦笑いしている。
「そんな挨拶はいいから、謝罪をしろ!」
ダニエルは、団長の足を軽く蹴飛ばした。
「謝罪?」
私は首を傾げる。団長が私に謝ることなんてあった?
「あぁ、あの時は悪かった。お前のことを護る価値のない異世界人と言ってしまった」
団長は俯いて小さな声で言うと、私に向かって頭を下げた。
そうだった。あの言葉でこの国に私の居場所はないって思ったんだった。
「俺は、お前のことそんな風には思っていないんだ。その・・・」
団長は口ごもる。
「そうじゃ、レオンにわしの行動を悟られないため、気を引くために言ったらしい」
ダニエルが団長をフォローする。
うん、あの時は分からなかったけど、ダニエルがあんな登場の仕方をしたからわかったよ。サイアスさんもあれは本心じゃないって教えてくれたし。
「ハナほどこの国に必要な奴はいねぇよ」
団長は頭をポリポリと掻きながら呟いた。
「団長、ありがとうございます。アリシア皇女のため、イーリアス王国のためにまだまだ頑張りますよ」
私は団長に笑顔で返した。やっぱり『必要』って言ってもらえるのは嬉しい。
「ハナちゃん。抜糸しようか」
セインさんがテーブルの上に必要な器具を並べ終えている。
うーっ、痛いのかな。
あれ、ちくちくするけど痛みは大したことないや。
セインさんは小さなハサミみたいなのを火で炙って、糸を切っていく。熱が下がって、意識がしっかりした時、縫合された傷を見てこの世界に縫合の技術や化膿止めの薬があったことに驚いた。傷から感染症起こして死んじゃうかもって思ってたから、本当に助かったよ。
「はーっ、良かった。皮膚は綺麗についてるね。これならサイアス君に文句言われないで済むよ」
傷は少し痕が残ったけど、綺麗にくっついている。セインさん、さすがだね。
「ありがとうございます。セオドア様」
メイがセインさんに頭を下げた。私が首を傾げて彼女を見ると、
「サイアス様が気に病んでいたのよ。綺麗な肌に傷が残ったとか、腕を出すドレスが着られないとかって、ブツブツブツブツと耳にタコができるかと思ったわ」
メイはため息交じりに言葉を続けた。
「ははっ、それはそれは・・・・」
セインさんは苦笑しながらメイに答えた。
「メイ、言い過ぎだ」
そう言いながらツイルさんも苦笑いしている。
「あっ、そういえば。団長がお屋敷に来たってことは、サイアスさんに仕事丸投げしてきましたね」
「いいんだよ。サイアスの奴、お前の看病のために何日休んだと思ってるんだ」
団長はメイに淹れてもらったお茶をダニエルと飲みながらのんびりしている。
「えーと、5日?」
「そうだ。その間俺が頑張ったんだ。しっかり働いてもらわねぇとな」
団長は大口を開けて笑った。ダニエルも隣で笑っている。
「そうだね」
セインさんも苦笑いした。
「そうだ。セインさん、私外に出てもいいですよね」
「?」
セインさんは、キョトンとした顔で私を見る。
「サイアスさんが、まだ外に出ちゃダメって言うんです」
私の言葉に、セインさん、団長、ダニエルまでもが吹き出した。
「なんの問題もないですよ」
セインさんは呆れたように返してくれた。あぁ、やっと外に出られる。
私が、ニヤリと笑ったのをメイとツイルさんは見逃さなかった。えーっ、見逃してよぉ。ずっとお屋敷の中だったんだよ。ストレスが溜まって仕方がないんだからね。
「メイ、ツイル、諦めろ。ハナは絶対抜け出す」
団長がニヤリと笑う。
「仕方ないですね。あまりサイアス君に心配かけないで下さいよ」
セインさんはため息をついた。
「大変じゃのう。ラインシートの坊ちゃんも」
ダニエルは大きな声で笑った。
メイとツイルさんは大きく溜め息をついた。




