第18話
読んで頂きありがとうございます。
今週は先週に続き更新することができました。いつも出来れば良いのですけれど・・・・。
今回はツイルさんの視点でお話が進みます。
「女性が剣なんて野蛮だわ。そう思わないツイル?」
ミリィ様がサイアス様と打ち合っているハナを見ながら私に聞いてくる。
そう思うなら鍛練場になどについてこなければいいのに。面倒な小娘だ。
小娘はサイアス様を敬愛している。優しく、強く賢い自慢の兄なのだ。当然、兄には自分が納得するような美しい聡明な令嬢が寄り添うべきと考えている。
残念ながら、ハナには美しさも聡明さもない。だが、愛らしいのだ。物事に取り組む様が懸命で好感がもてるのだ。人に対する垣根もなくすべての者に優しく微笑む。そんな令嬢などイーリアスにはどこを探したっていないだろう。サイアス様はそんなハナに魅かれたのだと思う。
私としては、結構間抜けなのと鈍いのをなんとかしてほしいのだが・・・・まぁ、サイアス様にとってはそこも愛すべき点なのだろう。
私の隣でメイが溜め息をついた。
数日前から、ラインシート家の使用人になった彼女にはハナの侍女をしてもらっている。彼女は私とマリーネの「ハナをサイアス様の花嫁にする計画」を聞くと大喜びで協力を申し出てきた。
彼女はナタリア事件でハナに危害を与えそうになったことをひどく後悔し反省していた。ハナには幸せになってほしいと考えているのだろう。だがな、ハナはメイにも幸せになってほしいと思っているはずだ。あの事件を必要以上に気に病む必要はないと言ってやりたいが、今はその時ではないな。
それにしてもミリィ様だ。
私たちの計画上、邪魔な存在だ。せっかく順調に事が進んでいるのに、横やりが入って二人が結ばれる時間が延びてしまうのは避けたい。
「ミリィ様、ハナはアリシア皇女のお気に入りの侍女なのですよ」
私はミリィ様に向き合った。
「えっ!?」
ミリィ様はこれ以上なく目を見開ている。
貴族令嬢にとって王族の女性の華やかさや聡明さは憧れの対象だ。アリシア皇女ともなればその最たるものだろう。14歳の彼女にとってアリシア様は雲の上の存在に等しい。
「ハナが登城すれば、アリシア様は常に彼女を傍にお招きになりますわ」
メイが私の言葉の後に続く。まぁ、常に傍に侍るのは暗殺を防ぐためだがな。それはミリィ様に言うことではない。
「そっ、そうなの?」
「はい。ハナはとても優秀なんですよ」
体術の使える侍女としてですがね。つい、本音が漏れそうになるが堪える。
「そう、アリシア様の・・・・。わたくし、先に戻りますわ」
ミリィ様は何事か考え込むように顎に手を当てて屋敷に戻って行った。
「ハナに対する印象は変わったかしら?」
メイがミリィ様の後ろ姿を見て呟く。
「どうだろうな。まぁ、少しは良くなったんじゃないのか」
私は剣の打ち合いをしている二人のためにコップに冷たい水を注いだ。ハナの息が切れ始めている。そろそろ一休みというところだろう。
「ツイル、よっぽどハナさんを兄さんの奥さんにさせたいみたいだね。そんなにいい娘なの」
声にふりむくと、サイアス様の弟であるライル様が立っていた。
彼は22歳とお若いが西に位置するご領地をうまく経営なさり、周辺の経営のうまくいかない領地を吸収して自領地の拡大を図っている。その手腕は「商才の鬼」と恐れられた先代のラインシート伯爵のようだと言われている。
彼は中央に戻るつもりはなく、地域に王都規模の都市を造り発展させ国境の護りを固めて、国のために尽くすつもりだと以前聞いたことがある。
「えぇ、なによりもサイアス様が選ばれたお方なので」
「そうだね。兄さんが女性と居てあんなに楽しそうな顔をしているのなんて初めてみたよ。本当にハナさんのことが好きなんだね。でも僕は無理だな。もっと凹凸があって、美人じゃないと無理」
ライル様の発言を聞いて、メイが彼から数歩下がったのを見た。
メイ、呆れてはいけない。ライル様は女性に美しさと妖艶さを求めるお方なのだ。
「それにしても剣の筋がいいね」
ライル様はハナの動きを目で追って口にする。
「彼女は剣聖ダニエルに剣の指南を受けましたから」
「へーっ、すごいね。お相手願ってみようかな」
ライル様は木剣を手に鍛錬場に向かって行った。
「引くわね。本当にサイアス様のご兄弟?」
メイは眉根を寄せている。
「まぁ、昔から浮名を流しているのは知っているだろう。でもあれで仕事に対する姿勢は真面目だし、領地も彼の手腕で潤っているから、多少大目に見てほしいね」
「わかりました」
メイは答えた後に溜め息をついた。
ライル様がハナの相手を始めたためにサイアス様が戻ってきた。
彼にコップを手渡すとゴクゴクと音を立てて水を飲み干した。
「こんなに穏やかな時を過ごすのも久しぶりですね」
私はコップに水を追加して注ぎながら口にした。
「そうだな。ハナと打ち合いをしたのも久しぶりだ。剣の腕が上がっていて驚いたよ」
サイアス様は嬉しそうに笑っている。
いやいや、剣の打ち合いではなく甘い時間を過ごしてほしいのですが。サイアス様もハナに影響されて相当間抜けになってきている。ミリィ様の邪魔が入らなくても結ばれるまでには気の遠くなる時間がかかるのだろうか。軽く眩暈を感じた。
「サイアス様、ギフカドの旅行でハナとの進展はなかったのですか?」
主君に対してはどうかという質問だが把握しておきたいことである。
「ハナの気持ちはライデントの軍船の中で間接的に聞いて、私のことを想ってくれているのがわかった。だが、私の想いは伝わっていないようだ。自分は保護されている異世界人だから、優しく接してくれていると考えているらしい。こんなに態度に表しているのにどうしてハナに伝わらないのだろうな」
サイアス様は疲れたように苦笑しため息をついた。私もそれに同調する。私たちから見れば、サイアス様は十分すぎるほどアプローチしている。
「ハナは鈍いのです。ハッキリと口にされなければいけないと思います」
メイが、やや興奮したように口をはさむ。
「・・・そうだな。異世界のナナの状況について何らかの変化があったらしいから、それを聞いてから告白することを考えよう。だが、その前に新年祭や王妃就任式を無事に終えなくてはな」
サイアス様はそう言うと椅子に座り首元の汗を拭い始めた。
「ツイル様、ハナの世界では男女の距離がだいぶ近いのでは」
「あぁ、以前そのようなことを言っていたな。ハグというものや挨拶のキスもあるらしいが、ハナの国ではそういう習慣はないらしい」
「でも、サイアス様にあれだけ大切に抱きしめられてその想いに気付かないなんて。やっぱり、抱擁やキスに・・・・うぅん、それ以上のことにもに慣れているんじゃないのかしら。だから、サイアス様のまだるっこしいアプローチじゃダメなのかも」
メイは、腕を組んで考えている。
コップが地面に落ちる音でサイアス様の方を振り返る。そこには、顔色悪く
「まだるっこしい・・・・」
と放心したように呟くサイアス様がいた。
メイ、なんてことを言うんだ。
私が、メイを叱ろうとしたその時、
「ハナーッ、やっぱり生きてたんだな!」
アロー様が全速力で鍛錬場に入って行った。
どうして屋敷に入ることができたのでしょう。まぁ、彼もハナが死んだと聞いては居ても立っても居られなかったでしょうから、マリーネあたりが口添えしたかもしれませんね。
アロー様はハナに近づくと、ライル様が呆気にとられているのも物ともせずに彼女を抱きしめた。
「うわっ、ニール! なになに。大丈夫だよ、生きてるよ! ぎゃーっ! 離して!」
ハナがアロー様の抱擁から素早く逃げた。
サイアス様の時にはおとなしく収まっているのに!
私がサイアス様とメイを見ると、二人とも目を見張ってアロー様とハナを見ていた。
「慣れては・・・・いないようですね」
メイがポツリと呟くと、サイアス様は黙って頷いた。
サイアス様、大丈夫ですよ。ハナはあなたの腕の中でだけでしか、落ち着けないようです。




