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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第4章
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第17話

いつも読んで頂きありがとうございます。

仕事もプライベートも忙しくて更新がままなりません。

でも、完結までがんばりますのでよろしくお願いします。

 あぁ、やってしまった。


 昨日寝ちゃったよね。

 サイアスさんのご家族の前でしっかり、ぐっすり寝ちゃったよね。

 部屋まで運んでくれたのはサイアスさんだよね。きっと、そうだよね。

 ご家族はそれ見てたんだよね。うわーっ! どうしよう。

 きっと、なんて図々しくて身の程知らずの異世界人だって思われたよね。最悪だ。


 あまりの大失態にベットの上でジタバタしていると


「ハナ、ゴロゴロしてどうしたの?」


 聞き覚えのある声がして布団から顔を出すとメイが立っていた。


「メイ! もう身体はいいの! いつお屋敷に来たの? もう働いてるの?」

 嬉しくて矢継ぎ早に質問する。

 眼の前に立っているメイは、ナタリア事件の時より顔色も良くなって、少しふっくらと健康的になった気がする。彼女は療養した後にラインシート家に就職することになっていたから、もう身体は大丈夫なんだろう。良かった。

 メイはマリーネさんと同じ制服を着ていて、洗面器に水を注ぎ、私にタオルを手渡した。


「ハナがギフカドに行っている間にセイン様のお許しが出てここに移ったの。ちょうど、ラインシート伯爵もご領地から戻られたしね。御挨拶させて頂いたわ」

「そうなんだ。嬉しいな、メイがお屋敷にいてくれるなんて」

 私が洗面器で顔を洗っていると、メイは着替えを用意してくれている。


「メイ。私、自分のことは自分でするから大丈夫だよ」

 メイに声をかけると彼女は呆れた顔をした。

「マリーネさんにも聞いたけど、ハナは自覚が足りないわ」

「自覚?」

「そうよ。ラインシート家で生活しているんだから、お嬢様らしくしてくれないと、サイアス様の立場がないわよ」

「立場?」

「えぇ、ラインシート家では令嬢教育もできないのかって噂されてしまうわ」

「でも、サイアスさんは好きにしていいって言ってくれてるよ」

 サイアスさんが私に令嬢らしさを求めることはないけど、それじゃダメだったのかな。

 立ち振る舞いはだいぶいいって言われるようになったけど、王城で見る令嬢たちと比較したらまだ全然ダメだもんな。使用人のみんなと友達みたいに話すし、庭仕事も一緒にしちゃってるし。

 でも、私に令嬢教育は必要ないよね。ラインシート家の令嬢じゃないし、自立できるようになったら出て行かなくちゃならない身だもん。


「でも、あのご家族を前にして好き放題できる? 実際、昨日は失態よね。あの場で寝ちゃうなんて有り得ないわ」

「うっ」

 痛いところついてくるな。確かに、令嬢というより人としてどうなんだと思うよ。


「それにね。ミリィ様は相当のブラコンよ。サイアス様がハナを気にかけているのを不満そうに見ていたもの」

「うわっ、どうしよう」

 ミリィ様って妹さんだよね。無駄に波風立てたくないな。

「頑張るしかないわ。ミリィ様が指摘できないほどの令嬢になるのよ。まぁ、彼女がどう言ってもハナの立場は揺るがないけどね」

「なにそれ?」

「ほんとに鈍いわね。私ね、ツイル様とマリーネさんの計画に加わらせて頂いたのよ。絶対に目標達成させるからね!」

 メイは両手をグーにして胸の前で更にグッと握った。なんだかものすごく気合が入っている。よくわからないけど、頑張ってねと心の中で声をかけて、ドレスに腕を通し始めた。



「おはようございます」

 着替えを終えると、メイに案内されてサイアスさんの執務室に向かった。

 メイは、サイアスさんに私が起きたら執務室に連れてくるように言われていたらしい。

 サイアスさんは私が入室すると、大きな図面から目を上げた。

「おはよう」

「それって、新しい警備配置図ですか」

 サイアスさんの傍に寄って図面を覗き込む。図面には新しく赤い書き込みがあって新たに兵が配置された場所が示してあった。

「ジャックが練り直したものだ。私も目を通して必要だと思われる部分に追記している」

「すごい。こんなに兵士を増やして配置するんですね」

「あぁ、何としても国王を護り、レオンを捕縛しなくてはならないからな」

 サイアスさんは少し溜め息をついて図面を引出しにしまった。



「サイアスさん、昨日はすみませんでした。私すっかり寝てしまったようで・・・・」

「疲れていたんだから仕方ない。大丈夫だよ、誰もハナを非難などしないから。それよりよく眠れたか」

 サイアスさんは笑顔で私の顔を覗き込む。

 うわっ、顔が近いってば。恥ずかしくてつい、視線を逸らして俯いてしまう。

「・・・はい。体力はすっかり戻ったようです」

「それは良かった」

 サイアスさんにポンポンと頭を軽く叩かれた。


 穏やかな日常につい笑みが浮かぶ。あと数日後にはライデントの精鋭を引き連れてレオンがこの国に攻めて来るって言うのに。


「お二人とも朝食が整うまでまだ少し時間がかかるようなので、お庭を散歩されてきてはいかがですか。スリートが満開で綺麗ですよ」

 メイが声をかけて来る。

「スリート?」

「あぁ、春を告げるとてもいい香りのする花なんだ。行ってみようか」

「はい。あっ、でもカテガルの密偵とか大丈夫かな」

「屋敷の周囲の警備をかなり強化している。異常があったらすぐわかるようになっているから大丈夫だ」

 サイアスさんに手を引かれてエントランスに向かう。

 メイは「いってらっしゃいませ」って言いながら片手をグッと握っていた。


 庭園に出ると風に乗って甘い花の香りが漂ってくる。

 イーリアス王国は春間近だ。この国には四季があるけれど、春と秋はとても短いらしい。でも、多くの花が咲き誇る春には王城はもちろん、各貴族のお屋敷ではお茶会や舞踏会が行われるってマリーネさんが言っていた。


「これがスリート?」

 サイアスさんに示されて目にした花はバラにそっくりだった。

「これ、私の世界ではバラって言います! うあぁ、嬉しいなバラが見られるなんて」

 私はスリートの花株に駆け寄った。香りもバラにそっくり。

 こうしてこの世界と自分の世界で共通のものを見つけるととても嬉しくなる。この世界が自分の世界と全くかけ離れたものではないんだって、繋がっているんだって思えるから。


 ・・・・涙が出そうだ。

 そう思った時、サイアスさんが隣に立って、バラに触れている私の手を取った。

「ハナ、王都に戻ったら相談したいことがあると言っていたな」

 サイアスさんに言われて思い出す。ナナが私の世界で生きていく決意をしたであろうことを。

 頭の中に幸せそうなナナと翔太兄ちゃんが浮かんで来て、私の顔は苦痛に歪んだ。


 瞬間、サイアスさんに抱きしめられる。

「ハナ、我慢しないで何でも話してほしい。私は何をすればいい、ハナが元気に笑って過ごせるようにするには何をすればいい」

 サイアスさんの声は苦しそうだった。サイアスさんはすごく優しいから、私の悩みや痛みにすぐ気付いて寄り添ってくれる。

 サイアスさんの腕の中はとても温かくて心地いい。私にはこれだけで充分。苦しい時にこの腕の中に居られることがとても幸せだと感じる。


「サイアスさん、ナナの行動が変化しました。でも、それは今言うべきことではないと思っています。ライデントの襲撃を防いで、イーリアス王国の式典が無事に終了したらお話します」

 そう、今は私のことでサイアスさんに心配をかけている場合じゃない。事がすべて落ち着いてから打ち明けるべきだと思う。

 この国に来て半年以上が過ぎている。多分、もう一人で生活していけるはず。いつまでも、サイアスさんに甘えているわけにはいかないしこれ以上、彼を好きになってはいけない。どれだけ想っても手の届かない人なんだから。



「あら、サイアスもスリートを見に来たの?」

 伯爵夫人の声がする。

 はっ! 私は慌ててサイアスさんの腕の中から飛び出した。


「ハナさん、ちょうど良かったわ。朝食の後に異世界の女性の話をしてくれないかしら、装飾品とか暮らしぶりとか聞きたいわ」

 夫人は眼をキラキラさせながら近づいてくる。彼女は綺麗でスタイルもいい。一体、何歳なんだろう。とてもサイアスさんみたいな大きな子どもがいるようには見えない。


「アリアーヌ、待ちなさい。私は彼女から異世界の政治や経済、歴史の話を聞きたいんだ。お願いできるかな、ハナさん」

 伯爵が夫人の後ろから現れて、やっぱり眼をキラキラさせながら近づいて来る。

「あら、あなた。わたくしが先よ。昨日から考えていたのですもの。あなたは後にして下さる」

「それはないだろう。私だってずっと考えていたんだ」

「嫌よ」


 あぁ、伯爵と夫人が私を挟んで睨みあっている。

 やめて下さい。私には女性の装飾品の話も政治や経済、歴史の話もできないよ。すごく浅い話しかできないよ。無理無理、困る。サイアスさん、サイアスさん助けて。私はサイアスさんを見つめた。


 彼はすごくおかしそうに笑った後、私の手を取った。

「ハナは、食後は私と剣の鍛錬をします」


 サイアスさんの言葉に伯爵夫妻は残念そうに溜め息をついた。

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