表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で侍女やってます  作者: らさ
第3章
36/84

第4話

 ガキッ!

 剣が振り下ろされる瞬間から目を閉じていた私の耳に、金属のぶつかり合う音が響く。


 目を開くとツイルさんが頭目の剣を受け止め、猛攻しているのが飛び込んで来た。

 ツイルさんの剣裁きは華麗で早くて、頭目はアッという間に壁際に押し切られ、兵士たちに取り押さえられてしまった。


「ハナ! 大丈夫ですか」

 ツイルさんは、頭目が捕らえられると私の元に走ってきてくれた。

「大丈夫です。ありがとう」

 私が顔を上げてツイルさんを見ると、彼はひどく驚いて目を見開いた。


「なっ、なんですか。その気持ち悪い顔と恰好は!」

 確かに変だけど、ひどい言われようだ。

「団長に、親のために緊急で薬を買いに来た子どもを装えって言われて・・・・」

「バカですか! あんな馬鹿団長に騙されて、あなたに何かあったら、サイアス様がどれだけ悲しまれるか。わかってるんですか!」

 うわっ、すごい迫力だ。ツイルさんがマジで怒ってる。

 でも、私に何かあっても、サイアスさんがそんなに悲しむとは思えないけどな。そんなことを言うと火に油を注ぎそうなので、黙って「はい」「すみませんでした」を繰り返し口にするしかなかった。


 それから、悪党どもがすべて連れ去られるまでの時間、理不尽なお説教が続いた。バカな策につられて、騙されたのは認めるけど、子どもたちを助けることができたから良かったじゃないとは、機嫌の悪いツイルさんには口が裂けても言えなかった。



「やぁ、ハナ。御苦労さん」

 お説教されている私のところに、団長がニヤニヤして現れた。こいつがすべての元凶だよ。

「囮にしましたね」

 呻くように問い質すけど、団長の表情は平然としている。

「さすが、ハナだよ。助かった。これで売買組織の親玉を捕らえることができる」

 笑顔満開の団長を、黙ってジロリと見上げる。か弱い女子に何させるんだか、本当に油断ならない人だ。


 団長を睨む私の前に、ツイルさんが割って入る。

「ダフル様、今後このようなことは無きように。ハナはラインシート家の人間です」

「ふーん、ラインシート家のねぇ。それにしちゃあ、障害が多すぎるようだがな」

「ご心配ご無用。サイアス様と私、屋敷の者共がいれば・・・」

「でも、あの爺は手ごわいだろうよ」

「大旦那様もハナの気性を知れば、すぐに気に入るでしょう」

「ふーん、まぁどうでもいいや。宿に戻ってひと眠りしてくれ。俺は一仕事してから戻る」

 団長は興味なさげに欠伸をしながら、兵士たちと出て行った。


「まったく、あの人は。さぁ、ハナ戻りましょう」

「うん」


 “ラインシート家の人間” ツイルさんの言った言葉が頭の中で回る。嬉しい。

 “ラインシート家の人間” 家族みたいだ。この世界で一人じゃないって、力づけられる。


「何、泣いているんですか」

 ツイルさんが慌てて、ハンカチを差し出してくれた。どうやら、私の眼からは涙が流れていたらしい。嬉しくて泣いたのなんて久しぶりだ。

「だって、ラインシート家の人間って。家族みたいでうれしい」

「家族ねぇ・・・・。その前にもっと気にしてほしい部分があるですけどね」

「へっ、なに?」

「わからないならいいです。帰りましょう」

 ツイルさんは軽く溜め息をついた。気にしてほしい部分ってなんだろう。団長の言ってた障害とか爺とか?


「ハナ、ありがとう」

 首を傾げている私にテリィが飛びついてきた。

「あぁ、テリィ。ケガはない」

「大丈夫だよ。ハナが守ってくれたから」

「私っていうか、ツイルさんだけどね」

 話しながら周囲を見回すと、子どもたちが消えていた。


「みんなは?」

「兵隊さんたちに連れていかれた。家に帰してくれるみたいだよ」

「そうか。テリィは行かないの?」

「うん・・・・。僕の家は・・・僕が戻ると困るんだ」

 テリィが俯く。それを見て、彼が親から売られたのだと察しがついた。

 黙って、テリィの頭を撫でて、震える身体を抱きしめた。7歳っていったら、小学2年生くらいだ。この世界の現実は厳しい。


「お前、名前は」

 ツイルさんがテリィと目を合わせるように屈みこんで聞いている。

「テリィ」

 テリィは、眼光鋭いツイルさんを目の前にしても臆することなく答えていた。そういえば、最初から度胸の据わっている子どもだなっていう印象があった。

「イーリアス国語が出来るんだな」

「うん、国境の町に住んでて商人相手に日雇いの仕事してたから。でも、読み書きはできないよ」

「そうか・・・・真面目に働く気はあるか」

「ツイルさん、まさか」

 ラインシート家で雇ってくれるのかな。期待してツイルさんを見つめる。

「えぇ、庭師のカッセルが新たな助手を探していましたので」

「やったぁ、テリィ! 一緒にラインシート家に帰ろう。そうだ、ライラに伝えてくるね」

 私は、まだ近くにいるであろう子どもたちを探しに部屋を飛び出した。



「ラインシート家?」

「イーリアス王国の伯爵家だ」

「はっ、伯爵!? ハナは伯爵家のお嬢様なの?」

「いや、次期当主の奥様だ」

「おっ、奥様ぁ?」

「あぁ、その予定だ。本人は全く想像もしていないがな」

「嘘だーっ! 『くっそう』とか言ってたよ、足技すごかったよ。あんな奥様みたことないよ! いいの、次期当主の伯爵様はそれでいいの?」

「いいんだ」

「うわーっ! なんで笑ってるの! 僕の国だったら考えられないよ!」

「ははっ、イーリアス王国でも異例だよ」

「・・・・」



「んっ、テリィの叫び声か」

 廊下を走っていた私の耳に、子どもの叫び声が聞こえた。なにが“嘘”なんだろう。ツイルさんは、彼を本気で雇う気だろうから、それとは無関係とは思うけど。なんだろう。


「ライラ!」

 エントランスを出ると、子どもたちが馬車に乗せられるところだった。ライラは私の声に気付いて立ち上がった。

「ハナ、ありがとう。国に帰ることができるわ」

「良かったね」

 子どもたちを見ると、みんながみんな笑顔で、安心した表情を浮かべている。

 この子たちは、全員攫われてきたのかな。中には売られた子もいるんだろうけど、テリィみたいに残らないってことは事情を分かってないのかな。いや、親に会いたくて仕方ないのかな。親は子どもが帰ってきたらどうするんだろう。また、売っちゃうのかな。

 ローランド国のことだから、どうすることもできないけど・・・・。いや、そもそもイーリアス国のことであっても、どうすることもできないけどね。

 王都に帰ったらアリシア皇女に相談してみよう。親が子を売らなくて済むように、国家間でなにかできるかもしれない。経済支援とか、産業・技術支援とか。


 子どもたちに手を振って別れを告げ、遠ざかる馬車を暫く立ち尽くして見ていた。

 馬車の影が見えなくなると、急に冷気を感じてエントランスを振り返る。


 エントランスには、ツイルさんとテリィが私を待っていた。

 んっ、テリィの私を見る目がなんか変わった?

「ハナ様」

「へっ!? 様付け? やめてよ、テリィ」

「しかし、ハナ様は次期当主様の・・もがっ」

 テリィはそこまで言うと、ツイルさんに口を塞がれてしまった。

「テリィ、まだまだハナって呼んでいいんだ。様付けになるのは、だいぶ先の事だからな」

 ツイルさんは優しく、にっこりと微笑んでいるけど、なんだか目が笑っていない。こういう時の彼は障らぬ神に祟りなしだ。話題を変えるに限る。


「さぁ、宿に戻ろうよ。今日は剣聖ダニエルに会うんでしょ」

「はっ、そうです。万全の体調で面会に臨まなくては」

 ツイルさんは、そう言うとテリィの口から手を放して、駆け出さんばかりの勢いで宿の方に歩き出した。

「2人とも、早く戻りますよ」


 私は、ツイルさんの声掛けに遅れないように、テリィの手を取って小走りで彼を追いかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ