第5話
読んで頂きありがとうございます。最近、隔週更新となってしまい申し訳ありません。
今回は前半は団長視点、後半はハナ視点でお話が進みます。
今後ともよろしくお願いいたします。
「ラング伯爵、首謀者は誰だ」
警邏隊の取調室で、先ほど捕らえたラング伯爵と向き合う。
奴は黙ったまま、俺と目線も合わせずに別の方向を向いている。だんまりか・・・・面倒臭ぇな。
「まぁ、大体の目星は付いてる。後は、あんたから言質を取るだけだ」
俺の言葉に奴は睨め付けるような視線を送ってきた。
「下賤な近衛団長に話すことなどなにもない」
「下賤ですまねぇな。だが、あんたは俺に捕らえられた。後は吐かせて中央に送るだけだ、吐かなけりゃそのまま中央に送る」
俺も奴を睨むように見つめ言葉を続ける。
「どっちにしろ、あの女は刺客を送り込んでくるぜ。トカゲの尻尾切りだ。あんたの罪は大したことはねぇ、言われたことをやってきただけだろう」
「子供の売買は私の意志だ。誰も関与していない」
奴は、俺が刺客という言葉を出すと、一瞬だけだが肩を震わせた。その後は平静を装い平然と、売買は自分の意志だと話す。なんの忠義なんだか。
「そうやって、庇ってやっても、あんたはただの駒だぜ。ほら」
俺の言葉と同時に、部屋の隅で警備にあたっていた兵士がラング伯爵に向けて小刀を投擲した。
小刀はまっすぐにラングに向かっていくが、俺はそれを剣で弾き軌道を変える。小刀はラングの頬をかすめて、床に突き刺さった。
「チッ、捕らえろ」
俺の言葉に室内の兵士が動き出す。しかし、兵士に扮した刺客は、小刀を投擲した直後から窓に向かい、そこから身を乗り出し、俺が言葉を発した時には姿を消した後だった。
ラングに視線を戻すと、奴は小刻みに震えていた。自分はあの女の信頼を得ていると思っていたのだろう。バカなことだ。おまえらなど、あの女狐にとっちゃただの手駒でしかないのに。
「洗いざらい話せ」
「いや、なにかの間違いだ」
奴は震える声で返す。懲りねえな。まぁ、いいや。あと何度か恐ろしい目に合えば考え直すだろう。
「殺させるな」
俺は、警邏隊の隊長に小声で伝え、部屋を去った。
詰め所を出ると、空が明るくなってきていた。
「夜明けか」
子どもたちの売買については一応の決着を見たな。ラングが落ちるのも時間の問題だろう。
あとは、ハナの帰還の手がかりの確認だな。
ダニエルに会うのも久しぶりだ。
俺は宿に向けて、一歩踏み出した。
☆
「ほう、異界からの旅人じゃな」
剣聖ダニエルは、私の顔をじっと見つめた後に息を吐いた。
「はい。でも私は、ただこの国に飛ばされただけでなく、侍女ナナと入れ違いに、皇女のお部屋に現れたのです。ナナはおそらく私の家で過ごしていると思われます。ダニエル様は、諸国を歩かれた方とお聞きしました。私のような異世界人を知りませんか。自分の国に帰ることのできた異世界人を知ってはいませんか」
私は、ダニエルの瞳を見つめ言葉を続ける。その瞳は緑色が深く、とても優しい森のような印象を受けた。
ダニエルは、白く長い顎ヒゲを撫でながら、じっと私の言葉に耳を傾けてくれた。
「すまんの。お嬢さん」
長い沈黙の後、ダニエルは呟くように言葉を発した。
やっぱり・・・・。
「異世界人には二人ほど会ったが、帰る術なくこの世界にとどまっておった」
二人、意外に多いな。ダニエルの言葉に突っ込みを入れる。私の頭の中は、冷静に物事を考えることができているようだ。
「お嬢さんとは、容姿が違っておったな。異世界と言っても、この世界同様に多くの国があるんじゃろう」
私はダニエルの言葉に黙って頷いた。
「彼らは、この世界に馴染み、良き伴侶や子どもを得て幸せに暮らしておった」
「そうですか・・・・」
「気を落とさずに、生きていくしかないのう」
ダニエルの言葉に頷く。でも、私はナナと入れ違っている。ナナがこちらに戻ってきたいと願って、私の思いと共鳴したら帰ることができるかもしれない。ほとんど無理かもしれないけれど、可能性があるって信じていたい。
「困っておることはないか。力になるぞ」
「大丈夫です。ラインシートの皆が良くしてくれるから。この旅にも、サイアス様が執事さんをつけてくれたんです」
私は、ダニエルにツイルさんを紹介した。
「ほう、サイアスというと」
「次期当主です」
ツイルさんが、緊張した面持ちでダニエルに答えている。
「あの、坊ちゃんか。大きくなったかのう」
「はい。サイアス様は、近衛の副団長として、ダフル様を支えておられます」
「この大バカ者をか。さぞかし苦労しておるのじゃろう」
ツイルさんの言葉に、ダニエルは団長を見て溜め息をついた。団長は暖炉の前の椅子に座って寛いでいたけど、ダニエルの言葉に苦虫を潰したような顔をした。私とツイルさんは、ダニエルの言葉に黙って頷き、団長に視線を向けた。
「何言ってんだジジィ。俺に団長の座を押し付けたのはあんたじゃないか」
「仕方なかろう。候補の中にまともなのはおらんかったのだから、あの候補者たちに任せとったらこの国はもうないわ」
「まぁな」
団長は言葉少なく返答すると、暖炉に視線を向けて目を閉じてしまった。ほとんど徹夜だもんね。眠いはずだよ。
「そうか、わしに協力できることはないのだな」
「あっ、待ってください。どこかの団長がしつこく剣を持つように言ってくるのが困ってましたけど、今回囮になって、その意味がわかったんです。それで・・・・」
「囮じゃと!」
ダニエルは私の言葉を最後まで聞かずに、椅子から立ち上がった。
「ジャック! 何やっとんじゃ! 女子を捕り物に利用するなど!」
「やばっ」
暖炉の前でうとうとしていた団長は逃げ出そうとしたけれど、ダニエルに後首をむんずと掴まれた。
「根性を鍛え直してやるこい!」
団長は、庭に引きずり出されて剣を渡された。
「ジジィ、くたばんなよ」
「ふん、お前になどまだまだ負けんわ!」
二人は剣を構えて、真剣での打ち合いが始めた。
すごい。ダニエルの動きから目が離せない。団長も強いと思っていたけど、それ以上だ。年齢を感じさせないしなやかな動き、繰り出される技、どれをとっても剣聖の名にふさわしかった。
隣でツイルさんが、目をキラキラさせ、手を握ったり開いたりして、二人を羨ましそうにみている。
長い打ち合いの後、ダニエルが団長を抑え込んだ。
「ダニエル様。私にも剣を教えて下さい」
「お嬢さんに必要あるものとは思えんが、なぜか聞いても良いかの」
ダニエルは首筋の汗を拭って、私に不思議そうな視線を向けた。
「私は、剣は人を傷つけるものだと、殺すための武器だと思っていたんです。でも、今回のことで剣は守るためのものだということに気付きました。小さな子を、弱い者を守りたいって、あの時、強く思ったんです」
私の言葉にダニエルは微笑んだ。
「そうじゃ、剣は守るためのものだ。それを知って剣を使う者は、より強くなれる」
ダニエルは家の中に入ると、すぐに細身の剣を手に現れた。
「お嬢さんに差し上げよう。さぁ、構えから始めるぞ」
「待って下さい! 私にも、私にもご教示願います!」
ツイルさんが、ついに我慢できずに私とダニエルの間に割って入ってきた。
「君にとっての剣は何のためある」
ダニエルはツイルさんに向き合うと、問いを発した。
「ラインシート家のために」
ツイルさんは迷いなく即答する。
「面白い」
ダニエルは顔をくしゃっと歪めて笑った。
「では、始めよう」
それから私たちは、日没までみっちりとしごかれたのだった。




