第3話
読んで頂きありがとうございます。
またも、1週お休みしてしまいました。待っていて下さった方々には申し訳ありませんでした。
定期更新、頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願い致します。
そうは言っても、子どもたちと私ではいい案も浮かばず、とりあえず体力温存のため眠ることとなった。
子どもたちの中には、すやすや寝息をたてている子もいるけど、不安のためか何度も覚醒しては態勢を変えている子もいる。
小さな子は5歳って言っていた。親に会いたいだろうな。でも、親に売られた子もいるんだよね。親に売られるって、どんな気持ちなんだろう・・・・可哀想・・・・。
夜は更けてきて、火の気のない室内には冷気が差し込んでくる。
子どもたちは身を寄せ合い、私の周りにも暖をとるように集まって眠っている。けど、私に眠気は訪れない。
これからどうすればいいんだろう。
多分、団長はある程度この売買組織の情報を得ているはずだよね。でなきゃ、私を囮になんてするはずがないもんな。
私が囮にされたってことは、子どもたちが捕らわれている場所がわからなかったからかな。とすると、私の後を追ってた人がいるだろうから、この場所は確認できたってことだね。
となると次は、元締めの登場ってとこかな。テリィの話だと、子どもたちが移動させられるのは明後日だから、元締めもその場に立ち会うことが考えられるな。
団長は元締めを捕らえるのが目的だろうから、それまでは『待ち』だな。明後日まで、ここに動きはないはず。その間、この子たちが傷つけられないように守らなきゃ。
はぁーっ、なんて役回りなんだ。ただ、少しばかり空手ができる女子なのに。どうやって、悪党どもと渡り合えっていうんだ。
あーあ、早く日本に帰りたい。家族に会いたい、友達に会いたい、温かい布団で寝たい、美味しいご飯を食べたい・・・・怖い思いしたくない。この国は、周囲の国と比較したら安全だって言うけど日本の比じゃないよ。
でも、ラインシート家は安心できる場所だよね。マリーネさんやお屋敷の皆、それからサイアスさんも、みんなとっても優しい。サイアスさんなんか、優しすぎて過保護だもんね。
頭の中にサイアスさんが浮かんできて、つい口元に笑みが浮んだ。
早くサイアスさんに会いたいな。
へっ?! ちっ、違う違う! そう、お屋敷のみんなに会いたいんだよ。きっと、そう!
私ってば、よっぽどサイアスさんをお父さんみたいに・・・いや、信頼してるんだよ。うん、信頼!
サイアスさんのことを色々考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
「おらおら、朝飯だ。食えよ」
悪党のガラガラした声で起こされる。
ガチャ、ガチャと食器が床に置かれる。また、乾パンみたいなのと水だけ。こんなんじゃ、いざっていう時に子どもたちに逃げ出す力が残ってるのか心配だよ。
「今夜遅くに、お前ら全員移動だからな」
兄貴と呼ばれている頭目が、子どもたちを見回して下品に笑う。
今夜? 明日じゃないの? あぁ、深夜に日付が変わってからの移動なんだな。
「へぇ、お前起きたんだな。それにしても不吉な黒目だぜ。顔もなーんか平たいな」
子分その1が私の顔を覗き込む。
「本当だな。こんなの本当に買い手がつくのか?」
子分その2も食事を配り終え、私の傍に寄ってきた。2人ともガタイがでかい。床に座った位置から見上げると巨人のように見える。
それにしても失礼な奴らだ。ついつい睨むようにして見上げると、いきなり頬を平手で殴られた。
「生意気な目つきしてんじゃねーよ。おめえらの命は俺らの手の中なんだからな」
「やめろよ。商品だぞ、顔に痣でもできたらますます買い手がつかなくなる」
子分その2が、私たちの間に割って入ってきた。
「こんな奴、よっぽど酔狂な奴じゃなきゃ、買いやしねーよ」
子分その1は、捨て台詞と嘲笑を残して去っていった。
くっそう、一撃くらわしたい。でも、ここで冷静を欠いて、相手を刺激して興奮させたらおしまいだ。子どもたちに、矛先が向いてしまう可能性がある。あぁ、悔しい。
俯いて悔しさにブルブル震えていると、泣いていると勘違いしたのか、子分その2が声を掛けてきた。
「大丈夫か。お前もついてねぇな。何の用事であそこを歩いていたんだか。どこの国の子供だ? まだ、14~15歳くらいだろうに。顔に傷はつかなかったか? これ以上、不細工になると大変だからな」
彼は同情したように溜め息をついた。
ふ・ざ・け・る・な! この人攫いが! 14~15歳だと、不細工だと!
今度は、怒りのあまり身体が震える。その様子を見た子分その2は、私が泣き続けていると思い込み、首を振って出て行った。
「ハナ、大丈夫」
ライラとテリィが不安げな表情で傍に寄って来る。
「・・・・大丈夫。神経切れかけたけどね」
苦笑して返すと二人はホッとしたように微笑んだ。
「ハナがあいつらを引き付けてくれたおかげで、小さい子たちが怖い思いをしなくて済んだわ。ありがとう」
「あいつら、ニヤニヤしながら俺たちをじっと見るんだ。そうすると、怖がって泣き出す子もいるから、それを見て面白そうに笑うんだよ」
テリィが悔しそうに唇を噛んだ。
「大丈夫だよ。テリィ、あいつらには必ず天罰が下る。というか、下してやるから」
なにも策はないけど、ただ団長を待っているだけだけど、あいつらに仕返しの一撃はくらわすつもりだ。
「みんな、聞いたね。移動は深夜だよ。昼間十分に眠って、夜に備えよう。夜になったら、いつでも動けるようにしておこうね」
子どもたちに声かけると、みんな黙って頷く様子がみられた。
それからは、睡眠、昼食摂ってまた睡眠。幸いなことに、部屋がうす暗いから十分に眠ることができた。
「さぁ、起きろ」
夜が更けた頃に頭目と子分、見張りの男たちが揃って現れた。いよいよ移動だ。団長はいつ仕掛けてくるだろう。子どもたちを守らなきゃ。僅かに震える拳をギュッと握りしめた。
「ほぅ、今回は毛色の変わったのがいますね」
「へい旦那。どこの国の子どもだかわかりやせんが、物珍しいんで捕えてみました」
「黒目黒髪ねぇ。異世界人はこのような容貌だと聞きますよ。今は王都にいるはずですが、もう一人現れたんでしょうかね」
旦那と呼ばれた若干身なりの良い男は、私の顎を捕らえると上向かせた。異世界人のことを知っているなんて、貴族か王城で働く者なんだろうか。男の目を凝視すると、その眼が愉快そうに細められる。
「いい拾い物をしましたね。これは高価な取引になりそうです」
男の言葉に、背後の男たちが息を飲んだのがわかった。意外に高価がつくって知って驚いたようだ。それには私も驚いた。高値ってどのくらいだろう。
「そこまでだ! ラング伯爵!」
聞きなれた声が室内に響き、天井や窓、扉から一斉に兵士達が飛び込んで来た。
団長だ! やっぱり周囲を囲んでたんだ。兵士達と共にツイルさんがいるのが分かった。
「チッ!」
ラング伯爵と呼ばれた男は舌打ちすると、私を突き放して窓に向かって駆け出した。けど、団長が彼の前に立ちはだかり退路を断ったのが見えた。
室内に入ってきた兵士たちは、男たちを確保しようと動いているが、悪党どもは剣を手にして応戦している。大変だ。子どもたちが巻き込まれちゃう。
子どもたちの傍に向かうところを、子分その1が邪魔するように立ちはだかった。すかさず、剣を持つ利き手の手関節を蹴り上げ、剣を落とさせた後に、腹部に飛び蹴りをくらわす。子分は苦痛に顔を顰める。ざまぁみろ、人のことを不細工呼ばわりした罪は償ってもらうぞ。飛び蹴りの次は掌底だ。そう思って、奴との間合いを詰めようとすると、頭目のガラガラした声が室内に響き渡った。
「おらぁ、子どもを助けたかったら道を開けろ」
頭目は、兵士たちの隙をついてテリィを捕らえたようだ。彼の首元を掴み上げ、もう片方の手でその首に剣を突き付けている。テリィは恐怖で動けず、目をきつく閉じていた。
「お前もこっちに来い。いい値がつくそうだからな」
頭目は、私に傍に来るよう命じた。従わなければテリィを傷つけるつもりだろう。周囲の兵士たちが動くこともできない中、黙って歩き始める。
頭目の前に立った時、僅かだけど視界の隅にツイルさんが動くのが見えた。その動きは本当に僅かで悪党どもには気づかれていない。頭目は、私がおとなしく言うことを聞いていることに満足し、笑みを浮かべている。
今だ!
テリィに剣を突き付けている頭目の腕を引き、渾身の力で捻り上げる。
「痛ぇ!」
頭目は顔を歪めると剣を落とし、さらにテリィをドサリと床に落とした。テリィの傍に寄り無事を確認すると身体はなんともないようだけど、表情が恐怖で固まっている。
「てめぇ・・・・」
頭目が憤怒の表情で私を睨みつけ、剣を拾い上げる。まずい。テリィを立ち上がらせようとするけれど、彼は萎縮して震えている。
守らなきゃ。テリィを背後に庇う。
頭目の振り上げた剣が、その頭上で光る。あぁ、私にも剣があったら! テリィを守ることが出来るのに。剣があれば、こいつの動きを封じることができるのに。




