鞍馬天狗草紙 ー初日の出ー
鞍馬山の根の谷から初日の出を見て、天翔丸は新年を迎えた。これまで新年の幕開けは必ず母と迎えてきたが、今年、横にいるのは母ではない。
天翔丸が初日に向かって手を合わせると、陽炎が眉をひそめた。
「願掛けですか? 主たるものが、神頼みなどするものではありません。望みは己の力でかなえ、つかみとるものです」
「願掛けじゃねえ。今年の目標を立てるんだ」
新年最初の日に、必ず母と一緒にやっていたことである。
天翔丸は心の中で目標を唱えながらふと横を見ると、陽炎も同じように手を合わせて初日を一心に見つめていた。
「おい、何してんだ?」
「新年に目標を立てるのは良いことだと思いましたので、私も」
珍しく殊勝なことを言い出す陽炎に、天翔丸はぞんざいに言い放った。
「おまえの目標なんてどうせ、俺を立派な鞍馬天狗にする、だろ」
「あなたの目標は、今年こそ私を倒す、でしょう」
新たな年の輝く陽光を浴びながら二人が立てた目標は、一人では成しえない、互いがいてこそのもの。
「修行すんぞ、陽炎」
「はい、天翔丸」
(終)
【作者コメント】
酉年に続いて、2006年の年賀状用に書いた小話です。山間から昇る朝日の写真が背景、お題は初日の出、ハガキ一枚に収まる長さの話、という条件で考えたら、こんな話ができました。時系列は特に考えていませんでしたが、入れるとしたら1巻と2巻の間あたり。
えっと……特にコメントはありませんが……こんなことを新年から真面目に言い合っている二人をかわいいなぁと思います。親バカです。




