VIII 【レイニー視点】絶対に許さない
(なんてこと……!)
村長さんが亡くなって、落ち込んでいる彼の様子を見にきたわたしは、夜、あのふしだらな女が彼を誘惑しているのを見てしまいました。
(わたしの大切な人に嘘を言って取り入るなんて、許されることではありません!)
あの女の肩を抱く彼の姿に胸が張り裂けそうです。
満月の夜の森を泣きながら走るわたしを止める人は居ませんでした。森の木々はざわざわとわたしを慰めるように身を揺らし、奥へ奥へと誘います。
(シュトランがよく知らない女の人に子供を産ませるなんて――嘘。嘘に決まっています)
シュトランとシルヴィオの両親は昔、村と精霊を守るために死にました。アルスターの一族は皆そうです。シュトランはそんな二人の子であることに自負があるのだとわたしに教えてくれました。いつか自分も村を守るのだと言いながら鍛錬に励み、兵科に進んでその力を伸ばす道を選びました。そして、自分の責務の一つに子孫を残すことがあることもきちんと理解をしていました。
男のくせにシュトランのことが好きなわたしは、シュトランの子供が産めないことを何度も自分に言い聞かせ、諦めようとしました。幼い時分よりシュトランによこしまな感情を抱いていましたが、その度に何度も何度も地面に足をぐりぐりと擦り付けて火を消すようにその感情を抑えてきました。けれど。
(諦められる筈がないじゃないですか!)
*
あの村中が魔物に滅茶苦茶にされた日。わたしはいつものように村はずれの教会に居ました。あの日私の両親は不在で、一人で魔物達が森を荒らしていく音を教会の地下の食糧庫で震えて聞いていました。
(誰も助けに来てくれる筈がない)
少しだけあけた隙間から無数のドラゴンが教会の古びた窓を割る様子が見えて、わたしはきっと生きたままドラゴンの餌食になるのだと目を瞑りました。
そのとき、耳をつんざくドラゴンの断末魔が聞こえました。アルスター家に伝わる銀の剣を持ったわたしだけの英雄が身長の二倍はあるドラゴンを倒していきます。全てのドラゴンを屠った後、愛しい人はわたしの名前を呼んでくれました。
『レイニー! 無事で良かった』
あのときの彼の優しい腕を忘れたことはありません。彼はわたしを助ける選択をしたせいで大切なものを失いました。
だから、わたしは――。
*
「精霊達よ! 居るのでしょう!」
いつの間にか、わたしは森の奥深く、泉のほとりまでやって来ていました。空は白み、気の早い鳥達が朝の囀りを始めています。
「あなた達はシュトランに運命の人を約束しました。わたしを、わたしをシュトランの運命の人に選んでください! だってわたしは、ずっと、ずっとシュトランのそばに居て彼を助けて来たのですから!」
他の誰かが彼を置いていっても、わたしだけは彼のそばにいる――これは誓いです。
くすくすと精霊達の笑い声が聞こえます。泉から光が溢れて――それで――。




