VI 村長さんの最期
「村長さん!!」
木製の古びたドアを開けると、ベッドの上に弱々しい老体が見えた。布団で大半は隠されているけれど、細くなって血管が浮き出た腕と、大量の汗、そして苦痛に蠢く声は見ているだけで心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。
(もう助からない)
村長さんは両親の居ない僕達アルスター兄弟の面倒をとてもよく見てくれた。村のかけっこでシュトランが一番を取ったとき、真っ先に教えに行ったのは村長さんのところだった。深い目元の皺がもっと深くなったのをよく覚えている。
街に出てしまったときに気がつくべきだったのだ。もう年老いた村長さんと話せる時間は殆ど残っていなかったということに。
(もっと話しておけば……。いや、感謝を。ありがとうって伝えないと)
しかし、もう村長さんには伝わらないだろう。今更何もかもが、遅い。
「……ちょっと。失礼するわ」
静寂を切り裂くようにアリアンロッドが進み出た。胸元から小包を取り出すと何かを村長さんの口に飲ませ、横にある水差しで強引に嚥下させる。
「アリアンロッド!? お前!!」
「バリクラムに治療法はないもの。これが一番楽な筈よ」
何を飲ませたのか。聞くまでもない。あれはきっとマジックキノコだ。アリアンロッドの言う通りの効能があるとすれば、僕の知識と合わせて効能はこうだ。多幸感に包まれて痛みを緩和させるが身体にダメージが残る。
「全部売り切ったんじゃなかったのか」
「善意で人に分けてあげる分は捌いたけど、自分の分を持っていないとは行ってないわ」
詭弁だ。しかし、僕がアリアンロッドに何かを言う前に、レイニーが僕の手を掴んだ。
「村長さんの目が動きました!」
「お前達か……」
「村長さん!」
村長さんは僕の目を虚ろに捉えた。
「シュトランよ……すまない。あの子も弔ってあげられなくて……」
「僕はシルヴィオです。村長さん、僕達を今まで育ててくれてありがとう。シュトランもきっと同じ気持ちです」
「あぁ、すまない……。シュトラン。すまなかった」
「村長さん! レイニーです。今までお世話になりました」
アリアンロッドは背を向けて扉を出ていく。長い髪をふわりとたなびかせ、扉の外にいた村人達にも聞こえるようにこう告げた。
「この薬が効くのはせいぜい一時間よ。体力の少ない老人ならもっと短い。それまでに用事は全部済ませておくことね」




