V 故郷(ペトラン)へ
「ねぇ、まだ着かないの!」
「忍耐力のない人にシュトランの恋人は務まりません」
「はぁーー?」
田舎町ペトランに向かう馬車の中はハッキリ言って地獄だった。片道四時間はかかる道のりで、僕を中心にした左右はずっと言い争っている。
(かたや兄の子供をみごもったと主張する女。かたや兄の熱狂的な信者。…………どうなってるんだ)
乗合馬車だが、僕達以外の客はすぐに降りてしまって乗客がもう居ないのが幸いである。僕は酔わないように気を遣いながらテキストを開く。アリアンロッドがすかさず僕の手元を覗き込んだ。
「何を見ているの?」
「『会計士になるには』だよ」
僕のかつての職場は会計職だった。
「シュトランとは約束をしていたんだ。僕が事務職、彼が兵職に就いて、街でお金と経験を貯める。そして、将来的には二人で故郷のペトランに戻って恩返しをしようって」
「? 今の貴方の職場って確か――」
「入国管理事務所だ。踊り子に騙されて会計をしくじって飛ばされたんだ。元々、適性はあまりなかったけれど、それでも夢が遠くなって悔しい」
この五年間、居なくなってしまったシュトランがどうしているのか気になっていた。僕は居なくなったシュトランを探そうとした。しかし、村の人達は皆、大災害を救ってくれたシュトランに自由な選択をさせてあげてほしいと僕を止めたのだ。
レイニーは僕が左遷された頃に街にやって来て、僕の生活を支えてくれるようになった。
アリアンロッドは確かに嫌な女だが、アリアンロッドのおかげで止まっていた時が動き出しそうな予感はしていた。
「シュトランに会ったら夢はどうしたんだって聞いてやるつもりだよ」
そんな僕を見るレイニーの目は、どうしてか少し悲しそうだった。
*
半年ぶりのペトランの景色はなぜかどんよりと淀み切っていた。山をいくつか越えたところにあるペトランはいつもは太陽が燦々と輝き、野花の柔らかな香りがする土地だ。しかし、いつもは放牧されている牛や鶏などの動物は仕舞われ、人々が働いている気配はない。
人を探して歩くと、村で一番の大きな家――村長さんの家のあたりにたくさんの村人が集まっているのが見えた。皆、暗い顔をして下を向いている。
「まるでお通夜ね」
「アリアンロッド!」
この踊り子は本当に常識がない。僕達に気が付いた村の大人が次々に話しかけてくれた。
「シルヴィオ! レイニー! 丁度早馬を出そうかと思っていたんだ」
「ここ数日村長さんが病気で伏せっていて」
「今朝には突然苦しみ出して……会話もできない」
「代々村長に伝わる巻物の在処を聞くこともできないんだ。このままでは、我が村はおしまいかもしれない」
「良い人だったのに。バリクラムには治療薬はない。一ヶ月ほど苦しんで死ぬことになるだろう」
大人達が言うには村長さんは死に至る病に罹っており、今は最早うめき声しかあげることができないという。僕達はあまりのことに言葉を失う。
「そんな……」
「良かったら最期に顔だけでもみてあげてくれ」




