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II 酒場裏にて


「深夜の酒場裏、ね」


 数日後、僕はアリアンロッドに指定された場所に着くと大きな欠伸をひとつした。


「呑気」

「いつもならとっくにもう寝ている時間なんだ」

「まだ十の刻よ」

「役所の朝が早いのを知らないのか」


 僕はいつも八の刻に寝ると言うと、アリアンロッドは赤ちゃんじゃないと馬鹿にした。健康的な睡眠の必要性を知らない愚か者め。

 吸い込んだ空気はシガーの匂いで汚染されていたし、街灯の周りに酔っ払い達が屯する黒と橙の路地はとてもではないが妊婦に歩かせる場所ではない。


「こんな場所なら君が着いてくる必要はなかった」

「案内人がいないと困るでしょ」


 アリアンロッドは僕を先導していく。

 周囲の男達はアリアンロッドを見ながら何かニヤニヤと笑い出した。どうやらアリアンロッドの衣装の三日月型に空いた部分から胸の谷間が見えるらしい。僕はアリアンロッドが腰にオシャレのつもりでしている羽衣を取り上げると、上半身にぐるぐる巻きにした。


「何するのよ!」

「身体を冷やすな」


 別に最低最悪踊り子の女なんてどうなってもいい。だが、シュトランの捜索に支障が出るのが嫌なだけだ。



「ここよ」


 アリアンロッドが指したのは街灯が薄ぼんやりと照らす公園の噴水だった。どうやら治安の悪い酒場辺りを通らないと来れない秘密の場所のようになっているらしい。


「ここでそのエメラルドの髪飾りの男と会ったの。暫く話をしたら暴漢に絡まれたんだけど、カッコよく相手をボコボコに殴って助けてくれたわ」

「ふぅん」


 僕は手掛かりを探す。噴水のフチなどに文字や記号のようなモノが彫られているのを見つけた。


「なんでこんなところに居たの?」

「それは……言いたくない」


 視線を逸らすアリアンロッド。何か後ろめたいことがありそうだ。

 旅の踊り子は華やかな衣装とダンスで人気がある。名のある旅の一座が街に入ったと聞けば街中その話で持ちきりだ。夜の公演をわざわざ夜更かしをして見にいく人達のなんと多いことか。

 しかし、役所の職員から見る彼女らはすこぶる評判が悪い。彼女達はこの街には市民権を持たず、六ヶ月しか滞在することが出来ない。それ故に立つ鳥跡を濁していくものが多いのだ。


(この女も……どうせ……)

「行こう。ここには手掛かりはなさそうだ」


 僕がアリアンロッドに声を掛けようとすると、野太い声がそれを邪魔した。


「いたぞ! 今日こそ年貢の納めどきだ!!」


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