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XII シュトランの秘密


 蔦がシュルシュルと小さくなっておさまっていく。僕はレイニーの身体が隠れるように上着を被せた。


「危ないじゃない。死ぬかと思ったわ」


 アリアンロッドはぷりぷりと怒りで足を踏み鳴らしている。


「当たらないのはわかってる。アリアンロッドが幸運のエンチャントをかけてくれたんだろ」

「!」


 僕からすれば歌でのエンチャントは高級品だ。投擲でも回避でも良い方向に運命を動かしてくれるだろう。しかし、何故かアリアンロッドはここで頬を染めた。


 アリアンロッドが何かを言いそうになったとき、レイニーがうっすらと目を開けた。


「ん……?」

「大丈夫か、レイニー」


 レイニーが起きあがろうとするのを制す。頭を強く打っているので、まだ動かさない方が良いだろう。それに今衣服がズレるのはまずい。


「その、性別はなぜか戻らなくて」


 僕は完全に女の子の身体になってしまっているレイニーの身体から目を背けた。しかし、このことは聞かなければ。


「教えてほしい。シュトランのこと」


 レイニーは掠れた声で紡ぎ出す。


「あなたがシュトランなんです」

「? 僕はシルヴィオだけど」


 レイニーは横になったまま僕の手を握る。何かを決意したように力を込める。


「………………()()()()()()()()()()()()()、シュトラン」


 レイニーが何を言っているのかわからない。


「あなたはシルヴィオを救えなかったことで心を閉ざし、シュトランであることをやめたんです」



 レイニーが言うには、こうだ。


 あの魔物の襲撃の日、僕は弟のシルヴィオが役人試験に合格したお祝いをしに(ローズクォーツ)から故郷のペトランに帰ろうとしていた。


 乗り合い馬車に乗ってペトランに近づいた頃、空を黒い影が覆い、ペトランが魔物の襲撃にあっていることに気がついた。僕は銀の剣を使いながら村の人達と共に魔物を倒していく。


「魔物の数が多い!」


 漸く村の中心部へと着いた頃、僕はレイニーの父に出会った。


「まだ、教会に息子が居るんだ」

「レイニーが!?」


 村から外れたところにある教会に行くと家には暫く辿り着けない。しかし、僕は教会に行くことを決断した。


 レイニーは無事に助けることができたが、家に帰ったときには遅すぎたのだ。


「シルヴィ……オ……?」


 眠るように死んでいる弟の姿を見て、僕は僕が万能でないことを思い知らされたのだ。



「わたしはいつもあなたが眠った後、稀に現れるシュトランとしての記憶を持ったあなたに剣や衣類、ウィッグを渡していました。いつも夜中フラリとどこかに出て行っても朝までには必ず帰ってきてくれたので、そこの嘘つきが言うようなことはないはずです」

「これだからお子様は話にならないわ。朝までに帰ってきたかどうかなんて子供を作るのに関係ないもの」

「なんですって! 絶対に有り得ません。シュトランは子供と温かい家庭を作るのが夢だって言ってましたから。どこの馬の骨とも知らない女と契るなんてありえません!」


 アリアンロッドとレイニーが諍いを始める中、俺は事実を飲み込むことが出来ないでいた。


「……シルヴィオが…………死んでいる。シュトランは…………僕」


 では、僕がいずれ帰ってくるはずと思っていた片割れはもう永遠に帰ってこないではないか。


 僕には夜中にレイニーやアリアンロッドと話した覚えはない。しかし、僕が今まで覚えたはずの事務仕事が全くわからなかったことも、記憶が途中あやふやだったことも…………。僕がシュトランであれば、全部の違和感がおさまる。


(本当に記憶がない間にアリアンロッドと……?)


 アリアンロッドは確かに嫌な奴だが、子供の父親を偽るほどの嫌な奴には見えなかった。彼女は俺に髪飾りを返しながらこう言う。


「きっと休息が必要だわ。あなた達にも、私にも」


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