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XI 踊り子は殺さなきゃ


 蔦を切りながら進んでいくと、精霊の泉の近くの蔦の山に倒れている人のようなもの見つけた。


「レイニー!!」


 蔦に埋もれているが、かろうじて出ている金髪からレイニーだとわかる。


(レイニーの髪、こんなに長かったか?)


 僕は蔦を切りながらレイニーを引っ張りだそうとする。


「!?!?」


 僕はギョッとした。細い目も顔立ちもレイニーに間違いはない。しかし、その身体に服はなく、体つきも男性のものではなかった。そして何よりも――


(どうしてレイニーが蔦と繋がっているんだ)


 レイニーの首は緑のレースに覆われている。鎖骨から下は蕾のような赤い花で優雅に彩られ、お腹から下は蔦となっていた。完全にアルラウネの亜種と同化しているのだ。僕が驚いて手を離した衝撃でレイニーは目を覚ます。額に埋め込まれた菱形の宝石は、彼――いや、()()が魔物に取り込まれたことを示していた。


「シュトラン……?」

「レイニー、僕だ。シルヴィオだ。シュトランの荷物を借りているだけで――何を!?」


 レイニーは無言で僕の身体を蔦でぐるぐる巻きにして空中へと持ち上げた。手が自由になるほどの程よい締め付けに敵意は感じない。


「あなたはそこに居てください。わたしはまず、あの嘘つきを始末します」


 そう言ってレイニーはアリアンロッドを探すように左右を見回す。蔦が触手のようにうねる。


(まずい。アリアンロッドが近くに――居ない)


 アリアンロッドはまずい気配を感じてひと足先に隠れているらしい。流石の判断力だ。


(アイツ本当……。だが、助かった)


 これならレイニーと腰を据えて話ができる。


「レイニー、落ち着いて。魔物に取り込まれても、額の核だけを破壊すれば元に戻れる。適切な強さで衝撃を与えれば怪我もない」


 失敗した場合は死に至るのだが、今は言わない方が良いだろう。そもそも魔物に襲われた場合、殆どは殺されるパターンが多い。取り込まれるのは強靭な意志を持っていて魔物と利害が一致している場合で、数例しか事例がない。

 どうして僕はこんなことを知っているのか――その理由は知らない。しかし、レイニーは興奮しているのか全く取り合ってくれなかった。


「いいえ。わたしは絶対にあの女を殺します。あの手の女はあなたが生きている限り色気を使ってあなたを利用しようとするでしょう。ですから、わたしはわたしが居なくなってもあなたが平和なようにわたしが奴を殺します」

「どうして……アリアンロッドは確かに悪いやつだが、殺すほどの悪いやつでは」


 アリアンロッドと出会ったときにはこんな発言を僕がすることになろうとは思わなかった。しかし、仮にも他の命を抱えている女性に対してレイニーがここまで荒ぶる印象はない。


「あなたには話していませんでしたね。わたしには半分血が繋がった妹が居ると聞かされてきました」

「聞かされてきた……?」


 レイニーは目を伏せる。僕はテルツィン家の妹について何も知らない。


「父が(ローズクォーツ)に用事で出掛けているときです。父は踊り子に目が眩み、一夜の過ちをおかしました。その結果子供ができたと言われ、わたし達家族はずっと踊り子に仕送りをしていました」

「それは……」


 実際に子供が出来ているならば支払うのは当然だが、本当にレイニーの父の子供なのかはわからない。レイニーからすれば実の父親への疑義と踊り子への怨嗟が募っても仕方がないだろう。


 先程シュトランの荷物を渡してきたレイニーの父の萎んだ顔が浮かぶ。確かにレイニーのテルツィン家は教会として村人の寄付や教会連合からお金を貰っているはずだが、いつも貧乏なイメージがあった。


「わたしが(ローズクォーツ)に来る前のことです。わたしは毎月父がお金を預けている人を尾行して、元踊り子まで辿り着きました。その結果、どうですか。妹なんて居なかった!! 居たのは太ってお酒に囲まれた醜い豚だけ! わたしがその豚を追及すると、何て言ったと思いますか?」


 元踊り子は全く悪びれた様子もなくこう言ったそうだ。


『あら、バレちゃったのね』


 レイニーは踊り子からお金を取り戻し、そのお金を(ローズクォーツ)に引っ越す資金としたらしい。もう両親の元には帰らない、という決心をして。


(それでレイニーは僕のところに来たのか)


「彼女は父の他にも何人も同じ手口を使って、踊り子を辞めた後のお金を稼いでいたようです。踊り子はいつだって嘘つきで、嘘をついたことに何の罪悪感も抱かない化け物です」


 レイニーは興奮して蔦から繋がっている植物に次々と花を咲かせた。頭の上に大きな花が咲き、同化が進んでいく。


(まずい、落ち着かせないと)


「今まで一緒に暮らしていたのに知らないでいてすまない。いや、でも。アリアンロッドは殺すほど悪い奴には見えないし、僕だってシュトランは無実だと思う」


 それに、先程のアリアンロッドの話が本当であれば、彼女のお腹の中に居るのは兄の子ではなく僕の子になる。全然、全然全く身に覚えはないが。


 しかし、シュトランの名前が出た瞬間、レイニーは湯沸器のように怒りを露わにし、咲かせていた花を一気に散らした。


「シュトランがそんなことをするはずありません! だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですから!」

「えっ」


 僕は二つの意味で驚いた。レイニーがシュトランの行き先を知っていたことと――アリアンロッドが背後から大きな石を高く振りかぶってレイニーを強打しようとしていたからだ。


(やめろアリアンロッド!)


 アリアンロッド自体はレイニーに反撃されても僕のお守りで即死は免れるかもしれない。しかし、流石にあの石で頭を打たれればレイニーは死んでしまう。

 僕の心の中での静止は間に合わず、アリアンロッドは石を振り下ろそうとする。


(あぁ、もう!)


「レイニー!! 悪い!!」


 僕は持っていた銀の剣をレイニーの頭の上の花に投げつける。巨大な花だけを貫くように狙いは慎重に。外さない自信はあった。


「ひゃっ」


 レイニーが怯む。僕は緩んだ蔦から抜け出し、蔦を一気に辿る。頭の花に刺さった剣を抜いて、レイニーの額の宝石を剣の柄で打ち砕いた。


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