幕間 ヘレンの事情
高速道路を走る車は、時速八十キロで安全運転をしてた。
初心者マークを張った彼氏の車でデートの帰り、煽り運転にあって、私たちは死んだ。最後の記憶として覚えてるのは、それだけ。
次に目を開けたら、赤ん坊になってた。かなり明るい金茶っぽい髪と、黄緑色の瞳を持つ、可愛らしい“ヘレン”。
初めて自分の姿を見た時、あたしはうっすら残る面影に、もしかしたらって思いが沸き上がる。
「それ、そんなに楽しい?」
「うん?うーん……まあ、それなりに?」
彼氏の部屋でくつろぐ時に遊んでた乙女ゲーム。選択肢が少なくて、進めるのが楽だからって理由で選んだそれ。主人公の初期設定の名前がヘレンだった。
予知能力を持っていて、教会の推薦で王宮の女官として勤めることになった少女。もし、あたしがその予知をすることができるのなら……。
「来月、大雨が降るから備えた方がいいかも」
六歳の時、そう言ったら大人たちは馬鹿にしたけど。
翌月本当に降った大雨に、あたしを予言者と呼ぶようになった。それからも時々、ゲームの情報通りに予言をしたらそれが全部当たっちゃって、ウワサはそのうち教会にも流れ、聖女にならないかと打診があったのは十二歳の時。
「すみません、あたし、王宮で働くのが夢なんです。聖女なんてできません」
「一年だけ。一年だけでいいのです。せめて教会内が落ち着くまで、聖女としていてくださいませんか?その後ならば、王宮へ推薦状を書きましょう」
「それなら……」
その頃、教会は権力争いで大変だったらしい。よく知らないけど、内部をまとめるのにあたしが必要だったんだって。
一年って言ったくせに三年かかったのは気に食わないけど、まあ、ゲームが始まる年齢に王宮の女官になれたからいいか。
お助けキャラのニムだって協力してくれるし、後は誰を攻略するかだけど……理想はやっぱりハーレムエンドだよね。
大丈夫。王子様だって攻略できる。
だって、これはきっと、早死にしたあたしへの神様の償いだもの。だから、あたしはこの世界で王妃様になる運命なの。
きっと全部うまくいくわ。
だって、あたしはこのゲームのヒロインなんだから。
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