”乙女ゲーム”とは……?
ヘレンは「あたしはヒロインだから」って、ずっと言い続けてる。
みんな妄想みたいなもんだと思ってるんだけど、話す内容が妙に当たるから気味が悪い。
最初は、そう、初日だった。お仕着せに着替えた彼女に場内を案内していた時。
なにを見ても「すごい、すごい!」って感動する彼女に、ここまでは驚かなかったけど、私も最初はそうだったなぁ……なんて感慨にふけっていたら「チュートリアルのまんまだ!あたし、本当にここで王妃になるのね!」と叫んでくれた。
周囲にちらほらいた人たちが、すごい顔して私たちを見る。
ヤメテ、私関係ナイヨ。
「は?今、なんて?」
「え?あれ、あたし口に出してた?でもいっか、あなたはヒロインのお助けキャラだし。あ、大丈夫だよ。あたしが王妃様になったらちゃんと取り立ててあげるからね!」
にっこり。笑顔で手を取られて、私は固まった。石工が作る彫像でも、ここまで固まりゃしないだろうってくらい、コッチコチだ。
頭ん中じゃ疑問符と感嘆符が手を取り合ってダンスを踊ってたよ!
お助けキャラってなに?てか、王妃様って、夢を見るにもほどがあると思うんですけど!?
ありえない。意味わかんない。
呆れて声も出ないって、こういうことだったんだな。私の手を握ったまま、ヘレンはくるりと回った。肩より少し長い桑色の髪がふわっと跳ねて、新緑の瞳がきらきら輝いた。
「知らないみたいだから教えてあげる!ここはね、ゲームの中なの。王子様を攻略する乙女ゲーム!あたしはそのヒロインだから、あたしが選んだ王子様が国王になるの」
“乙女ゲーム”とはなんぞや?
王子様を攻略って、なんの勝負する気なの?
てか、その結果で国王が決まるって、あんたにんな権力ねーだろーが。
「言ってることがわかんないんだけど、とりあえず攻略ってどーゆーこと?」
「あれ、お助けキャラって案外バカなのね?それともカマトトぶってんの?乙女ゲームなんだから、恋愛するに決まってるじゃない。イベントをこなして好感度を上げて、恋人になるの!そうして最後には結婚して、あたしがこの国の王妃様になるんだから!」
「馬鹿にバカって言われる筋合いはないし、私の名前はニムであってお助けキャラじゃない。そもそも、乙女ゲームってなに?そんなの聞いたこともないんだけど」
「あれ?あ、そっか。あなたは転生者じゃないんだっけ。じゃあ、教えてあげるから協力してよね」
するわけないでしょ、ばーか!
って言ったら、たぶんまずい。ヘレンの言動はなんか危ない感じがするから、できるだけ情報を聞き出した方がいい。こういう勘には素直に従っておくべきだ。私は肯定も否定もせず、にっこり笑った。
おい、人の笑顔で顔引きつらすって失礼にもほどがあるだろ。
「乙女ゲームってのは、ヒロインが攻略対象と恋愛するゲームなの。このゲームは『すてっぷあっぷ・LOVERS』って言うんだけど、ヒロインは教会の後押しを受けて平民ながら女官に抜擢されるの。そこで攻略対象の四人の王子様と恋愛をして、最後は王妃様になるのが基本のストーリー。だから、あたしが王妃様になるのは決定事項なわけ。ニムだっけ?あなたはあたしに王宮のルールとか、イベントの案内をしてくれるお助けキャラなの。だから、クビになりたくなかったらちゃんと助けてよね」
うーわー、わっるい顔してんなぁ。ヒロインって言うより、ヒールの方がお似合いだよ?
もともと教会が推してきたんだからなにか秘密がありそうだなとは思ってたけど、ここまで簡単に白状してくれると拍子抜けだな。
ていうか、なんで教会はこの子を王宮に推薦した?
あーあ、黙ってりゃ結構かわいい顔してんのに、おつむの中身がここまで残念だなんて。
こんな言動が怖い子、初めてだよ。私がひやっとさせられるなんて、ある意味貴重な経験だ。
ヘレンの話を聞き、それを丸ごと女官長に報告した結果、私はさらにヘレンに振り回されることになるのだけど、この時の私はまだそれを知らない。
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