【沖縄沖海戦④(Naval Battle off Okinawa)】
すぐに上空を飛んでいるF-35に敵艦隊に向かわせた。
目的は中学海軍の052C型駆逐艦の攻撃。
YJ-18よりは気が楽だが、今は「まや」も「きりしま」も対空ミサイル以外の装備を撃ちきってしまい補充しているところ。
通常の想定内のミサイルとはいえ32基で襲われれば、対空ミサイルでも撃ちもらしは必ず出てくる。
無人のミサイルはこちらがいくら時間稼ぎをしようとしても、相手をしてはくれない。
「SM-6発射!」
青い空にいくつもの白い筋を引いて、ミサイルが勇ましく飛んで行く。
我々はそれを祈るような気持ちで見るしかなかった。
やがてSM-6が目標を捉え、旋回を始める。
爆発音が響くたびに、拳を上げた。
だが数発のYJ-62対艦ミサイルがSM-6の攻撃を搔い潜り我々の前にその姿を現す。
結局20m機銃弾の補給は間に合わなくて「まや」を守るために「むらさめ」と「いかづち」が両舷に並び、直前で天に昇る龍のように垂直に舞い上がったミサイルに向けて76mm単装速射砲を放ったがミサイルの脅威は排除できなかった。
降下体制に入ったミサイルに20mm機銃弾を浴びせるが、これも効果なく、我々は最後の時を迎えるしかなかった。
最初の敵のミサイル攻撃のとき一度死を覚悟したのだから、素直に死を受け入れられると思っていたが、一度助かった分だけ余計に死ぬことが悔しく感じられ神を呪った。
人間はなんと欲が深いものだろう……。
中国海軍艦の攻撃を担った10機のF-35Bは、戦闘中の損耗を避けるために発艦していた経緯から、たいした武装は装備していなかった。
F-35Bの最大兵装搭載量は約6.8トンだが、これは翼下にパイロンをつけて搭載したときに搭載できる最大数。
パイロンをつけるとステレス性は失われてしまうので、相当優位な状況でない限りこのようなことはしない。
しかも今はその優位な状況ではない。
ステレス性を保つのであれば機内にあるスペースにミサイルを格納しなくてはならなくて、今そこに格納してあるのは空対空ミサイルAIM-9X サイドワインダー4発だけ。
「隊長、対空兵装しか装備していませんが、どうやって敵艦と戦うのですか?」
編隊でいちばん飛行経験の浅いパイロットが心配して無線で隊長機に聞いた。
飛行隊長は直接答えずに、隊内で一番陽気な部下を指名して答えさせた。
「敵艦を前に、まともな武器さえ持っていない俺たちが戦うとしたら、アレに決まっているだろう」
「アレ?」
「そうアノ戦法だ」
「ア、アノ戦法って……そ、そんな」
「嫌なのか?」
隊員は考えた。
自分一人の命を犠牲に、母艦「いずも」の520人の乗員。 いや、沖縄沖海戦に参加しているその他の艦の約3000人だけでなく、基地要員や民間人を含めた何万人もの人命が救えるのであれば仕方ないのかもしれないと思った。
「や、やります!」
「よし、じゃあまだ間があるから。サイドワインダーのINS(中間慣性誘導)のやり方をよーくおさらいしておけよ」
「サイドワインダーのINS?」
「そうだが、なんだと思った?」
「自分はてっきり特攻を仕掛けると」
「おいおいよしてくれよ、ドローンじゃねえんだぞ。サイドワインダーは対空ミサイルだが、9X型からはこのINSがついたことで対艦ミサイルにも応用できるってわけだ。もっとも炸薬量は通常の対艦ミサイルの10分の1以下だが上手くあてりゃあ、これっぽっちでも戦闘不能にできる」
先輩隊員が言うようにサイドワインダー程度のミサイルでもレーダーやCIC(戦闘指揮所)に当たれば艦は戦闘不能に落ちる。
分厚い鋼鉄製の防御隔壁に覆われた第二次世界大戦時の軍艦と違い、現代の軍艦は兵器とそれを運用するためのシステムを搭載した高速艇に過ぎず、その船体を覆う鋼板はタンカーよりもはるかに薄くて弱い。
しかも複雑で繊細な各種システムは例えば127mm砲のような武器本体だけでは使用できなくて、各種レーダーによる情報と、コンピューターに情報処理が行われたうえでCICからの指示によって実行される。
言ってみれば、それらを繋ぐどこかのケーブルが1本だけでも断線してしまうだけで、システムは異常を起こして使用できなくなる。




