祝福の副作用
数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。
この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。
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なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。
「聖女様だ……!」
その日、王都は歓喜に包まれた。
白い光。
神々しい羽衣。
天より降り立った一人の少女。
転生聖女リリエル。
病を癒し、傷を塞ぎ、世界を救う存在。
――の、はずだった。
「大丈夫です! すぐ治しますね!」
リリエルは満面の笑みで、瀕死の騎士へ手をかざした。
優しい光。
神秘的な聖歌。
傷口がみるみる塞がる。
「おお……!」
周囲から感嘆が漏れる。
騎士も感動していた。
「ありがとうござ――」
その瞬間。
髪が白くなった。
「……え?」
しわ。
皮膚の弛み。
歯が抜ける。
骨が軋む。
十秒後。
そこにいたのは、九十歳を超えた老人だった。
「ヒッ」
騎士本人が一番驚いていた。
王立医術院は大混乱になった。
「なぜだ!?」
「傷は完治しています!」
「ならなぜ老化した!?」
研究結果はシンプルだった。
聖女の回復魔法。
あれは“細胞を超高速分裂”させていた。
腕を治す?
簡単だ。
一瞬で数兆個の細胞を増殖させればいい。
問題は。
生命には分裂回数限界があることだった。
「つまり……」
「はい」
学者が青い顔で頷く。
「寿命を前借りしています」
それでも人々は頼った。
なぜなら。
目の前では助かるから。
「聖女様! 息子を!」
「もちろんです!」
重傷の少年。
回復。
完治。
そして。
おじさん化。
「母さん……?」
声変わりしていた。
母親絶叫。
だが本当に恐ろしいのは回復だけではない。
「皆さんを強化しますねー!」
戦場。
リリエルが笑顔で杖を掲げる。
「《聖なる祝福》!」
光。
兵士たちの筋肉が膨れ上がる。
「おおおおお!!」
「力が湧く!!」
「いける!! 勝てるぞ!!」
テンションが異常上昇。
恐怖消失。
痛覚麻痺。
脳内快楽物質暴走。
結果。
「ヒャハハハハ!!」
「殺せぇぇぇぇ!!」
「敵だァァァ!!」
「味方!? 関係ねぇ!!」
狂戦士化。
敵軍ドン引き。
「撤退!! 撤退しろ!!」
「無理です!! 味方が追ってきます!!」
地獄だった。
強化兵たちは敵を倒した後も止まらない。
村を壊し。
馬を素手で引き裂き。
仲間同士で殴り合う。
そして数時間後。
全員、心臓破裂で死亡した。
筋力強化が限界を超えていた。
「聖女様って……本当に聖女なのか?」
誰かが呟いた。
しかしリリエル本人は善意の塊だった。
「えっ!? でも皆さん元気になってましたよ!?」
悪気ゼロ。
純粋。
曇りなき笑顔。
だから余計怖い。
さらに問題が発覚する。
聖女の“浄化”。
「呪いを消しますね!」
光。
確かに呪いは消えた。
ついでに。
記憶も消えた。
「……あなた誰?」
「え?」
「ここどこ?」
脳組織まで浄化したのだ。
解毒も危険だった。
「毒を消します!」
毒は消えた。
代わりに。
肝臓も消えた。
「なんで!?」
「毒素に近い成分まで分解されたんです!」
「範囲ガバガバすぎる!!」
王国会議。
議題。
《聖女をどう扱うか》。
「危険すぎる!」
「だが魔王軍には有効だ!」
「回復されるくらいなら死んだ方がマシ!」
「しかし死者蘇生まで可能だぞ!」
空気が凍る。
「……代償は?」
「老衰です」
「最悪だ」
そんなある日。
魔王軍が侵攻した。
絶望的戦力差。
誰もが敗北を覚悟する。
するとリリエルが立ち上がった。
「皆さんを守ります!」
「待て!!」
止める間もなく。
聖女砲、発動。
「《究極神聖祝福》!!」
世界が白く染まる。
兵士全員超強化。
筋肉暴走。
多幸感限界突破。
脳内麻薬永久分泌。
「ウオオオオオオオ!!」
人類軍。
魔王軍へ突撃。
強い。
強すぎる。
一騎当千。
城壁粉砕。
ドラゴンを投げる。
魔王軍壊滅。
そして。
勝利の後。
「アハハハハハ!!」
誰も戦いをやめなかった。
三日後。
王都は消滅した。
原因。
テンションが下がらない元兵士たち。
踊りながら建物を壊し続けたため。
瓦礫の中。
リリエルは泣いていた。
「どうしてぇ……私はみんなを幸せにしたいだけなのにぃ……」
隣で老賢者が遠い目をする。
「聖女様」
「はい……」
「あなたの力、“加減”という概念がありませんな」
「え?」
「包丁を振るつもりが、大陸を斬っておる」
そして後世。
歴史書にはこう記された。
《白き災厄》。
魔王より被害を出した聖女として。
今回は「回復・支援系チート」の暴走を書きました。
攻撃魔法は危険だと分かりやすいですが、
実は回復系もかなり怖いです。
現実の医学でも、
「細胞を活性化しすぎる」
と癌化や寿命問題が発生します。
また、感情操作系バフは、
脳内物質に介入している可能性が高い。
つまり極端に言えば、
「合法的な狂化剤」
になり得ます。
そして何より厄介なのは、
本人が善意100%なこと。
悪人なら止めやすい。
でも善人の災害は、社会が受け入れてしまう。
笑顔で世界を壊す存在ほど、恐ろしいものはないのかもしれません。




