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チート主人公は悪くない。  作者: さんご


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3/6

出力だけが壊れている魔法使い

数ある物語の中から、本作を手に取っていただき、心より感謝申し上げます。

この小さな物語が、あなたの日々にほんの少しでも彩りを添えられますように。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや感想をお寄せいただけると、作者にとって大きな励みとなります。

なお、全く別ジャンルの物語も公開しております。気分転換に違う世界を覗いてみたいときは、ぜひそちらもお楽しみください。

「えい」


ぽっ。


生まれたのは、小さな火。


風が吹けば消えそうな、頼りない炎だった。


焚き火以下。


光源としてすら怪しい。


新人魔術師試験会場。


静寂の後、観客席から失笑が漏れる。


「……小っさ」


「マッチじゃん」


「子供の火遊びかよ」


ざわざわと広がる嘲笑。


試験官も、軽く咳払いをした。


「ミオルくん。魔法とはイメージと魔力量の――」


「いや、もう飛んでます」


「……へ?」


間の抜けた声。


次の瞬間だった。


地平線が消えた。


音は、遅れてやってきた。


世界の方が先に揺れたからだ。


遥か彼方。


試験場から五十キロ先。


そこに見えていたはずの山脈が――


白く光っていた。


いや。


違う。


“融解していた”。


誰も喋らない。


何も理解できない。


あったものが。


そこに確かに存在していた、標高三千メートル級の連峰が。


綺麗に。


跡形もなく。


消えていた。


崩れたのではない。


削れたのでもない。


蒸発した。


岩石が、土壌が、地下水が。


全部、高熱で気化した。


それだけ。


一瞬で。


そして遅れて。


衝撃波が来る。


ドゴォォォォォォォォォォンッ!!


空気が爆ぜる。


試験場の窓ガラスが一斉に砕け散る。


建物が軋み、床が跳ねる。


誰もがよろめいた。


「えっ」


ミオルが、首を傾げる。


「ちょっと強かった?」


その一言に。


誰も返事をしなかった。


ミオルは、転生者だった。


神の手違い。


ありがちな話だが、“中身”が問題だった。


本来、魔法の威力は三つで決まる。


魔力量。


制御精度。


属性適性。


だが、ミオルだけは違った。


魔法式の最後に、意味不明な処理が挟まれていた。


×九億八千万。


桁が、おかしい。


神すら理由を説明できなかった。


「バグった、ごめん」


で済まされた。


済むわけがなかった。


試験官は顔面蒼白のまま、次の試験を促そうとする。


「……では、次。水魔法を」


声が震えている。


止めるべきだと、全員が思っている。


だが止められない。


止める根拠がない。


何より――本人が無邪気すぎた。


「はーい」


ミオルは杖を向ける。


軽く振る。


ぴちょん。


落ちたのは、ただの水滴だった。


かわいいレベル。


スライムも倒せなさそうな量。


観客席から安堵の笑いが漏れかけた――


その瞬間。


海が、割れた。


ズゴォォォォォォォォォォンッ!!


空気が裂ける。


海面が、陥没する。


目に見えるほどの“巨大な凹み”が、水面に出現する。


引き寄せられる。


周囲の海水が、すべて一点へ吸い込まれる。


超圧縮。


超密度。


数十億トン規模の水塊が、一点に叩きつけられる。


――海底へ。


衝撃。


地盤が砕ける。


プレートが歪む。


津波ではない。


そんな規模ではない。


これは――地形改変。


海底が陥没し、大陸棚が崩壊する。


深海が、さらに深くなる。


余波は連鎖する。


沿岸が沈む。


港が消える。


街が飲み込まれる。


「……あ」


ミオルの顔から、血の気が引く。


遠くで、音がする。


遅れて届く。


サイレン。


鐘。


警鐘。


三百キロ先の王国で。


「やば……い?」


小さく呟く。


だがもう遅い。


止まらない。


止められない。


彼女が“発動した瞬間”に。


結果は確定している。


試験場は壊滅していなかった。


それは奇跡ではない。


単純な偶然だ。


「近くじゃなかったから」助かっただけ。


つまり。


距離の問題でしかない。


もしこの場で同じ威力が発生すれば。


全員消えていた。


理解が、ようやく追いつく。


誰もが悟った。


これは魔術師ではない。


兵器でもない。


災害ですら足りない。


「……規格外、という言葉では足りんな」


試験官が、震えながら呟く。


「規格外じゃない。規格が存在しない」


誰かが訂正する。


そして。


最も重要な問題。


それは。


本人が、自覚していないことだった。


「えっと……合格、ですか?」


ミオルが、おずおずと手を挙げる。


その声は、本当に普通の少女のものだった。


善意で。


悪意なく。


ちょっと失敗した、ぐらいの感覚で。


山を消し。


海を割る。


その“認識のズレ”こそが。


この場にいる全員を、心の底から震え上がらせていた。


魔法は、イメージで決まる。


ならば。


彼女が「もっと頑張ろう」と思った瞬間。


次は何が起きるのか。


誰にも想像できない。


いや。


想像したくなかった。


世界が、軽く壊れ始めていた。


それから世界は理解した。


ミオルは――


“威力だけがおかしい”。


ただ、それだけで。


すべてが壊れるのだと。


炎魔法。


着弾した瞬間、対象が消える。


燃えるのではない。


爆発するのでもない。


存在ごと“抜け落ちる”。


熱量が極限を超え、物質が保持できないのだ。


結果、地表に円形の空白が生まれる。


そこには何もない。


ただの“消失”があるだけだ。


水魔法。


雫一滴。


それだけのはずだった。


だが現実は違う。


海流が引き裂かれ、地形が変わる。


大陸棚は崩れ、海溝は深まり、新たな湾が形成される。


地図が、更新される。


その原因が、一人の少女の“ぴちょん”であることが問題だった。


風魔法。


そよ風のつもり。


優しい追い風。


だが発生するのは、超広域の気圧変動。


大気循環そのものが書き換えられる。


季節風が崩壊し、気温分布が歪む。


ある地域では永久の嵐。


ある地域では風の止んだ死域。


天候という概念が、局所現象へと格下げされた。


土魔法。


ちょっとした足場。


転ばないように支えを作る。


その程度の意図。


だが地殻が隆起する。


大陸が押し上げられ、山脈が数分で誕生する。


逆に沈降すれば、そのまま海になる。


プレート運動が“意思”に従うようになる。


それはもはや地学ではなく、事故だった。


雷魔法。


小さな閃光。


威嚇のつもり。


しかし発生するのは磁場の撹乱。


地磁気が歪み、方位磁針が狂う。


時にオーロラが低緯度で暴れ、通信が遮断される。


最悪の場合、極性の局所反転すら起こる。


planet規模の機構が、少女一人で揺らぐ。


そして――


最も危険なのは、回復魔法だった。


「治れー」


優しい声。


祈るような響き。


聖光が、ふわりと広がる。


瀕死だった兵士の身体を包み込む。


普通なら、これで終わる。


だが。


「ぎゃあああああああああ!!」


絶叫。


身体が、膨らむ。


細胞が暴走的に増殖する。


骨は密度を上げ、筋肉が際限なく肥大化する。


修復を通り越し、“過剰最適化”が起きている。


数秒後。


そこに立っていたのは。


二・八メートルの筋肉生命体だった。


呼吸は荒く、視線は揺れ、しかし理性は残っている。


「ありがとう……ございます……」


震えた声。


涙が落ちる。


助けられた。


だが同時に、自分が何になったのか理解してしまった。


本人も、怖いのだ。


世界はついに対処を迫られる。


世界会議。


議題は一つ。


《ミオルをどうするか》。


「殺すべきだ!」


即座に過激な意見が飛び出る。


「無理だ!!」


即座に否定される。


「封印だ!」


「誰がやる!? 近づいた時点で終わりだぞ!」


「宇宙へ追放!」


「空間魔法が耐えられん!!」


「異次元隔離は!?」


「接触前に現象が発生する!」


会議は叫びと沈黙を繰り返す。


答えが出ない。


出るはずがない。


なぜなら。


問題の中心が――善人だからだ。


ミオルには悪意がない。


誰よりも優しく、誰よりも臆病で。


ただ人を助けたいと思っているだけ。


だからこそ、対処できない。


敵ではないのだ。


ただ、存在しているだけで危険なだけで。


やがて、慎重な質問が投げられる。


「ミオル殿……最近は何を?」


「最近は、できるだけ魔法使わないようにしてます」


「……それで?」


「料理してました」


場が静まる。


「料理……」


「火力弱めで」


全員が、息を止める。


「ちなみに、何を?」


「目玉焼きです」


数秒の沈黙。


誰もが祈るような気持ちで次を待つ。


「……被害は?」


ミオルは少し考えて。


「あー……半島が消えました」


最悪だったのは。


ミオル本人が“弱い”ことだった。


身体能力は普通の少女。


走る速度も、腕力も、反応も。


一般人と何も変わらない。


だから、身を守るために魔法を使う。


盗賊に囲まれる。


→小石サイズの火球。


→山脈が蒸発。


熊と遭遇する。


→威嚇の風。


→超大型台風発生。


躓く。


→咄嗟の土魔法。


→活断層断裂。


偶発的な防御行動が、すべて災害になる。


世界中の自然災害記録が塗り替えられていった。


だが、人類は適応する。


必ず。


それが強さでもあり、悲しさでもある。


「西の空が光ってるぞ」


「あー、ミオル様が料理してるな」


「今日は風向き悪いな、避難しとくか」


日常会話だった。


予報だった。


ミオルは“現象”として扱われ始める。


嵐や地震と同じ枠に。


人格のある天災。


それが彼女の立ち位置になっていった。


ある日。


ミオルは海辺で泣いていた。


波は静かだった。


遠くでは、かつての都市が海底遺跡として眠っている。


彼女が“少し強め”に水魔法を使った結果だ。


「私……みんなを助けたいだけなのに……」


声が震える。


拳が小さく握られる。


隣で、老魔導士が笑った。


穏やかな顔で。


「難しいものですな」


「……私、生きてちゃダメなのかな」


沈黙。


そして首を振る。


「そんなことはありません」


老人は海を見たまま言う。


「力とは、本来、世界を変えてしまうものです」


ミオルは答えない。


ただ聞く。


「英雄と災害は……案外、紙一重なのですよ」


優しい声だった。


責めるでもなく、肯定するでもなく。


ただ事実としての言葉。


その夜。


流星群が降った。


空一面に広がる光の線。


静かで、美しく、儚い景色。


だからミオルは、思わず呟いた。


「……綺麗」


その瞬間。


流星の一つが、消えた。


否。


消えたのではない。


“消し飛んだ”。


彼女の無意識の魔力が、共鳴した。


数秒後。


宇宙空間で砕け散ったそれは、無数の破片となり。


軌道を変え。


大気圏へと突入を始める。


線ではない。


面で降ってくる。


流星群ではなく、“降雨”として。


それは美しさを持たない。


ただの終末だった。


人類は悟る。


この少女は。


ついに。


地上を越えた。


大気を越えた。


星を越えた。


――天体へ干渉し始めた。


もはや。


空すら、安全圏ではない。


 「威力だけ異常」というタイプのチートを極端に描いた話です。


 普通の作品では、

「魔力切れ」

「制御困難」

「詠唱時間」

などでバランスを取ります。


 しかし、もし“出力だけ”が無限に近かったらどうなるのか。


 それはもはや戦闘力ではなく、

「自然法則への暴力」

になります。


 特に面白いのは、

“本人は普通の感覚”

なところです。


 マッチ程度の火。


 軽い水滴。


 そよ風。


 本人の感覚では本当にその程度。


 なのに結果だけが隕石災害級。


 これはある意味、

「核兵器を持った一般人」

の寓話でもあります。


 善意と破壊力が比例しない世界は、とても静かに恐ろしいのです。

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