<800年前の男>
翌日、ヨルダ爺は嘉助の事務所を訪れていた。もともとERI(超感覚研究所)の現状報告をするために呼ばれていたのだが、ヨルダ爺としてもリピウスが撮影した動画を早く見せたいと考えていたのだ。
動画を嘉助と杏子に見せると、二人は即座に反応した。
「この動画はいつ、どこで撮ったのですか?」
嘉助が、何やら慌てた様子で身を乗り出してきた。
「確か三日前と言っておったかのう。場所は渋谷じゃ」
「三日前の渋谷……。あいつらが日本に来ているということか!」
杏子が鋭い語気で叫んだ。
「ほう。二人とも、この人物たちに見覚えがあるのじゃな?」
ヨルダ爺の言葉に、嘉助と杏子は顔を見合わせた。嘉助が小さく頷くと、杏子が応えた。
「これは『ダーズリー卿』です。間違いありません」
「ダーズリー卿、のう……。ふむ、昔どこかで聞いたことがあるような……」
ヨルダ爺が記憶を辿るように呟く。
「はい。ダーズリー卿は800年前に現れ、初めて霊界の追跡から完全に逃れきった『上級悪魔』です」
嘉助に続いて、杏子が忌々しそうに語り始めた。
杏子によれば、ダーズリー卿は800年前のイギリスに現れた存在だという。当時は200年周期の真っ只中にあり、ヨーロッパを中心に多数の霊能力者が誕生していた。それと同時に「悪魔落ち」する者の数も多く、その中の一人がダーズリー卿だったのだ。
悪魔は人の魂を喰らう化け物であり、早期に退治する必要がある。悪魔が発生すれば、霊界警備隊やデーモンハンターたちが集まり「悪魔狩り」を行うのが通例だ。特に上級悪魔ともなれば聖騎士団まで動員され、徹底的に追い詰めることになっている。
しかし、ダーズリー卿は霊界が敷いた鉄の包囲網をことごとくすり抜け、忽然と姿を消してしまったのだ。当時、杏子も討伐隊に参加しており、あと一歩のところまで追い詰めながらも逃げ切られた苦い経験があるため、その姿が深く印象に残っているようだった。
「なるほどのう。800年前の上級悪魔じゃったか」
「ダーズリー卿は、その後も200年周期ごとに現れ、なぜか新しい上級悪魔が誕生すると、その者たちを連れ去って再び姿を消してしまうのです。映像の両側にいた男女は、恐らく600年前に姿を消した『ガードナー』と『ティモラ』だと思われます」
「他にも仲間がおるのか?」
ヨルダ爺が問いかける。
「400年前に一人、200年前にも二人合流しているはずです」
「……ということは、最低でも六人の上級悪魔が、現在この人間界に潜んでいるということじゃな」
「はい。残念ながら霊界は、800年前から一度も彼らを捕捉できていません」
杏子は悔しそうに拳を握りしめた。
「そのダーズリー卿が、再び表舞台に現れたか。何やら嫌な予感がするのう」
ヨルダ爺の言葉に、嘉助も沈痛な面持ちで頷く。
「そうですよね……。一応、彼らは今でも賞金首として手配中なのですが、一旦姿を消すと全く消息が掴めないんですよ」
「そして、200年ごとに再び現れる、と」
「この映像をお借りしてもよろしいでしょうか? この件はすぐに霊界上層部へ通達せねばなりません」
映像を託された杏子は、そのまま足早に霊界へと向かっていった。




