<協力者たち>
ヨルダたちが天界のシステム管理センターを訪問している頃、嘉助は現在、霊界協力者として活動している者たちを集めていた。先日老師から指摘された「霊能力者による犯罪対策」に関して協議の場を設けたのだ。
今回、嘉助が集めたのは、日本人4名、インド人1名、アメリカ人1名、イギリス人1名の計7名であった。
彼らは日本の一人を除いて既に能力に目覚めた者たちであり、ある程度は霊力に関する知識を持っていた。
嘉助は、老師が知人から聞いたという「多数の霊能力者が誕生し、霊力を使った犯罪行為を始めた場合のケース」と、警察等がそれに対応する場合の問題点に関して概略を説明し、意見を求めた。
「良くまとめられているわね。こう見ると今の警察では、手も足も出なくなってしまいそうだわ」
最初に口を開いたのは、日本のリーダー的存在でもある東雲紫音であった。彼女は精神科医としてメンタルクリニックを営んでおり、能力もマインド系の実力者であった。
「うわー! こうやって見ると、かなりヤバい事態になるな……」
声を上げたのは佐藤君であった。彼は盗聴や盗撮系の能力者である。もし紫音経由で嘉助に出会っていなければ、恐らく今頃は犯罪者になっていただろう。
「うふふ。サトちゃんには身につまされる内容でしょ。一歩間違えれば、この資料に挙げられている『軽微な犯罪者』の筆頭になっていたかもしれないものね」
佐藤君をからかったのは、警視庁の生活安全課に勤務する桂木舞巡査である。彼女も仕事の関係で紫音と知り合い、その後に霊力へ目覚めたため、紹介を受けて嘉助の協力者になった経緯がある。霊力値は日本の協力者の中では一番高い8万強であった。
「う、うるさい。俺は犯罪者になんて……」
「あら、私と知り合ったきっかけは何でしたっけ?」
紫音の言葉に佐藤君は黙ってしまった。彼がストーカーをしていた女性が紫音の患者で、その件から能力者の疑いをかけられ、嘉助に捕まったのであった。
「まあ、それは置いておいて。確かにこの資料を見る限り、能力者の犯罪に対応するのは厳しいですね。我々能力者であっても、今の知識や技術では対応できないでしょう」
インドのラヴィが発言した。彼はインドの寺院に所属する修行僧であり、幼い頃から師と仰ぐ先輩修行僧から訓練を受けていた。その師自体が霊界人で、嘉助配下の監視人の一人であったのだ。
そんな関係で、彼は霊力に目覚める前から制御に必要な訓練を始めており、11歳の時に偶然覚醒してからは本格的な修行を積み、既に10年以上が経過していた。
現在、霊力値20万で制御レベルも6となっており、霊力使いとしては最も優れていると認められている。
「そうだな。現行犯なら力ずくで対抗できるかもしれないが、ワープとかで逃げられたらお手上げだぜ」
発言したのはアメリカ海兵隊所属のジェームスである。彼は霊力27万を持ち、現時点で世界最強の能力者と言われていた。
ただし、彼は覚醒してまだ3年と短く、制御レベルはようやく5になったところだった。そのため、総合的な実力ではまだラヴィの方が上と評価されている。
今のところ、協力者の中で霊力20万オーバーはラヴィとジェームスの二人だけである。協力者以外では、彼らの他に20万オーバーが二人確認されていた。また10万オーバーでさえ十数名が知られている程度である。現時点で嘉助たちが把握している能力者は数百人いるのだが、大部分は霊力値3万~5万前後であった。
「それ以前に、霊能力による犯罪だと世間に認知されるまでに相当な時間がかかりそうだ。政府や警察がすぐに本腰を入れてくれれば良いがな」
イギリスの情報局に所属するジョンソンが言った。彼は霊力12万だが卓越した知略の持ち主であり、その職務柄、世界中に情報網を持つ特異な人材であった。
「そうよね。私だって、今能力者だと知られたら、どんな扱いをされるか分からないし……」
舞は不安そうに顔をしかめた。
「そこは『世間が霊能力者を認識し、政府や警察が本腰を入れた』という前提にしないと、以前話し合った時と同じで何も進まなくなるわよ」
議論が堂々巡りしそうになったのを、紫音が引き戻した。
「そうだね。その前提で検討しないと対策は立てられないからね」
「まあそういうことなら、とりあえず一番厄介なのは、逮捕しても能力によっては既存の刑務所じゃ対処できないってことかな?」
「それもあるけど、犯人の手がかりが今の鑑識技術じゃほとんど役に立たないってことも大きいわよね」
舞が警察官らしい視点で評価を示した。
「確かにな。証拠が無ければ捜査もできないだろうからな」
「いや、それ以前に霊力が室内に自由に入り込めてしまうことが問題だろ」
ジョンソンが、英国スパイらしいコメントを投げる。
「でも、遠隔操作だとしても半径500メートル以内に限定できるだろ?」
「気づけばな。だが無音・透明で壁も透過する代物だぞ。結界でも張ってない限り気づけないって」
「そうだね……これは根本的に大きな問題なんだよね」
嘉助の言葉にも実感がこもっていた。
「そうですね。既存のセキュリティが全て無効化されてしまいます。防ぐには霊力バリアと検知機能を備えた結界でも張らないと対処できないでしょう」
技巧派であり、この中では唯一「結界」の能力を習得しているラヴィが言った。
「ERIで能力者のデータベース化をして共有できれば、犯人を絞りやすいかもな」
「ERIに能力無効化装置ってあったんじゃないか?」
「俺もそれは聞いたな。嘉助さん、知らないかい?」
「うん。確かに装置はあると聞いている。でも、まだ扱いは決まっていないのだよ。なにせ霊界の技術が組み込まれた装置だからね……なかなか許可が下りにくくてね」
嘉助は少し苦渋の表情を見せた。
「まあ、そんなことを言っていたら何も進まない。この件に関しては、ERIとして対応を約束させるよ」
嘉助は珍しく、はっきりと言い切った。
協力者のみんなも、いつもののらりくらりと明言を避ける嘉助にしては珍しい、と思ったようだ。
「確か嘉助さんたちは、能力者の所在も把握して監視しているのでは?」
ジョンソンが問いかける。
「うーん、今はほぼ対応できているけどね。でも、今後は我々だけでは無理なんだよ。もっと幅広く情報網を持たないとね」
嘉助は頭を掻きながら、困った顔で答えた。
「やはり各国の警察など、組織的に対応していかないと無理ですよね」
「他にもERIで提供可能な技術があれば情報を知りたいわ。その上でさらに検討してみたいわね」
具体的な解決策にはまだ遠いが、今回は具体的な犯罪ケースや警察の無力さが示されたため、今までにはない前向きな議論が増えたと嘉助は感じていた。
(これならなんとか……)
彼は心の中でそう思いながら、次はERIとも早急に話し合わねば、と考えていた。




