<リピウスの更なる追求>
暫くのコーヒーブレイクの後、部屋を出ていったエンジニアは、さらに3人ほどのエンジニアを伴って、大量のシステム資料を運び込み準備を始めた。
「そ、それでは続きを始めましょう」
所長は少し不安そうな顔をしながら再開を宣言した。そんな中、いまだにエンジニアたちは何やら必死で資料の山をかき分けながら相談しているようであった。
「んじゃあ、さっきの質問の回答を聞かせてくれますか?」
美味しいケーキに満足したのか、先ほどよりはだいぶ柔和な表情でリピウスも再開を促した。
「え、ええと。定期バッチ処理関係ですよね。それはご指摘の通り、日次・月次・年次の定期処理は行われています。ですが、このシステムは昼夜もなく動き続けていますから、通常の定期処理は負荷の少ない、簡単なガベージ処理と各種定例資料の作成程度になっています」
資料をペラペラとめくりながら、新たに加わった一人が説明した。
「うん。そうだろうね。で、大バッチ処理っていうのはないのかな?」
リピウスは愉快そうにさらに尋ねた。
「は、はい。その、ご質問の長周期単位のバッチなのですが、一応私たちが把握している範囲では、100年単位に統計処理が行われているということは知っています。また200年単位でも、特殊なバッチ処理が稼働していることは把握しています」
別のエンジニアが対応した。
「うん。だからね、その200年単位の特殊なバッチ処理の内容を聞いているんだよね。一番疑わしいのは、その処理がシステムに高負荷を与えて、それに起因して何らかの誤動作を起こし、勝手に封印解除コードが発信されてしまった可能性なんだけどね」
リピウスの眼光がひと際鋭くなってきた。それはグルグル眼鏡越しにすら感じ取れるほどであった。
「あ、は、はい。それはですね……」
言いながら、またしてもエンジニアたちは、あたふたと資料の山をほじくり返しながら、何やらコソコソと相談し始めた。
「のう、その特殊な処理というのは、お主たちは内容を把握しておらんということかの?」
ヨルダ爺が、モタモタしている様子に違和感を覚えて催促した。
これには所長も慌てだし、
「き、君たち、早く老師にお答えせんか!」
と少し声を荒らげた。
「ふ~ん……。まあ、200年単位でのバッチ処理だからね。滅多に動く処理じゃないから、開発当初でもなければ、そうそう詳しく知っている者もいないのかもしれないね」
急にリピウスが、妙に優しげな声でエンジニアたちを擁護した。
「は、はい。申し訳ございません。わ、私たちはまだ、実際にこの処理には立ち会ったことがないものですから……」
最初からいた一人のエンジニアが答えると、他の者たちも「うんうん」と頷いていた。
その様子を見て、ここでリピウスは全く異なる視点で話を始めた。
「なるほどね~……。ところで、皆さんはこのシステムを担当したのはいつ頃からですか?」
突然質問の角度が変わったので、エンジニアたちは虚を突かれたようで、全員が顔を見合わせてオロオロしだした。
「あれ? だって今、200年周期の特殊処理には立ち会った経験がないと言いましたよね。あ、主任エンジニアさんたちはどうなんですか? 所長と管理部長さんはいつから、このセンター勤務になったのでしょうか。答えてもらえますか?」
所長たちまで質問は飛び火した。皆はリピウスの真意を感じ始めており、どう答えるのが良いのか、視線は所長に集まっていた。
「のう所長さん。何かリピウスの質問に答えるには問題でもあるんじゃろうか? 何なら環境庁の人間界保全管理局にでも問い合わせようかのう?」
ヨルダ爺がここで援護射撃を一発ぶち込んできた。
所長は汗を拭きながら、しきりに周りの者たちに「何とかしろ!」と目で問いかけているのだが、逆に視線はサッと逸らされてしまった。
「は、はい。私はこのセンターに来て100年になります。確か管理部長は200年前に来ていたよな」
と、しかたなく管理部長に話を投げた。
管理部長はいきなり振られたので、大いに慌てた様子で応えた。
「は、はい。確かに私は200年前に赴任してきて、30年前に管理部長に就任しております。でも、私が赴任した時点では、該当する200年処理は終了した後でしたので、私も実際に動いているのを見たことはございません。そうだ、確か主任エンジニアと副主任も私と同時期に赴任したのだったよな?」
今度は最初に同席した二人に話が振られた。二人は既に観念したようで、
「はい。私達も一緒に200年前に赴任しました。ですが、管理部長同様に特殊処理は完全に終わっていましたので、引き継ぎ時にも特段の話には出てきていませんでした」
ヨルダ爺とジンは顔を見合わせて、何やら頷き合っていた。
そこにリピウスの声が響いた。
「ねえねえ、話を聞いていると、200年前に結構大きな人事異動があったみたいだけど、それって何か問題が起こったからじゃないの~?」
その言葉に所長たちはハッとしたように顔を伏せてしまった。
それを見て、ヨルダ爺がまた一言発した。
「ふむ。それも環境庁あたりに行けば、人事異動履歴を確認できるかもしれんのう」
所長は覚悟を決めたように答えた。
「私の赴任前の話で、詳しくは無いのですが……確かに200年前にシステムトラブルらしき大きな問題が発生し、その責任を取って所長以下、主だった者が総入れ替えするという事態が発生しています」
「その問題というのが、200年周期に人間界で大量の封印解除者が出ていた障害だったんじゃないですか?」
リピウスが静かに、それでいて強さを感じさせる声で問いかけた。
所長たちは、みな静かに頷いた。
「ふぅ~……。まさか、ここまでリピウスの予想が的中しておるとはな」
ヨルダ爺が感嘆の声を上げた。
「全くですね。どうやらリピウスさんが指摘した通り、200年問題の元凶は、200年周期で実行されている処理に関係しているようですね」
ジンも納得顔で補足した。




