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<安心・安全なシステムです>

一通り見学を終えると、ヨルダたちは応接室に案内された。

そこには、所長と管理部長のほかに、2名のエンジニアも同席した。実際の説明はエンジニアが行うようであった。


「それでは早速ご説明させていただきます」

そう言って、緊張した面持ちでエンジニアの一人が説明を始めた。


彼らが最初に見せたのは、リピウスがヨルダに渡した図と似た形式の、システム概要図であった。それはほぼリピウスが書いた内容と同じであった。


「ふむ。わしが送った内容とほぼ同じようじゃな」

「はい。私どもも老師様のご指摘が、あまりにも現システム構成に似ているため、驚いてしまいました」


「では、霊力の封印は、人間界に既に存在する霊魂に対しても、後から自由に変えられるのじゃな?」

「自由と言えるかどうかは分かりませんが、変える機能は存在しております」


「良ければ、具体的な変更手順も教えてもらえませんか?」

と、ジンが尋ねた。


「は、はい。それはこちらの資料にあります」

と言って、資料のページをめくって示した。

「霊力封印の内容を変更するということは非常に重大な問題になりますので、かなり込み入った手順を踏むことになっています」


エンジニアが言うには、変更を行う場合は、所長、副所長、管理部長の3人が立ち会いのもと、3人の霊紋れいもんによる承認が行われて、初めて実行画面へと進むことができるという。


「ですから、誰かが仮に実行しようとしても、確実に阻止できる構造になっています」

「ふむ……ならば勝手に実行することは不可能なんじゃな?」

「はい。私どもも、その点は厳重に管理しておりますので」

所長がまたも自慢げに身を乗り出した。


「今、人間界では年間に数件、200年周期には相当数の封印解除者が出ていると聞いていますが、何らかの原因で、こちらのシステムから解除対象条件付きで解除信号が発信されているということはないですか?」

ジンが質問した。


「そ、それはあり得ませんよ。今ご説明した通り、その処理は厳重にチェックされていますし、当然実行すればその記録もシステムに残りますので」

エンジニアたちは大きく手を振って否定した。


「そうですか……今説明した手作業以外に、発生することもないと考えてよいですね」

ジンがさらに追及した。

「も、もちろんです……」

エンジニアの一人が少し口籠った。


そこで突然、リピウスがリュックからタブレットを取り出した。電源を入れるとササッと操作し、やや離れた空間に四角形を描くように指先を動かした。

すると、そこには大きなディスプレイのようなものが現れ、タブレットの画面に映っている画像が大きく空中に映し出された。


皆が唖然として見ていると、リピウスはグルグル眼鏡を指でクイッと上にずり上げ、口を開いた。

「あのですね、先日ヨルダ爺から話を聞いた後で、再度少し詳細なシステム構成を検討してみたのですが。先ほど見せていただいたものと大差がないようですので、少しこちらの設計図を元に確認させていただけますか?」


大きな画面には、リピウスが言うように詳細なシステム構成図が表示されていた。

所長たちは、その詳細な設計図に驚きを隠せない様子だった。特に二人のエンジニアは、あまりにも綺麗な構成図を見せられて、驚きを通り越して少々恐怖さえ感じているようであった。


「まずは……」

そう言って、リピウスは次々と想定されるシステム機能に関して確認をしていく。

それに対してエンジニアは、あれこれ相談しながら、手元の資料を必死にめくってリピウスの質問に答えていく。


「まあ基本的機能構成は、概ね私が想定した機能構成で合っているということですね?」

暫くの確認作業の後、リピウスは主に二人のエンジニアに念押しの確認を行った。

二人のエンジニアは大きく頷き、これで終わりなのかと期待のこもった目でリピウスを見つめている。


「そうですか。ならばお聞きしますけど、このシステムでは、100年おき、あるいは200年間隔で実行される『バッチ処理』が存在しませんか?」


リピウスは少し身を乗り出すように、二人のエンジニアを見つめた。

この問いかけにヨルダ爺とジンもハッとなった。

(こ、これは、ここで核心に切り込んでくるとは)

二人は同時に思いながら、エンジニアの回答を待っている。


「バ、バッチ処理……ですか?」

二人のエンジニアには、明らかに動揺が見えている。


「はい。この規模のシステムであれば、当然一定期間ごとに大きなバッチ処理を流すと思うのですよ。特に統計的な各種集計や、システムログの解析及び退避処理なども、通常なら日次、月次、年次等のタイミングで行われたりもします。


ですが、ここのように長期サイクルで管理をしているシステムであれば、それこそ100年単位に、通常とは異なる高負荷なバッチ処理を実行していても不思議ではないですよね。


もし私がアリエル様なら、人間界の先行きに対して、必ず統計的な配慮をしながら、各種分析データの集計と解析処理を行いますね」


リピウスは「常識だよ君たち」と言わんばかりの口調で捲し立てた。


これには所長以下エンジニアたちも驚きを隠せず、所長と管理部長はエンジニアたちに早く答えろとしきりに目で合図を送っている。

エンジニアたちは今まで以上に必死に手元の資料を探し始めたが、どうも手元にはないようで、

「あの、今は持ってこれなかったので、今すぐ用意して持ってきます。少々お待ちください」

そう言って一人が部屋を出て、ドタドタと走っていってしまった。


それを見て、所長は愛想笑いを浮かべながら、

「ここで一息入れましょうね」

と言って、コーヒーブレイクを提案し、至急お茶とお菓子を持ってくるように手配した。


ヨルダとジンも「ふぅ~」と長い息を吐き、緊張感ある応答からの静寂に少し気を緩めた。

ジンは内心、(この男、見た目とは裏腹に実に油断のならない男のようだな……)と、改めてヨルダ老師がリピウスを頼る理由を実感していた。


そんな周りの様子など気にもかけず、リピウスは運ばれてきた「天界の洋菓子」に顔をほころばせていた。

「お! これは自由が丘のモンサンクレール並みに繊細なケーキだな」

などと言いながら、既にケーキに齧り付いていた。

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