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<いざ霊界へ行かん!>

数日後、ヨルダはリピウスを迎えるため、デュークを伴って訪問してきた。

いつものようにリビングにワープゲートを開けると、ヨルダは足取りも軽く出てきた。すぐにデュークも続いて出てくると、元気よくリピウスに声をかけた。


「おーい! おいらも来てやっ……え? 誰???」


いつものテーブルの前には、メイさんと共に、見たこともない男が立っていた。


その姿はぽっちゃりとした肥満体型にチェック柄のネルシャツを羽織り、インナーには「へたれ」と大きく書かれた文字Tシャツ。ズボンはヨレヨレのジーンズを履いて、リュックをきっちりと背負っている。

さらに顔には、牛乳瓶の底のようなグルグル眼鏡をかけたあばた面に、野球帽を前後反対に被っていた。

いわゆる「アキバ系オタク男子」風とでも言うのだろうか。どうにもちぐはぐ感の強い容姿をしている。


年のころは三十代半ば程度に見えるが、年齢不詳とも言える風貌だ。心なしか、隣に立つメイさんの腰が引けているようにも見える。


「よう! 待っていたぞ」

アキバ系男子は、軽く手を挙げてデュークたちに声をかけてきた。


「ん? リピウスかの?」

声を聴いて、ヨルダ爺はそれがリピウスだと気づいたようだ。


「え? リピウスなのか? なんじゃ! その格好は!!!」

リピウスと聞いて、デュークが驚愕の声を上げた。


「おう、リピウスだぞ。ヨルダ爺から新たに借りた義体に入って、着替えて準備して待っていたんだよ」

ヨルダ爺は霊界に連れて行くために、メイと同じタイプの別の義体をリピウスに事前に渡しておいたのだった。


「着替えてって、なんでそんな格好をしてるんだよ。いやいやいや、その格好は絶対にないだろうがよ!」

どうにもデュークは気に入らなかったようで、非常に嫌そうな顔を向けて否定し続けている。


「うむ……確かにリピウスとは分かりにくい変装をするようには言ったが、これはまた……」

ヨルダ爺も、やや顔をしかめている。


「でもよ、この体型なら新たに服を買わなくても以前から持っている服が着られるし、以前の老人とも今の若者姿とも全く似ていないから良いんじゃないか?」

リピウスは案外気に入っている様子で、にこにこしながら答えている。が、グルグル眼鏡のせいで表情が極めて分かりにくい。


「ま、まあ、そう言われればそうじゃし……お! こんな所でのんびりしてもおられんのう。すぐ出ても良いかの?」

ヨルダは時間を見て、少し慌ててリピウスを促した。


「えー! そんな格好で霊界に連れて行くのかよ。絶対に門番にでも止められるぜ」

呆れた表情でデュークが文句を言っているが、約束の時間もあるようで、ヨルダは既に再度ワープゲートを開いていた。


「メイさん。リピウスの肉体の世話は頼んだぞ。多分半日程度で戻れると思うがの」

ヨルダ爺の言葉に、「はい。お任せください」と言いながら、メイはメイド服のスカートを軽く摘まんで優雅にお辞儀した。


「デューク。お前も頼んだぞ。何かあったらすぐに連絡するんじゃぞ」

「ああ、こっちは任せておいてくれよ。しかし……本当にそんな格好の奴を連れて行くのか?」

まだデュークは納得がいかないようで、文句を言い続けている。


そんなことはお構いなしに、ヨルダ爺はリピウスの手を引いてワープゲートの中に消えていった。


* * *


ワープ中特有の歪んで七色に輝く空間で、ぐにゃぐにゃと揉まれるような感触を味わいながら、やがて出口前まで到着すると体もシャキッと元に戻った。


「はぁ~……。やっぱ妙にワープ空間が長くないか? こんなに変な感覚が続いたのは初めてだよ」

リピウスが体の部位を確かめるように動きながら言う。


「ほっほっほ。これも慣れじゃよ。まあ確かに、人間界と霊界間のワープは少々長く感じるかもしれんがな。それじゃ、霊界へと入るかの」

そう言うと、ヨルダ爺はゲートの出口に入っていった。


リピウスも後に続いてゲートを出ると、そこはやや薄い水色の靄の中のようで、全体的に薄っすらと光に包まれているようだった。


「ここは?」

周りを見回しながらリピウスが聞くと、ヨルダ爺はとんでもないことを言い出した。


「ふむ。ここは天界のワープゲートじゃよ」


「え? 天界? 霊界ではないのか?」

リピウスの驚きは大きかった。天界と言えば、この世界の頂点に立つ聖域のはずである。


「そうじゃよ。システム管理センターは天界にあるのじゃから当然じゃろ。言っておらんかったかの?」

妙にとぼけた調子で答えると、ヨルダ爺はスタスタと進みだしてしまった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。聞いてないよ~……」

慌ててリピウスもヨルダ爺の後を追った。


リピウスが出た場所は天界のゲートドームで、ドームの中心辺りに大きな門がいくつも立ち並んでいる不思議な空間であった。ドームを出ると、そこは普通の公園の広場のような風景に変わった。見た感じは人間界の風景と大差がないように感じる。


少し進むと、そこには大柄な青年らしき姿が見えた。その男は二人の姿を確認すると、近づいてきて声をかけてきた。


「老師、お待ちしていました」

丁寧にお辞儀をしたのは、もう一人の同行者であるネイチャーハンターのジンであった。


「おおジン。待たせてしまったかのう」

「いえいえ、私も今しがた来たところです。で、そちらが老師のご友人ですか?」

ジンは答えながら、まじまじとリピウスの姿を眺めだした。その顔には、何とも言えない戸惑いが感じられた。


「うむ。わしの古くからの友人で、今回の人間界管理システムに関して助言してくれたリピウスじゃ」

いかにも大事な友人と言った風情で紹介した。リピウスは何も言わずに、ただ軽く会釈を返していた。


「なるほど。さぞかし異世界の賢人でいらっしゃるのでしょうね。しかし……その衣装は何処の異世界のものでしょうか? 私も宇宙の各地を巡ってきたつもりですが、そのような民族衣装は初めて拝見しました」


ヨルダ爺はジンに対し、リピウスのことを「異世界の賢者で、古くからの付き合いだ」と説明していた。

しかし、あまりにもジンの様子が生真面目だったので、流石にヨルダ爺とリピウスは吹き出しそうになっていた。


特にリピウスは、グルグル眼鏡で表情が見えにくいことを良いことに、

(ぶはははは……民族衣装だってよ、民族衣装。こんな民族いたら速攻で滅亡するわ!)

と思いながら、必死で笑いを堪えていた。


ヨルダ爺も必死で表情に出さないように耐えきり、

「さて、それではシステム管理センターへ行くとするとしようかの」

とジンを促した。


それを聞いてジンも軽く頷くと、その場に手を翳した。ワープゲートを開く際特有の空間の歪みが生じて、ぽっかりと穴が開いた。

「では、お二方からお入りください」


ジンは二人を誘い、完全にゲートをくぐるのを確認してから、自分も中へと消えていった。


こうしてリピウスは、霊界へ行ったつもりでいきなり世界の頂点である「天界」に降り立ってしまった。これは人類始まって以来の快挙なのだが、当のリピウスは初めての場所にワクワクが止まらず、お上りさんのようにキョロキョロと辺りを見回すばかりであった。

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