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<ヨルダ爺のお願い>

リピウスの家から戻ると、ヨルダは自分の庵に一旦戻った。

暫くは自室に籠もって、今日リピウスと話した内容に関して振り返っていた。


「さて、やってみるしかないのう」

そう独り言ちると、リピウスの書き記してくれたメモを眺め直した。


そして、霊界電話を使ってシステム管理センターの所長へ連絡を入れた。リピウスのメモも送信して、できるだけ早く説明をして欲しいと申し入れた。

所長はヨルダからの直々の申し入れに驚き、「すぐさま確認して連絡する」と答えた。


これでシステム管理センターからの返事を待って詳細な話を聞ければ、解決の糸口がつかめるかもしれないと考え、再度心を落ち着けようと試みた。

だが、どうにもヨルダは自分の不安を拭い切れずにいた。


「駄目じゃ。やはりわしでは管理センターで話を聞いても、とても問題解決には繋げられそうもないわい。ここは何とか……」

そう独り言ちると、そそくさと準備をして、再度リピウスの元へと行くことにした。


* * *


リピウスの家では、ヨルダ爺たちが夕方に帰ったので、それからメイさんに夕飯の支度をしてもらい、食後のひと時をのんびり過ごしていた。

すると突然リビングの空間が歪んで、ワープゲートが開いた。


「あれ? デュークかな?」

リピウスが注目していると、そこからはヨルダ爺が一人で出てきた。


「あれれ? ヨルダ爺一人なのかい?」

リピウスの問いに対して、ヨルダ爺は妙に切迫した声で答えた。

「リピウス、すまんが、わしを助けてくれんか?」


いつもと様子が違うので、リピウスも少し慌てて問いかけた。

「どうしたんだヨルダ爺。何があったんだよ!」

「うむ……わしの話を聞いてくれるかの?」


ヨルダ爺の反応を見て、リピウスはとりあえずいつものテーブルに座ってもらうことにした。

ヨルダ爺が座ると、メイさんが二人分のコーヒーを運んできてそれぞれの前に置き、すぐに別室へと離れていった。


「まあ、コーヒーでも飲んで落ち着いて話してよ」

リピウスは自分でもコーヒーを一口飲んでから、ヨルダ爺にも勧めた。

ヨルダ爺もゆっくりとコーヒーを口に運び、一口飲むと少し気持ちを落ち着けるように大きく深呼吸をしてから話し始めた。


「なあリピウス。今日説明してくれた封印管理システムの話なんじゃが……頼む! わしと一緒に霊界のシステム管理センターに行ってくれ。この通りじゃ。頼む!」

そう言いながら、ヨルダ爺はリピウスに深々と頭を下げて頼み込んできた。


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。俺に一緒に霊界に行って欲しいって言うのですか?」

リピウスも流石にヨルダ爺の言葉には驚いたようであり、またあまりにも予想外の話で、明らかに動揺していた。


「そうじゃ。わしと一緒に霊界へ行って、一緒にシステム内容に関する説明を聞いて欲しいのじゃ。リピウスが一緒でなければ、わし一人ではとてもシステムの話を聞いても、上手く判断もできんと思うのじゃよ」

ヨルダ爺は必死であった。何とか良い返事をしてもらわなければ、という気持ちが滲み出ている。


それからは、リピウスとヨルダ爺の押し問答が繰り返された。

「な、頼む。後生だから、わしの一生のお願いじゃ」

「いやいやいや、って、ヨルダ爺の一生って10億年は重過ぎますよ……」

「いや、10億年だろうと1000億年だろうと安いものじゃよ。リピウスさえ一緒に行ってくれれば、それで霊界の、そして人間界の最大の危機が防げるかもしれんのじゃ」

「いやいやいやいや、ヨルダ爺ってばおかしいよ。いくら何でもそこまでの問題じゃないだろうが……」

「いやいやいやいや、そこを曲げて何とか……」


こうして一時間近くも「いやいや祭り」が繰り返された。その間には何度もメイさんがコーヒーのお代わりを注いでくれていたが、流石のメイさんも徐々に呆れたように溜息をついているように見えてきた。(実際にはメイさんは溜息などはつかない。単なるリピウスの気のせいなのだが)


「でもよ、俺が霊界に同行するってことは、ヨルダ爺は俺に今死ねと言うことだよね?」

リピウスの顔には疲労感が滲み出ていた。そして、死をも覚悟しないといけないのかという悲壮感に包まれ始めていた。


「何でじゃ?」

ヨルダ爺はリピウスが何を言い出したのか、分からないという表情である。


「何でって、以前ヨルダ爺とデュークが言っていたじゃないか。霊界の門をくぐると、人間はその時点で肉体と魂の絆が断たれて、死ぬことになると……」

「はて……そうじゃったかな?」


ヨルダ爺のとぼけた返答を聞いて、流石のリピウスもキレ始めた。

「おいおいおい! あれは嘘だったのか? 俺は霊界に行っても死なないのか?」


リピウスの剣幕にヨルダ爺も少し怯んだようだったが、あくまで冷静に応えた。

「ふむ。いや以前言ったことは嘘ではないぞ。ただな、それは肉体のまま霊界の門をくぐった場合の話じゃよ。リピウスなら既に霊体離脱ができるのじゃから、霊体だけが同行すれば良い話じゃろうて」


「ん? 霊体だけ……?」


「そうじゃよ。肉体は安全を確保して、こちらに寝かせておいて、メイさんに世話をしてもらっておけば大丈夫じゃろ。何なら連絡係としてデュークにも肉体側の世話を手伝わせても良いしな」


ヨルダ爺の言葉をリピウスは吟味するように、虚空を見つめながら必死で頭をフル回転させているようだ。

少しの間をおいて、リピウスは冷静ないつもの口調に戻った。


「まあ、ヨルダ爺の言うことは分かったよ。でもさ、俺の記憶が正しければ、確か霊界の門というのは、霊界に戸籍が無ければ通れなかったんじゃないか?」


「ほう、良く知っておるな。じゃがな、わしから入国管理局に、異世界からの客人が来ると言うことで、ゲスト権限を得ておけば問題はないはずじゃよ」

「え? 異世界からのゲスト?」


「ふむ。リピウスもうすうすは感じておると思うが、この世界にはアルティア様以外にも神々は存在し、その神々もまた独自の世界を構築しておるんじゃよ。それをわし等は異世界と呼んでおっての。異世界間での交易なども天界では行われておるんじゃよ」

「ん? 異世界間の交易?」


「そうじゃよ。世界観の違う異世界では、それぞれ異なる特産などもあるからのう。それに互いに文化交流なども行っておるから、異世界間での交友関係も十分にあるんじゃよ。特にわしくらい長生きしていれば、親しい異世界の友人が千人や万人居ても不思議ではないじゃろうが」


ヨルダ爺の話を聞いていて、リピウスは少し頭が痛くなってきた。流石のリピウスでも、この話は壮大過ぎてついて行けそうもなかった。


「じゃからな。リピウスならわしと共に霊界へ行くことも問題ないはずじゃ」

ヨルダ爺は既に決定事項のように言い切って、この話を終わりにしようとしている。


「むむむ……」

リピウスは考え込んでしまって言葉が出てこなかったが、やがて口を開いた。

「なあヨルダ爺。俺が霊界へも行けるということは分かったけど、それじゃあ俺の存在が公になってしまったりはしないか?」


「大丈夫じゃよ。人間として行くわけではないからの。異世界からの古い友人がお忍びで来たので詳細は詮索しないようにと言明すれば大丈夫じゃ」


この説明でリピウスは納得することにして、ヨルダ爺と共に霊界へ行くことを了承した。


「ありがとう。ありがとうリピウス。さあ忙しくなるぞ。さっそく戻って入国管理局に申請して許可を得て来んとな。それじゃあまた明日にでも、連絡係としてデュークに来させるので、彼と一緒に準備しておいてくれな」

そう言うと、ヨルダ爺は嬉々としてワープゲートを開いて霊界へと戻って行った。


残されたリピウスはメイさんの方を見ると、やれやれという表情で両手を脇に軽く上げた。

「悪いけど、少し濃いめのコーヒーをもう一杯くれるかな」

と言って、深々と椅子に腰を下ろした。

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