<嘉助の悩みは尽きず>
「よろずや商会」の2階にある事務所では、何時もの通り、人間界監視長の嘉助が渋い顔をしながら新聞を見ていた。
そこには<怪盗Zero>の事件が大々的に取り上げられていた。
そこへ大柄な赤髪の女性が現れた。杏子である。
「よう、今日も時化た面してんな」
いつも通りの軽口を叩く杏子に対して、嘉助は読んでいる新聞をバサッとデスクの上に広げた。
「杏子もこれは知っているよね。これって、どう考えても能力者の仕業だと思わないかい?」
杏子は新聞の見出しを見て分かったようだ。
「<怪盗Zero>か。確かにな。こいつら能力者だよな」
「たぶんね」
「相当数いそうだけどな。全員未確認者ってわけじゃないだろうな?」
「今のところ監視者の中には、該当する者はいないと報告されているね」
「じゃあ未確認の能力者集団ってことか? あり得ないだろう」
「ふぅ~……」
嘉助は何も答えず、背もたれに深く体を預けてため息をついた。
嘉助は体を起こし再び新聞に目を移すと、明らかに不快感を浮かべて呟いた。
「まったく、ただでさえ厄介な時期なのにねえ。なんでこんなふざけた能力者が現れるかね」
「おい、まさかこの事件は一人の能力者の仕業だって言うのかよ」
「流石にそれはないだろうね。しかし、大勢が関与しているにしては痕跡が無さ過ぎるんだよ。まあ一人とは言わなくても、少数の犯行には違いないだろうね」
「嘘だろう。世界10か国以上で発生しているんだぜ。数人で対応できる規模じゃないだろうに」
「だからだよ。たぶんワープ能力を持っているんだろうね」
「でも確実に、相当優れたハッカーは参加してるよな」
「そうだろうね。つまり、強力なハッカー達とワープを使って各地で直接犯行する実行者達、ってところかな」
「他にも大勢を簡単に捕獲できるような能力者も必要じゃないか?」
「う~ん……確かにそういう能力者も必要だろうね。得た情報では全員が眠らされた状態で捕縛されていたらしいね。つまり、少なくとも大勢を一瞬で眠らせてしまうような能力者は必要だね」
「となるとマインド系の能力者もいると考えた方が良いってことだな? つーことは、人間のハッカー数人と、ワープができる能力者と、マインド系の能力者に、犯人達を捕縛する者達数名を含めた共犯ってことか……。結構な人数になっちまうな」
「そうだね……聞けば、土地とか高級車とか絵画とか、そういった物に関しては、所有者本人が慈善事業団体に直接寄付の手続きもしているらしいんだ。もちろん捕まった所有者は否定しているけどね……」
嘉助が言う。
「それってどういう意味だい?」
杏子には嘉助が言わんとしていることが分からなかった。
「要はね、誰かが所有者に化けて手続きをしたか、あるいは所有者をマインドコントロール等で操って手続きさせたか……ということだよね。だって、手続き時に使った書類等からは所有者本人の指紋が確認されているからね。貸金庫から持ち出した際にも、虹彩認証を本人がクリアして開けているらしいよ」
嘉助は首を振りつつ杏子に説明した。
「おいおい、所有者の指紋や虹彩認証まで化け切るなんて、そんな能力者はいるのかい?」
杏子も驚きを隠せないようだ。
「う~ん……まあ、できない話ではないだろうね。でも、僕としては高度なマインドコントロールで操っていたと言う方が現実的だとは思うけどね……」
「やはりマインド系の強力な能力者か……って、それって益々ヤバいんじゃないか?」
マインド系の能力者はもっとも危険度の高い能力者として扱われていた。杏子が警戒するのも当然であった。
「だよね~……。それにハッカーもちょいと怪しいんだよね。ハッキングの痕跡も全く無いしね。真美ちゃんに聞いたら、通常のハッキングだったら全く痕跡が残らないということは無いそうだよ。元々システムに穴でも開けておかない限りは不可能だって言っていたからね」
「お手上げだな。これじゃあ霊界への応援要請も通らないだろうな」
「はぁ~……。頭が痛いね~」
再び嘉助は深いため息をつくと、背もたれに体を預けて天を仰いでしまった。




