<天然のお花畑>
偶然とはいえ池袋の喫茶店で、『やや推し』していた鷲見純二朗を貶める陰謀を見かけてしまったリピウス。
怪しい二人が喫茶店を出ていくと、彼らに監視装置を纏わせておいて、自分も店を出た。そして適当な人目のない場所から、ダイレクトに社宅へと戻った。
社宅の一室では、まだメイさんが熱心にネットから情報収集しているようであったが、画面を見るとアイドル系のグループ動画であった。
(メイは何を志向し始めたんだ……?)
そう思うと、少し怖さを感じたリピウスであった。が、今はそんな事も言っていられないので、メイさんに声を掛けた。
「メイ、すまないが鷲見純二朗という衆院議員が、今どんな活動をしているか調査してまとめてくれないか?」
「はい。了解しました、ご主人様」
そう言って、今までの動画を消して、鷲見純二朗の調査にすぐ取り掛かった。
ちなみに最近は、C国の書記長にも大きな動きもないので、概ねセバスとメイの二人が交代で追跡監視をすることにして、リピウスは比較的好きに行動していた。
そのため、リピウスは自宅へと戻り、先ほどの怪しい二人組の追跡調査を行うことにした。
喫茶店の話を聞いた限りでは、鷲見を不倫疑惑の記事で陥れようとしているようだ。だがその割には、例の写真程度では弱いと思われた。
「こんな程度の記事で陥れられるものかな?」
呟きながら、考え込んでいた。
その後の動きを追うと、記者の方は一応写真を元に、醜聞記事にまとめだしたようだ。
そして探偵の方は、事務所に戻ると早速依頼者に連絡を入れた。
当然リピウスは、その電話連絡に霊気を乗せて相手を特定し、そちらにも霊力ドローンでの監視を始めた。
その相手とは、国土交通省大臣の秘書官であった。
「おいおいおい! いきなり大物が出てきたじゃないか」
リピウスは意外なほど簡単に背後の大物が判明したので、少し拍子抜けしてしまった。
だが、なぜ大臣が連立与党で党は異なるとはいえ、同じ与党の鷲見を陥れようとしているのかが分からなかった。
その答えは翌日に、メイさんの報告を聞いて判明した。
メイさんの調査では、鷲見は最近与党内ではあるが、ある議員の不正資金疑惑を追及しているというのだ。それは同じ与党であるが、鷲見とは違う連立与党の議員であった。
そして黒幕の大臣も同じ連立与党の党首であり、疑惑の議員は自分の子飼い的存在であった。
「なるほどね〜……。まあ、よくある話みたいだな」
独り言を言いながら、内心は(なんか面白くないな)と思って、このまま放置してしまおうかと思ったりもした。
だが、一応「乗りかかった船」だ。大臣関係は昨日のうちに監視対象にしていたので、鷲見が追及している議員にも監視用の霊力ドローンを設置し、さらに鷲見純二朗の事務所を調べてそちらにも潜入させてみた。
すると、事務所内ではひと騒動起きているようであった。
「先生! これはどういう事ですか?」
秘書の金井という男が、鷲見議員になにやら食って掛かっていた。
よく見ると彼は手に何かを持って、鷲見議員に説明を求めている。
「金井、どうしたんだ? 何をそんなに怒っているのかな?」
鷲見の方は、なぜ怒られているのか分からず、相変わらずフンワリした様子に見える。
「これですよ、これ!」
秘書は鷲見議員の机の上に写真を叩きつけた。
(なんだ? この秘書は随分と無礼な奴だな……)
ドローンの映像を見ながらリピウスは思った。そして、今叩きつけられた写真を見ると……例の喫茶店で見た写真と同じものであった。
「あれ? なんで秘書がこの写真を持っているのだ?」
「ああ、この女性ね。三日前だったかな? 何か困っているみたいなので話しかけたら、『目にゴミが入って取れないの〜』とか言って涙を流していたから、見てあげたんだよ。それがどうかしたのかい?」
鷲見はまるで悪びれた様子がない。
(こいつ、天然だな……)
リピウスは思った。
「どうしたか? ですって。これはどう見ても不倫を疑われかねない写真ではないですか。こんなものが奥様にでも見られたら……」
金井は鷲見議員の奥様が怖くて騒いでいるのかもしれない、とリピウスは思った。
「ん? 不倫? まさか、僕がそんなことする訳ないじゃないか。僕は妻のアンナ一筋なんだからね」
と言いながら、机の上に置いてある妻の写真を手に取り、愛おしそうに眺めている。
「先生! それはこの金井もよく存じております。しかし、世間はそうは思わないかもしれないのです。いえ、奥様だってどう思われるか!」
金井は必死で窘めるが、鷲見議員は一向に気にならないようだ。
「アンナは大丈夫だよ。僕のことは信じてくれているからね。世間だって、僕が愛するアンナ以外の女性と付き合うなどとは思わないさ」
どうも、あくまで彼の頭の中は『お花畑』のようにリピウスには見える。
「先生! この写真を週刊誌に売って、不倫報道を広めると言ってきているのですよ」
金井がさらに必死で訴える。
「週刊誌に売る? 誰が? この写真自体、誰が撮ったんだい? 随分と変な角度で写されているみたいだけどね」
ようやく鷲見も写真の不自然さに気づいたようだ。
「今のところは誰とも分かりません。ただ、この写真を買い取ってくれという手紙が添えられていたのです。五百万だと言っていますが……」
金井は写真と手紙が入っていた封筒を取り出して机に置いた。見ると差出人は何も書いていなかった。手紙には「後で連絡を入れるので、金も用意しておけ」と書いてあるようだ。
「五百万!」
鷲見も流石に驚いたようだ。
「そうです。先生が言い値で買わないなら、週刊誌に売ることになると書いてあります」
「どうしよう? 金井……」
やっと鷲見は金井が騒いでいる意味が分かったようだ。
(やっぱ、こいつ天然だな)
リピウスはまた思ったのだった。




